第21話 転生者、いいように遊ばれる
「ピ、ピエラ?!」
部屋に入ってきた人物を見て、俺も思わず固まってしまう。ピエラの横では、カスミがにししと笑っている。カスミは俺がどういう状況か分かった上でピエラを通したらしい。なんて奴なんだ……。
ピエラは顔を両手で覆っている。それというのも、俺の今の状態は着替えの真っ最中だからだ。
とはいっても、キリエとクローゼによって次の衣装を着せるために、軽く服を脱がされ始めたところだった。
いや、俺の体は全身長い体毛に覆われているから、別に見られても恥ずかしくはない……というわけにはいかなかった。
見られた相手が幼馴染みのピエラだからこそ、問題になるというものだった。
「な、なんて格好しているのよ、セイ」
「な、何って。この二人に作った服の試着をさせられてるんだよ」
「えっ?!」
ちらちらと俺の方を見ながら怒鳴るピエラに、俺は状況を簡単に説明する。すると、ピエラは驚いてまた固まっていた。一体どうしたっていうんだよ。
「おや、どちら様かと思えば、確か以前城に押し入ってきた人間の一人ではありませんか。よく覚えていますよ」
キリエが俺から手を離し、ピエラの方をじっと見ている。
「な、なんでしょうか……」
そのキリエの視線に、思わず身構えてしまうピエラ。
しかし、キリエはピエラの顔を確認すると、再び俺の方へと振り向いた。
「確か、この方は魔王様の幼馴染みの方でしたね。突然の来訪と、合図無しの入室は感心致しませんが、入室はそこのカスミがわざとやらかしたようですので大目に見ましょう」
俺の目の前まで移動したキリエは、ちらりとピエラに視線を送りながら話し掛けている。そして、俺の後ろに居たクローズを押しのけると、その位置に立って俺の肩に手を掛ける。
「どうでしょうか。せっかく来られたわけですから、私たちと一緒に魔王様の服の試着にお付き合い致しませんか?」
「ちょっと待て、何を言ってるんだ」
キリエがピエラに向けて変なことを提案するものだから、俺は慌ててキリエに文句を言う。
ところが、キリエは俺の言葉にはまったく耳を貸さず、ピエラに向けて柔らかな笑顔を見せている。その顔を見たピエラは、キリエの考えを理解したのかこくりと頷いてた。
「おい、ピエラ。お前、本気か?」
俺が問い質しているにもかかわらず、ピエラはまったく反応しないで俺に近付いてくる。そして、俺の目の前までやって来ると、鼻先に人差し指を押し付けた。
「今までどれだけ心配したと思っているのよ。それなのにあなたはこんなところで魔族の女性とイチャイチャしてるなんて。許せないから、私も混ぜなさい」
「おい、ピエラ。何を言ってるんだ。訳が分からないぞ」
俺の意思を完全に無視して、ピエラも服の試着に加わった。
結局、ピエラ、キリエ、クローゼの三人におもちゃにされながら、俺はクローゼが仕立てた服のすべてを試着したのだった。勘弁してくれ……。
すべての服の試着が終わると、クローゼは調整の必要な服を拾い集めている。
「さすがに獣人ということもあって、服の仕立ては一筋縄ではいかなかったですわね」
「そうですね。しっぽ穴だったり、毛皮の量だったりで、私たちと同じという風にはいきませんものね」
キリエとクローゼは服について意見を交わしている。
その一方で、ピエラはどこか呆けた表情でソファに座っていた。
「おい、ピエラ、一体どうしたんだよ」
俺の声に驚いて、顔をぶるぶると左右に振るピエラ。
「な、何かしら、セイ」
どうにか取り繕うとするピエラだが、さすがに目の前の相手にそんなものが通じるわけない。俺は困惑しながらピエラを見つめている。
「お、驚いたわね。もうちゃんと声が出るようになってるんだ」
「食事もちゃんとしてたからな。この姿に慣れたっていうのもあるだろうけどさ」
「そ、そうなんだ……」
ちゃんと反応を返すと、ピエラはどこか残念そうな表情をしている。なんかおかしなことを言っただろうか。
俺とピエラが黙り込んでいると、キリエが近付いてきた。
「魔王様、お食事の用意ができてございます。ご友人と一緒にいかがでしょうか」
「ピエラの分もあるのか」
「もちろんでございますよ。魔王様のお知り合いの方なのですから、歓迎しないわけには参りません」
俺が驚いていると、キリエは当然という態度で淡々と答えてくる。
「それに、積もるお話もございますでしょうから、どうぞお二人でごゆっくりして下さいませ」
続けて出てきたキリエの言葉に、俺もピエラも思わず絶句してしまう。
ピエラと二人っきりなんて、一体いつぞやぶりの事だろうか。
小さい頃は幼馴染みで両親たちも居たから話ができていたが、前世社畜の俺が女と二人っきりで何が話せるというのだろうか。
いや、キリエやカスミたちとは話せていたけどさ。部下みたいな感じだから、どうにかやり過ごせてきただけなんだ。
とにかく、ピエラとは正直いって気まずすぎるんだよな。
キリエの機転によって、久しぶりにピエラと話す機会が訪れたのだが、俺はこの場を無事に乗り切る事ができるのだろうか。
はあ、心臓が口から飛び出そうだよ……。
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