第15話 転生者、ツンデレ妹と仕事をする

 キリエはクローゼの監視のために業務から離脱。その間は、妹であるカスミが俺の侍女として身の回りの世話と補佐をしてくれている。

 さすがあのキリエの妹だけあって優秀で有能なのだが、徹底的に俺に対して敵意を向けているのが玉に瑕だった。

 カスミの髪色は明るい青色である俺の毛色とかなり近い。そのあたりも敵意を向けてくる原因なのかもしれないな。

 キリエもカスミも肌の色は魔族っぽいイメージのある灰色がかった感じなだけに、明るい髪色との対比が目立っている。


「……何なんですか。あたしに何かついてるんですか?」


「ああ、キリエもだけど頭に角がな」


「角を見てどうするつもりなんですか。あたしたちのような純魔族なら、みんな角を持っていますよ」


 ごまかそうとすると、余計不機嫌にさせてしまったようだ。答えを返してくる時の顔がものすごく怖かった。

 姿もそうだけど、こういう時の感じも似てるあたり、さすがは姉妹だなと感じてしまった。


「はあ、どうしてキリエ姉はこんな人相手に平気でいられるのかしら。仕事である以上はちゃんとやりますけれども、用もなく話しかけないで下さいね」


 ズビシッと指を差されながら、俺に対して言い放つカスミだ。本当にこういうところはキリエとは全然違うな。

 とはいえ、午前中を魔王領の勉強に費やしている間のカスミの対応は、さすがとしか言いようがなかった。

 のどが渇いたと思ったらすぐに紅茶が出てくる。欲しいと思った資料がすぐ手元に出てくる。これが一流のメイドというものなのだろうか。

 ただ、その度にいちいちドヤ顔らしき表情を見せてくるあたりは、キリエとはまるっきり違う性格なんだなぁと思わされた。


「うーん、大体場所ごとの特色も分かってきたな。次は統治を誰に任せるかだな」


「お疲れ様です。そろそろ食事になさいますか?」


「ああ、そうしようか。カスミも一緒に食べるかい?」


 俺がついそんな声を掛けると、カスミは驚いた表情を見せていた。そんなに驚く事なんだろうかな。


「ど、どうしてもっていうのなら、同席してあげない事もないわよ。ただ、使用人と一緒に食事というのは、やめた方がいいと思うわよ」


「まあ、それは分かる。俺だって以前は貴族の嫡男だったんだからな」


「うげっ、あんた男だったわけ?!」


 元男だと聞いた瞬間に、露骨に嫌な顔をするカスミ。


「まぁ元ってだけだ。呪いの影響か、今はすっかり女だからかなぁ。まだ慣れないところはあるけど、いい加減に慣れないといけないな」


「なるほど、それで言葉遣いが荒っぽかったわけですね。理解しました」


 俺の説明に納得をしているカスミ。


「とはいえ、あたしがあなたを認めないのは変わりません。仕事ですから対応しているだけです。……それでは、昼食をお持ち致しますね」


 力強く言い切ったカスミは、とことこと部屋を出ていった。

 その姿を見送った俺は、ついつい笑みをこぼしてしまう。なんか可愛く思えたからだ。

 うーん、これがツンデレ萌えみたいなものなのだろうか。……いや、絶対違うな。うん、ありえない。

 俺はぶんぶんと頭を左右に振ると、カスミが戻ってくるまでの間に仕事を進めることにした。


 しばらくすると、扉をコンコンと叩いてカスミが戻ってきた。


「お食事をお持ちしました」


「ああ、入っていいよ」


「失礼致します」


 ワゴンに食事を乗せて、カスミが部屋に入ってくる。


「キリエの様子を確認してきたのかな。ずいぶんと遅かったみたいだしな」


「ええ、そうですね。クローゼ様が可哀想な事になっていましたね」


「……一体何をしているんだろうな、キリエは」


「考えない方がよろしいかと。あれでもキリエ姉とクローゼ様は小さい頃からのお知り合いですから、間違った事にはならないと思います」


「そ、そうか……」


 カスミの怯えたような態度に、つい警戒をしてしまう俺である。うん、しっぽがびりびりと逆立っているのがよく分かる。

 そんな中、カスミは持ってきた食事を俺の机の上に並べていっていた。先に書類を片付けておいてよかったぜ。まあ、片付いていたから並べてるんだがな。

 俺がその食事をじっと見ていると、カスミが話し掛けてきた。


「魔王様、さすがに毒なんて持っていませんよ。魔王様に何かあれば、私がキリエ姉に殺されます。普通の食事ですのでご安心下さい」


 さらっと怖い事を言っている。キリエってそういえば魔王に仕えることを誇りにしてたもんな。

 まあ、命あってのなんとやらだ。さすがのカスミもそこまでは愚かじゃないというわけだ。

 さて、これから食事だという状況なのだが、その前に俺はカスミに先に頼み事をしておく。


「なあ、カスミ。ちょっと頼み事をしていいかな?」


「構いませんよ。何でしょうか」


 どう見ても頼み事を聞くような態度じゃないカスミ。しかし、俺はあえてそれを咎めずに話を続ける。


「今すぐに会える統治関係の魔族っているのかな。バフォメットからいろいろ聞かされたけど、現地の者たちにも話を聞いてみたいんだ」


 俺の質問に、目を見開きながら瞬きをするカスミ。なんか変な事を言ったかな?


「畏まりました。でも、それならバフォメット様が一番早いですよ」


「そうなのか?」


「はい」


 どうやら、この手の話はバフォメットが一番早いらしい。なるほど、それであんな驚いた反応をされたのか。

 そんなわけで、昼食を終えた俺は、再びバフォメットと会うことになってしまったのだった。

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