第2話 転生者、いきなり退場?!

 魔王を討伐し終えて、マールンとピエラは目を覚まさないセイを連れて城へと戻ってくる。

 本来ならば魔王を討伐した喜びにあふれた帰還となるはずだったのに、セイの犠牲はそれだけショックが大きかったのである。


「ただいま……戻りました」


 城まで戻ってきたピエラの声が、とても弱々しい。

 どうした事かと戸惑う兵士だったが、マールンに背負われたセイの姿を見ていろいろと察したようだった。

 気遣いの声くらいは掛けたい兵士だったが、仕事は仕事と、ピエラたちを国王に謁見させるために城の中へと案内する。その間、一言の会話もなく、実に重々しい空気に包まれていた。

 いろいろと考慮した兵士は、王族のいる階層の客室へとピエラたちを通す。


「陛下をお呼び致しますので、しばらくこちらでお待ち下さい」


「……はい」


 兵士の声に、ピエラの小さな返事だけが響いたのだった。

 国王を呼びに行くと言った兵士が出ていくと、マールンがピエラに声を掛ける。


「お前だけでも座っていてくれ。俺はセイを背負っているから座るわけにはいかないが、そんな落ち込んだお前を立ちっぱなしにさせたくはない」


「……分かりました」


 マールンの説得に応じたピエラは、静かに椅子に腰かけた。

 しばらくすると、呼びに行っていた兵士とは別の兵士が部屋にやって来た。


「国王陛下が参られた。しかと迎えられよ」


 どうやら、国王がやって来たようだ。

 それを受けて、マールンはセイを背負ったまま、椅子に座っていたピエラも立ち上がって、そろって跪いて頭を下げた。

 再び扉が開き、ようやく国王が入ってきた。


「うん? 二人か? いや、そこに居たのか」


 国王はマールンたちの姿を見てそう呟いていた。

 なにせ魔王討伐に向かったのはそもそも三人だ。だというのに、パッと目に入ったのは二人。一瞬戸惑うのも無理はないだろう。

 背中に背負われたセイに気が付くのに少々時間がかかったのだ。


「マールンの背中に居るのはセイか。一体何があったというのだ?」


 国王が詳細を求めてくるので、マールンとピエラは魔王討伐の詳細をすべて話した。


「……そうか、無事に魔王を討伐したのはいいが、セイが犠牲になったというわけか」


 詳細を聞いた国王が、悲しむような目でセイを見ている。国王も相当に心を痛めているようだった。


「はい、犠牲にはなりましたが、死んではおりません。魔王は永遠の眠りとは言っていましたが、俺は……信じたくないです」


 マールンは声を絞り出すように話している。

 それもそのはずだ。マールンはずっとセイを背負っていたために、その心音をずっと聞いていたのである。

 ピエラも同じで、信じたくない思いがあふれて、今にも泣きそうな顔になっていた。

 その姿を見た国王は、心が締めつけられる思いだった。


「……分かった。しばらくは城で預かって、手を尽くすとしよう」


「よろしく、お願いします……」


 国王の言葉を聞いて、マールンもピエラもすがるような思いだった。

 二人とも呪いは専門外なのだ。ここは、王家の力に頼るしかなかったのである。

 こうして、眠り続けるセイは、城の一室へと運ばれていったのだった。


 ―――


 セイ、マールン、ピエラの三人が魔王を討伐したという情報は、瞬く間に国中へと伝えられる。ただし、セイが呪いを受けた事は伏せられた。

 もちろん、これは三人の生家にも伝えられたが、セイの実家であるコングラート侯爵家にだけは、魔王の呪いの件も伝えられたのだ。


「なん……だと……。では、息子は……」


「国王陛下の命令で、呪術に詳しい者が集められる予定ではございますが、魔王の呪いとなると、おそらくは……」


 城からの使いは、コングラート侯爵の反応に対して、とても歯切れが悪かった。

 大事な息子の悪い知らせである。とてもじゃないが、受け入れられるわけがないのだ。

 それに加えて、コングラート侯爵家には跡取りがセイしかいないという状況。つまり、跡継ぎがいなくなってしまったに等しいわけなのである。

 取り乱すなという方が無理なのだ。


「息子は……、息子は目を覚ますんですよね?」


 コングラート侯爵は、まるですがりつくように使いの肩を掴んでいる。力が入っているので痛いのだが、使いは気持ちを慮って我慢している。


「心中ご察し致しますが、現段階ではなんとも言えません。おそらくですが、こればかりは天に祈るしかないでしょう」


「そんな……」


 侯爵は膝から崩れ落ちる。夫人も人目もはばからずに声をあげて泣いている。

 コングラート侯爵家はセイのおかげで持ち直してきたために、そのショックは計り知れないのだ。

 悲しみに打ちひしがれるコングラート侯爵夫妻を前に、使いは帰ろうにも帰れなかった。予想はしていたものの、つらい仕事を引き受けたものだと今さらながらに後悔していた。


「……では、私はこれで失礼致します。こう言うのも非常につらいのですが、私個人としては早めに決断される事をお勧めします」


 使いは侯爵夫妻に告げると屋敷を去っていった。


 その日から、セイの実家であるコングラート侯爵家ただ一か所を除いて、魔王を討伐したという嬉しい知らせに王都は熱狂していたのだった。

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