第50話 転生者、急な話に頭痛を起こす
俺たちは魔王城へと戻ってくる。ちなみにだけど、ピエラも一緒だ。
ピエラがなぜ一緒かというと、獣人たちの扱いについていち早く伝えてもらうためだ。
魔王城の中では獣人の扱いは悪くはないが、数自体は少ない。
扱いが悪くない証拠としては、ヴォルフの存在だ。彼は魔王軍の中でもかなり地位の高いところに居る。単純に獣人が虐げられているのならそんな事はないはずだからだ。
おそらく前魔王は純魔族の出とはいえ実力主義者だったのだろう。
とはいえ、全体で見れば確かに少ないのは実情だ。しかし、獣人の待遇改善を下手に行えば、やっぱり他の種族からの反発は免れない。となると、純粋に獣人の分だけ雇用を増やすのが一番だろう。
「なあ、キリエ。どこなら獣人を受け入れてくれると思う?」
雇用を増やそうにも、城の中の事はあまり把握していない。なので、メイドも兼任するキリエに素直に意見を求めることにする。
「そうでございますね……。獣人の身体能力を活かすのであれば、軍部でしょうね。ヴォルフがいらっしゃいますから、分かりやすいかと」
「ふむふむ」
「それ以外だと、魔獣の世話や私のような使用人といったところでしょうか」
「それはどうしてかな?」
ちょっと引っ掛かったので、俺はキリエに確認してみる。
「獣人や動物系の亜人は、魔物や魔獣たちと心を通わせたり、言葉が理解できたりするのです。実際、アラクネのクローゼもクモなどの一部の魔物と心を通わせる事ができますからね」
「なるほど……」
「それに、体幹に優れていたり、体力があったりと、使用人向きなところがあるんです。ですので、そういった方向での雇用となるわけですね」
キリエから得た情報に、俺は納得しかなかった。
「とりあえず、その方向で雇用を増やすとして、人数は何人くらいにしようか……」
これも大問題だった。魔王城で働く魔族の数もよく分からないし、比率改善をするにもどのくらい雇えばいいのか分からなかった。
ところが、キリエから意外とすんなり答えが返ってきた。
「20人ほど居ればいいかと思います。半数は軍部で、残りは半々程度といったところですね。魔王軍の増強は急務なんですよ」
「それはどういうことだ?」
魔王軍の増強が急務とは一体どういう事なのか。気になるから間髪入れずに尋ねてしまっていた。
「魔王様が亡くなられて次の魔法が出現するまでの間、決まって厄災が動くんです。人間ですと知っている方はほぼいらっしゃらないでしょうが、私たち魔族の間では当然のように伝わっている話なんです」
キリエの話に、なんともなく嫌な予感がする。
「なあ、その厄災って、ドラゴン……か?」
「はい、その通りでございます」
やっぱりかぁーい!
ついつい心の中でツッコミを入れてしまう俺。
どうやらこの世界でも、ドラゴンは魔族とは違う勢力のようである。どうりでここまでドラゴンを一切見なかったわけだ。
「過去は魔王の死後どのくらいで厄災は動いてたんだ?」
「そうですね。季節が一巡りする期間の半分ほどまでの間ですかね」
キリエがなんとも分かりにくい表現で答える。1日以外の時間の概念はいまいち曖昧なようだ。
とはいえ、季節が一巡りするという単語から察するに、魔王の死後半年以内に厄災は動き出すということのようだ。
「まだ被害の報告は上がっておりませんから、厄災はまだ動いていないようです。ですが、期間のほぼ半分は既に過ぎておりますからね。警戒するに越したことはございませんよ」
割ととんでもないような事には思うのだが、キリエはとても落ち着いた様子で話をしている。
「ちなみに過去はどうだったんだ?」
「私が直接見聞きしたわけではございませんが、魔王軍が半壊するほどの被害が出たとの記録がございます。いくら魔王様を失った状態とはいえ、精鋭ぞろいの魔王軍を半壊させておりますので、厄災の実力というのはまったく侮れないものということでございましょう」
当時の魔王軍の実力がいかほどか分からないが、それでも半壊とはすさまじい攻撃力を持っていたことは想像に容易い。
しかし、なぜ魔王が死んだ後に動くのかはなかなかに解せぬところではあるな。魔王にけんかを売れない理由でもあるのだろうか。
どうしても気になるので、俺はキリエにそのあたりも確認してみるが、さすがにその理由を知る事はできなかった。
「しょうがないな。その厄災とやらが襲ってきた時に本人に聞いてみるとするか」
「左様でございますね。今回は魔王様が既に誕生されてますから、記録通りには参りませんでしょうね」
「私だって居るわよ。セイのためなら頑張れるわ」
黙って話を聞いていたピエラも、ここぞとばかりに話に割って入ってきた。
ピエラとて魔王を倒した俺の仲間の一人だ。
「気持ちは嬉しいが、ピエラを危険に巻き込むつもりはないよ。話を聞く限りは魔族との間で因縁があるみたいだしな」
俺はそういってピエラを牽制するが、ピエラにはまったく通じていないようだった。
「セイにとって問題だっていうのなら、私にとっても問題よ。幼馴染みである以上、無理やりにでも手伝うわ」
まったく、覚悟の固いわがままなお嬢様だ。いくら言っても聞きそうにないので、仕方なく俺はピエラの申し入れを受け入れる。
「だったらピエラ、早速獣人の集落に行って獣人の手配を頼む。こういう事は少しでも早い方がいいだろうからな」
「分かったわ」
ピエラは今しがた決まった獣人の新たな採用人数を伝えに、獣人たちの集落へと向かっていった。
「さて……厄災か。どうしてこうも次から次へと厄介な話が出てくるんだよ……」
やる事が終わって頭が痛くなった俺は、この日はもう休むことにして自室へ向かったのだった。
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