第37話 転生者、いろいろ気にする
夜が明け、いよいよ魔王領の視察を再開させる事になる。
目を覚ました俺たちは、キリエとラビリアの手によって服を着替えさせられる。
「なんか、いつもと違った感じの服装だな」
「わ、私にも服があるんですか」
俺とピエラはそれぞれに違った反応を見せていた。
というのも、俺が着ている服は今までとは違った感じの服装だったからだ。なんというか軍服に近い感じのデザインになっている。
ピエラの方も、魔法使いっぽい格好ではあるものの、今まで着ていた服とはなんとも雰囲気が違ったものになっている。
「今回向かう先が純魔族の方々の領域ということで、わたくしができる限りの腕を振るわせてもらいましたわ。どちらも2着ずつございますからね」
ひょっこりと顔を出すクローゼである。面識がないはずのピエラの服まで作っているとは、なんとも恐ろしいアラクネだな。
「ふふん、わたくしを誰だと思っていますの? そちらのお嬢ちゃんの情報もちゃーんと仕入れてあるのよ」
ものすごく自慢げである。
まあ、ものすごく似合っているから、深く追及するのはやめておこうと思う。どうも話が長くなりそうな感じがするからな。獣人としての勘がそう告げているのである。
なので、俺はクローゼとは話をしないで、ピエラの方を向いて話をしている。
「ピエラ、すごく似合ってるぞ」
「あ、ありがとう、セイ……」
俺が褒めると、照れくさそうにするピエラだった。
それはともかくとして、なんだか俺もピエラもスカート短くないかな。正直言うと、そこだけが気になるところだ。
くるりとクローゼの方を振り返る俺だが、クローゼはにこにことしたを見せていた。
「魔族の間では、スカートは短い方が流行っていますからね。そこらへんは人間たちとは感覚が違うというやつでしょうね」
「いい加減にその顔やめてくれないかな。なんでそんなに嬉しそうなんだよ……」
「スカートが短いからじゃなくて、作った服がとても似合っているからよ。仕立て屋として、それほど喜ばしい事はないのではなくて?」
「確かにそうですね」
クローゼの言葉に納得するピエラである。その姿を見せられては、俺も納得せざるを得なかった。
だが、元男としては短いスカート着るのはなんとも心もとないんだよ。見るのと着るのとじゃえらい違いなんだ。
そう声に出して叫びたいところだが、さすがにピエラにドン引きされそうなので心の中でだけ思っておく俺だった。
「よし、これ以上服の事を気にしても仕方ないな。純魔族たちに会いに出発するぞ」
もうやけくそだ。
気にするくらいなら、他の種族たちにも会って確認してみればいいんだ。本当にこういう格好が魔族の間の流行りなのかどうなのかをな。嘘だったら承知しないからな、クローゼ。
俺がそう思った瞬間、クローゼの笑顔が凍り付いた気がした。
「クローゼの戯言は聞き流す方がいいですよ、魔王様。メイド服を着ている私を見ても分かりますが、みんながみんな短い方を好むわけがないんですよ」
「そ、そうだな。もうスカートの話題は終わりにしようぜ……」
「そうよ。さっさと出発しましょう。早く魔族たちに会ってみたいもの」
魔王領に住む気満々のピエラは、魔族たちに出会えることをとても楽しみにしているようだ。そのせいでものすごく急かしてくる。
これを受けて、キリエとラビリアは顔を向き合わせてこくりと頷いた。
「それでは、馬車を正面へと回して来ますので、魔王様たちはラビリアと一緒にお向かい下さいませ」
キリエはそう言うと、一足先に部屋を出ていった。……クローゼの耳を引っ張りながら。
「い、痛い。やめろキリエ、離してくれ、ちぎれてしまう」
あまりの痛さにいつもの口調が崩れているクローゼだった。その姿に、俺たちは心配すればいいのか笑えばいいのか分からずに、しばらく立ち尽くしていた。
しばらくして我に返った俺は、ピエラに向かって声を掛ける。
「とりあえず、城の正面の入口に行こうか」
「そ、そうね」
「では、ご案内致します」
俺たちはラビリアの案内で、魔王城の正面の入口へと向かう。その中で俺は、クローゼに対してご愁傷さまと、一応気遣った。自業自得なので気持ち半分だけどな。
正面の入口で待つことしばらく、見慣れた馬車が正面の入口に姿を見せた。
「お待たせ致しました、魔王様、ピエラ様」
馬車の中からバフォメットが降りてくる。
「それでは、早速参りましょうか、魔王様」
続いて姿を見せたキリエだが、その姿は見慣れたメイド服ではなく王国で一度だけ見せた参謀スタイルだった。
「キリエ、そっちの姿なのか」
「はい。こちらの姿でないとお父様やお母様たちを納得させられませんから……」
淡々と答えているように見えるキリエだが、獣人となったせいか気持ちの機微にも敏感になった俺は、その胸中を見抜いていた。
そういえばキリエはエリート魔族だとか言っていた。だから、メイド服の状態では実家へと戻れないのだろう。
「うわあ、キリエさん、かっこいいですね」
ピエラが正直な感想をぶつけると、キリエはちょっと照れているようだった。
「それでは、早速出発すると致しましょう。ささっ、魔王様こちらへ」
「ああ」
バフォメットに言われて俺たちは馬車へと乗り込む。
そして、準備が整うと、馬車は純魔族たちの住む街へと向けてゆっくりと動き出したのだった。
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