第30話 転生者、王都に戻る

 ハミングウェイ伯爵邸を訪れたマールンは、早速ピエラと面会しようとして門番に声を掛ける。


「こ、これはマールン様。ピエラお嬢様ですか? あっ、いえ、その……」


 ところが、どういうわけか門番の歯切れが悪い。


「どうしたんだ。はっきり言っておくれ」


 しどろもどろになる門番に迫るマールン。

 だが、その時だった。


「ハミングウェイ伯爵様にお伝えする事がある。会わせてくれないだろうか」


「どうしたんだ、騒々しいぞ」


 マールンの質問をはぐらかすように、門番は突然やって来た兵士に怒鳴る。

 あまりの剣幕に思わずびびってしまう兵士だったが、すぐに気を引き締め直して報告を始める。


「王都の外に魔族が現れたのだ。詳しい話は伯爵様にお会いしてから話す」


 兵士が鬼気迫った表情でいうものだから、門番は仕方なく兵士を屋敷の中へと案内することにした。


「俺も連れていってくれ。これでも魔王と戦ったんだからな」


「わ、分かりました。では、お入り下さい」


 兵士に案内されて、マールンたちはハミングウェイ伯爵と会うことになった。

 魔族が現れた以外に一体何があるのか、マールンは気になって仕方なかった。


 ―――


 その頃、王都の入口で待ちぼうける俺たちだった。


「やっぱり王都の中にはすんなり入れないか」


「仕方ないでしょう。今のせいは魔王なんだから。それに、これだけ魔族を連れていてすんなり入れると思っている方が変よ」


「確かにな……」


 ピエラのツッコミに、俺は馬車の方を見る。

 とはいっても、魔族はキリエとラビリアの二人だけだ。多くないよな?


「何を言っているのよ。私以外全員魔族でしょうが」


「俺もカウントされるのかよ」


「当たり前でしょう。今のあなたの立場、理解してるわけ?」


「ううっ」


 ピエラからの厳しいツッコミに、俺はたじろぐしかなかった。

 そうだよ。今の俺は魔族たちの頂点である魔王なのだ。その肩書があって魔族じゃないのかといわれたら、きっと人間であっても魔族なんだろうな。

 俺はショックを隠し切れなかった。


 しばらく待っていると、王都の門から見た事のある顔ぶれがゆっくりと出てきた。


「お父様……。それとマールンだわ」


 そう、ピエラの父親であるハミングウェイ伯爵と、俺たちと一緒に魔王を討伐した仲間であるマールンだった。


「いやぁ、マールン。実に久しぶりだな」


 俺は右手を上げてマールンに声を掛ける。


「その毛並み……。そうか、追放されたセイか。ずいぶんとあの時と姿が違うな。見間違えたぞ」


「まぁな。今は魔王領の領主だから、服装自体はちゃんとしないといけないからな。でも、ちゃんとした格好でいられるのも、ここにいるキリエのおかげなんだよ」


「お褒め頂き恐縮でございます」


 キリエは普段と変わらない様子で頭を下げている。


「おい、ピエラ。お前、まさか魔王領に行っていたのか」


 ハミングウェイ伯爵がピエラを怒鳴りつけている。

 まあ、勝手に居なくなったのはピエラだからなぁ。これだけ怒られるのも無理はないだろう。勝手に魔王領までやって来たピエラが悪いので、俺はしばらく様子を見ることにした。


「はい。魔王領に送られたセイの事が心配で、居ても立ってもいられなくなって向かいました。お父様がご存じないのも無理はありません。使用人たちには黙ってたもらいましたから」


 頭は下げずに、堂々とした態度で父親の質問に答えるピエラ。さすがは魔王とも戦っただけあって、度胸は人よりもある。

 あまりに堂々とした態度に、ハミングウェイ伯爵は怒りは収まらずとも、なんと言っていいのか分からずに口を忙しく変形させていた。なんと言っていいのか分からないようだった。


「そこでお父様。私から意見がございます」


「なんだ。言ってみろ」


 ピエラが真剣な表情を向けてくるものだから、ハミングウェイ伯爵は思わずそう言ってしまう。


「私、やっぱりセイの手伝いをしたいのです。つきましては、私も魔王領に出向く事の許可を頂きたいのです」


「ダメだ、許さん」


 ピエラの申し出を秒で却下するハミングウェイ伯爵。いくらなんでも早すぎないか?

 しかし、ピエラの方はその答えを予想していたようで、首を横に振っていた。


「お父様ならそう言うでしょうね。でも、私にも理由はあるわ」


 ピエラはそう言うと、俺の方へと歩み寄ってきた。

 そして、俺の隣に立つと、俺の手を握りしめてこう言い放った。


「私はセイの事が好きなの。好きな人のために何かをしたいのよ。だから、私はセイと一緒に魔王領に行くわ」


「な、なな、何を言ってるんだよ、ピエラ!」


 急なピエラの告白に、俺は激しく気が動転している。

 しかし、キリエとマールンはやっぱりかといった表情を見せていた。二人は薄々気が付いていたらしい。


「ならん。お前はこの国にとって必要な人材だ。よそにやるわけにはいかんのだ」


 ハミングウェイ伯爵も意地になって引き止めようとする。

 まったくやっぱりこうなるんだよなぁ。


「まあまあ、とりあえず落ち着いてくれよ。なにも話はピエラの事だけじゃないんだからさ」


「どういう事だ、セイ」


 マールンが首を傾げている。


「和平交渉ってやつかな。今の俺は魔族を率いる立場になっちまったしな。できれば国王を交えて話をしたいんだ」


「ああ、なんとなく分かった。だったら俺の名前でどうにか謁見できると思うから、ちょっとここで待っていてくれ」


「頼んだぜ、マールン」


 ピエラとハミングウェイ伯爵のいがみ合いが続く中、マールンはひとまずその場を離れて城へと向かっていったのだった。

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