第49話 転生者、ウネの力に驚愕する
獣人たちの住む集落の中で、魔王城から遠い場所へとやって来た俺たち。
今回の要望を受けて拡張するのはこの辺り一帯である。やって来る間にバフォメットから借りた地図でおおよそは確認しておいたのだが、今回拡張する面積は現在の集落の面積の約3割くらいだ。
ぶっちゃけて言えば、これでもかなりまだ獣人の居住状況は改善されないだろう。でも、今よりはかなり改善するはずである。
なぜ一気に拡張しないのかというと、他種族への配慮があるからだ。あまり一気にやると、俺が獣人優遇をしていると訝しむ連中が絶対出てくるはずだからな。
正直言うと俺はのんびり暮らしたいので、そういういさかいは勘弁願いたいところだ。なので、最初に獣人のところにてこ入れをするわけだが、小規模にとどめたというわけである。
それはともかくとして、獣人の居住地域を他の種族に劣らない規模にするための開拓を始める。
予定地は見渡す限りの荒れ地となっている。これも、他の種族を牽制するためだ。いい土地を与えたら3割増とはいえ文句は出るのは必至だろう。そのくらいに獣人の地位というのは魔族の中でも低いらしいんだ。
「魔王様、ここを開拓すればいいわけね」
「ああ、頼むよ、ウネ」
「任せる」
俺が許可を出すと、ウネは両手をかばっと広げて掲げると、魔力を集中させて地面へと振り下ろす。
すると、ウネの魔力が地面へと吸い込まれていった。
「うん? 何も起きないな」
「そうね。何も起きないわね」
俺とピエラが首を傾げている。
その次の瞬間だった。
突然、地面が激しく揺れ始めたのだ。
「なんだ、地震か?!」
「じ、地面が揺れているわ」
あまりに急な事だったので、俺とピエラは慌てた様子を見せている。
ところが、魔族であるキリエたちは、実に落ち着いた様子でじっと前を向いていた。
ぴたりと揺れが収まったかと思うと、今度は地面から勢いよく何かが飛び出してきた。
「これは……木か?」
そう、地面から突き出してきたのはたくさんの木だった。
「ここを、緑あふれる場所に変えるの。ドライアドの力を使えば、このくらいわけないの」
淡々と喋るウネである。
それにしても、なんともつかみどころのない魔族なのだろうか。
にこにことしていたり、かと思えばはしゃぎ出したり、果ては淡々としていたり……。どれが本当のウネなのかまったく分からないときたものだ。
「ドライアドもアルラウネも、こんな感じで性格や感情が安定していないのですよ。気にするだけ無駄ですよ」
俺が頭を悩ませていると、キリエからこんなアドバイスが飛んできた。つまりは気まぐれということらしい。魔族に分類されるけれど、精霊に近しいがゆえの気まぐれのようだった。
キリエの話に納得している俺たちだったが、その間にもウネによる開拓は順調に進んでいた。
新たな木が生えることによって、現場に生えていた古い植物は文字通り根こそぎ掘り返されていた。いわゆる新陳代謝といったところだろう。
それにしても、本人は大した事なさそうな表情をしているが、やってる事の規模はなかなかえげつないものだ。広範囲にわたって新たな木を生やして古い植物をすべて追いやっているのだから。
ぼーっとしている間にも、ただの荒れ地だった場所が段々と緑あふれる場所へと作り変えられていく。その凄まじい勢いには、ライネスたち獣人たちも驚きとともに見守ることしかできなかった。
時間にしてどのくらい経っただろうか。ウネは手を地面から離していた。
「これで完了。どう、わちの力はすごいでしょ」
得意げに俺たちを見るウネ。だが、驚きのあまり俺たちの誰も反応する事ができなかった。ただ一人を除いて。
「さすがですね、ウネ。何度見ても惚れ惚れしますよ。これは私たち純魔族でも不可能ですからね」
手を叩いてウネを褒めるキリエである。これにはウネは照れくさそうに顔を赤くしながら頭の後ろを擦っていた。
「キリエに言われると、とても嬉しい」
「さて、次はこの木を使って居住地域を形成していくだけですね。それなら獣人たちでも十分でしょうか」
ウネの頭を撫でながら、キリエはライネスの方を見ながら言葉をかける。
すると、ようやく我に返ったライネスが反応を見せていた。
「ああ、獣人たちの中にはそういう事を得意にする種族はいますからね。これだけしてもらえただけでもありがたいですよ」
「では、ここからはお任せ致しましょう。獣人たちの新たな採用については、城に戻ってから魔王様と相談してから改めて通達致しますので、今しばらくお待ち下さい」
「はっ、承知致しました」
キリエの言葉に、ライネスは片膝をついて返事をしていた。こういうところはさすが参謀っぽい雰囲気を醸し出していた。
「それでは魔王様、私たちは魔王城に戻りましょうか」
「あ、ああ。そうだな……」
呆然としていた俺たちは、キリエの呼び掛けに応じて魔王城へと戻ることにしたのだった。
その間、一仕事をやり終えたウネは相当疲れたらしく、うつらうつらと夢心地に落ちていたのだった。
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