第31話 転生者、謁見する

 しばらくすると、俺たちはマールンに連れられて城へと向かっていた。どうやら許可は無事に下りたらしく、謁見できる事になったようだ。

 ただし、俺たちが乗ってきた馬車とピエラの馬は王都の入口で預かってもらうことになった。俺たちはマールンが用意した馬車に乗って移動している。ついでにカーテンまで閉じられていて、表から見えないようにまでされていた。


「悪いな。魔族が居るとなると王都の住人が騒いでしまうからな」


「人間たちは相変わらずなのですね。私たちは別に何とも思っておりませんのに」


 マールンの言葉に、キリエが呆れているようだった。


「魔族は人間に対してそんな感じなのか?」


「いえ、さすがに全員というわけではございません。私たち使用人たちというのは、比較的主人の種族を気にしないタイプでございます。主人のために活動できる事を喜びと考えておりますので、魔族であろうと人間であろうと気にしないのです」


「へえ、そうなのですね。ラビリアもそうなのですか?」


 セイが問い掛けると、キリエは淡々と答えていた。これを聞いたピエラはラビリアに話を振る。


「私も獣人とはいえ使用人タイプですので、基本的にはキリエ様と同じ考えでございます。ですので、ピエラ様にしっかりとお仕えしたいと考えております」


 最初はおどおどした感じのあったラビリアだが、今回の質問にははっきりとしっかり答えていた。ここ数日間の付き合いですっかり慣れたんだろうな。もふられているのは抵抗が少しあるみたいだけどさ。

 ちなみにこのラビリア。眠る際にはピエラにべったりとくっつかれているらしい。ピエラのもふもふ好きは相当筋金入りのようだった。

 それはさておき、俺たちの乗った馬車はついに城へと到着する。なんて久しぶりなんだろうな、ここに来るのも。最後は追放を言い渡された時だったな。

 いい思い出が最後の記憶のせいですっぱり消えてしまったものの、久しぶりに来ると懐かしくなるのは不思議なものだぜ。

 城の入口にたどり着いて、馬車から降りる俺たち。

 ここで馬車を別にしていたマールンとハミングウェイ伯爵とも合流をするのだが、同時に、周りからはなんともいえない視線を向けられる。

 その冷ややかな視線に、俺は人間と魔族との間の考えの差というものを実感させられる。

 追放された時は少々精神が滅入っていたのでよく分からなかったが、すっかり回復した今なら嫌というほど分かってしまう。


(どっちかというと、魔族の方が寛容な感じだな。あれだけ多種多様な種族がいればそうなっちまうかな)


 マールンの後についていきながら、俺はそんな風に思った。

 魔王領に行ってはっきりした現実に、思わずため息をつきそうになってしまう。しかし、周りからの視線が多い状況では、控えておいたほうがよさそうだった。

 黙々と歩く中、俺たちはいよいよ謁見の間へと到着する。

 俺たち人間側が緊張する中、キリエとラビリアの二人にはそれほど緊張が見られないようだ。魔族というのは胆力が違うようだ。

 マールンとハミングウェイ伯爵が話をして、ようやく扉が開いて俺たちは中へと歩み入る。

 目の前には久しぶりに見る国王と、……親父、コングラート侯爵の姿もあった。

 国王の方は特に変わった様子はないものの、親父の表情はかなり険しい感じだった。

 魔族となった息子と勝手に居なくなったピエラの行動に、さぞかしご立腹といったところだろうか。とはいえ、国王が居る手前、怒るに怒れないという状況だ。それもあってさらに不機嫌って感じなんだろうな。


「皆の者、面を上げよ」


 跪いている中、国王が声を掛ける。それに従って、俺たちは顔を上げる。


「何事かと思えば、魔族が一体何の用だ」


 言葉とは裏腹に、国王の表情は穏やかだった。

 しかし、どうやって言葉を切り出そうかな。一応以前に一度会っているから、久しぶりみたいな事を言えばいいのだろうか。思わず俺は迷ってしまう。


「国王陛下、失礼ながら申し上げます」


 俺が迷っている間に、ピエラが口を開いていた。


「なんだ、申してみよ」


「はい」


 国王は咎める事なくピエラに発言の許可を出す。


「今回セイたちは、勝手に魔王領へと向かった私をわざわざ送り届けてくれたのです。王国が魔族に対していい感情を持っていない事を知りながらでございます」


 ピエラの言葉に、国王は俺の方を見る。


「それと、セイが自分が居なくなった後の王国の事も憂いていました。自分が追放された事でコングラート侯爵家は跡取りがいなくなったんです。それに加えて私まで居なくなったら、王国内の力関係はどうなるのかと」


「う、ううむ……」


 ピエラが必死に訴えると、国王は唸り、親父も表情を歪めていた。やっぱり懸念材料だよな。


「おい、私では不十分だというのか?」


「マールン、お前の家は子爵家だろう? となると、力関係においては不利なんだよ。せめてお前が爵位を持てば少しは変わるだろうけどさ」


「うーむ、確かにそうだな……」


 俺が指摘すると、マールンは黙り込んでしまう。

 はてさて、ここからどうしたものだろうかな。

 謁見の間に沈黙が広がっていた。

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