第20話 転生者、着せ替え人形にされる

 魔王軍の実力者であるヴォルフとの戦いから7日ほどが経過した。この日、長らく姿を見せなかった人物が、ついに俺の前に姿を見せたのだった。


「ぜえ、ぜえ……。さすがに、人使いが荒いですわよ、キリエ……」


 アラクネのクローゼだった。

 彼女は俺の服を作るために、キリエの手によって監禁状態にあったのだった。ただ、ちゃんと食事を睡眠は取らせてもらっていたようなので、疲れている顔をしているけれどそこまでやつれた感じではなかった。

 一方のキリエの方はというと、まったく疲れた様子も見せずにただ満足げな顔をしていた。一体何があったというのやら……。


「魔王様の威厳を示す服を作ってもらっていたのです。となればそれなりに細部までこだわるのは当然ではないですか。何を言っているのですか」


 しれっとした表情のキリエ。隣のクローゼとは本当に対照的な姿である。

 まったく、くたびれたクローゼと満足げに笑うキリエの姿に、俺は一瞬笑ってしまったものの困惑していた。


「ささっ、魔王様。せっかくクローゼが仕立ててくれましたので、試着を始めましょう」


「ちょっとキリエ、待ってくれ。こ、心の準備が……」


「大丈夫です。私たち二人に任せて頂けましたら、魔王様は立っているだけで十分ですから」


 根拠のないキリエの言葉に、俺は必死に抵抗をする。ところが、俺はずるずるとキリエに部屋の中へと押し込まれてしまったのだった。


 俺がキリエとクローゼの二人に拉致されている頃、魔王城には予想外な人物が訪問してきていた。


「またここに来るとは思いませんでしたね」


 馬に乗った女性が、魔王城をじっと見上げている。

 俺と一緒に前魔王と戦ったピエラだった。一応冒険用に外套を羽織っているために、その姿はなんとも怪しさに満ちあふれている。


「止まれ。お前は一体誰だ」


 当然ながら、門番に止められてしまう。

 すると、ピエラは馬から降りて、外套のフードを脱いだ。

 その顔を見た門番たちが驚いた顔をしている。どうやら門番たちもその顔に見覚えがあったようだ。


「突然の訪問で申し訳ありません。セイに会わせて頂けますでしょうか」


「セイって……、新しい魔王様か!」


 聞き慣れない名前を聞いて考え込んだ門番は、先日の挨拶の事を思い出したようだ。そこで新しい魔王が確かに『セイ』と名乗っていたのである。


「となると、新しい魔王様の知り合いか。ちょっと待ってておくれ、案内役の者を呼んでくるから」


「あら、素直に案内してくれるわけではありませんのね」


「いや、俺たちは魔王様の今の居場所を知らないからね。魔王様の知り合いで勝ってこない相手に失礼をするわけにはいかないだろう」


 門番はそう言って門の中へと入っていく。

 しばらくして戻ってきた門番は、カスミを連れて戻ってきたのだった。


「魔王様への訪問客ですか。あたしは魔王様のもとへあんたを案内すればいいのね」


 じろじろとピエラを見て回るカスミである。


「あまり失礼をしない方がいいぞ。前魔王様を討ち取った連中の一人だからな、その子は」


 カスミに忠告する門番である。


「あ、やっぱり覚えているのですね。私もなんだか見覚えあるとは思ってましたけど」


「忘れるわけがあるものか。おかげで数日間立ち直れなかったくらいだからな」


「魔族もそういうところがあるんですね」


「おいおい、俺たち魔族だって心はあるんだよ」


 ピエラの漏らした言葉に、門番は引きつり笑いでツッコミを入れていた。こういう反応をされるとさすがにピエラも申し訳なく思ったようだった。


「それは失礼しました。私たちの間では心のない非道な連中として伝わっていますので、つい……」


 頭を下げて謝るピエラである。


「それで、あんたは何をしに来たのかしら」


 ここまでいってもカスミの言葉はものすごくとげとげしかった。ピエラに一体何を感じているというのだろうか。


「セイに会いに来ただけです。魔王の呪いを受けてからだが変化してしまったセイは、言われるがままに王都を追放されてしまったんですもの。幼馴染みとして心配になるじゃありませんか」


「ふーん、幼馴染みってことは子どもの頃からの知り合いってわけか……。そういう事情なら理解できるわね。ついて来て、案内するわ」


 ピエラの言い分に納得がいったカスミは、俺の居る場所へとピエラを案内している。

 ちなみにその頃の俺が一体どうなっているのかというと……。


「さあ、魔王様。次はこの服ですよ」


「や、やめてくれ。俺は着せ替え人形じゃないんだぞ」


 キリエとクローゼの二人にいいように弄ばれていた。

 ずっと引きこもっていたのは知ってはいたが、どれだけの服を作ったっていうんだよ……。

 すでに10着ほどは着せられているというのに、まだ終わりそうになかった。


「さすがはクローゼですね。どれもこれも魔王様にぴったり合っています」


「わたくしの裁縫にかける能力を甘く見てもらっては困るのですよ。さあ、魔王様。まだ服はたくさんあります。細かい直しもございますから、ひとまず全部着て頂きますからね」


「や、やめろーっ!」


 もういいようにされている俺である。こいつらめちゃくちゃだよ。

 そんな最中、ガチャリと扉が開いて、突然誰かが入ってきた。


「こちらですよ。感動の再会をお楽しみ下さい」


「失礼しま……す」


 部屋に突然入ってきた人物は、俺たちの様子を見て固まっていた。


「ピエ……ラ?」


 そう、入ってきたのは俺の幼馴染みであるピエラだったのだ。

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