異世界転生者のTSスローライフ

未羊

第1話 転生者、魔王を討伐する

 なんだって、こんな事になってるんだろうな……。

 やっと地獄のような日々から解放されて、今世は勝ち組だと思ったのによ……。

 なんで俺は、今こんな状況に居るんだよ!


 ―――


「いくぞ、魔王! これでお前も終わりだ!」


 はい、絶賛魔王討伐中でございます。

 どうも、俺はセイ・コングラート。割と裕福な侯爵家の長男だ。

 俺にはここより前の、別な記憶も存在している。

 社畜生活をしていた挙句、疲労と眠気に耐え切れず転落死。それが俺の前世の最期だ。

 ただ、次に気が付いたらなんか真っ白な世界に居て、幼少の時から人助けをしてきたからって、その褒美に異世界に転生させてやるって話になったんだ。

 情けない死に方をしたというのに、まさかのボーナスステージだ。

 当然ながら、俺は土下座してまでその話を受け入れた。

 そうやって転生してきたのが、今の俺、セイ・コングラートっていうわけだ。

 侯爵家なので、それなりに裕福だ。前世知識をうまく使って生活を改善してきた。

 この世界には魔法もあるから、それも駆使してしてやったりよ。


 だが、やりすぎたのはよくなかった。

 突然魔王が復活したとかいって、俺を含めた数名の優秀な人材が城に集められた。


 ……その結果が、今の状況っていうわけだ。


「バカな、我は魔王ぞ。こんな貧弱な人間どもに、負けるというのかあっ!」


 魔王の咆哮がこだまする。


「セイ、バフをもりもりいくわよ!」


「頼んだ、ピエラ!」


 後衛職である同い年のピエラが俺を含めた全員に強化魔法をかける。

 代々家が魔法使いの家系とあって、ピエラの魔法は一級品だ。

 家が近いために小さい頃からの付き合いがある。俺が面倒を見てやったら魔法の才能があったらしくて、ピエラは両親をあっという間に凌駕しちまったんだ。


「おお、力が湧いてくる。セイ、俺が隙を作ってやるから、確実にとどめを刺してくれ!」


「あたぼうよ!」


 でかい声で叫ぶこいつはマールン。ピエラほどではないが、こいつとも付き合いは長い。

 魔王の討伐隊は、なんと俺たち三人だけだ。

 俺が選ばれたのは規格外のあらゆる才能があった事。ピエラとマールンはどっちも俺が面倒を見て鍛え上げてしまった事に加え、俺とは友人関係にあったということで討伐隊に選ばれたんだ。

 まったく、まだ20歳にもなってないような子どもに、こんな過酷な真似をさせないでくれよな……。

 これじゃ、前世の社畜生活とあんまり変わりやしないぜ。

 だが、愚痴っているのもここまでだな。マールンが飛び込んでいったんだからよ。俺のやる事は、あいつが作った隙で魔王を倒す事だ。


 ――感覚を研ぎ澄ませ。


 俺は、マールンの攻撃に合わせられるように集中する。

 ここまで居た雑魚どもは全部蹴散らしてある。俺たちを邪魔する者は、もう居ない。


「やああっ!!」


 マールンが剣でいなし、さらに左手の盾で魔王を押し込んで体勢を崩す。


「今だ、セイ。やっちまえ!」


 マールンが叫んでいるが、すでに俺は攻撃を始めていた。


「ぬおおおっ、この魔王を力で押すとはっ! だが、あまりにも無策すぎたな、隙だらけだぞ!」


 魔王が自由の利く腕を振り上げる。マールンを殺すためにな。

 だがな、魔王よ。そんな目の前を見るだけとは、ずいぶんと焦ってるようじゃないか?


「死ねい、小僧が!」


 魔王がマールンに攻撃をしようとしたその時だった。


「あ?!」


 俺の剣が魔王を貫いていた。それと同時に、俺は魔王の苦手な属性の魔力を流し込んでいく。


「うおお、それは……っ!」


 自分の魔力と相反する魔力を流されて、魔王が苦悶の声を上げる。

 そりゃ苦しいだろうな。反発する力がより強い状態で体の中で激突を繰り返しているんだからな。

 だが、相手は魔王だ。最後まで何をするか分かったものじゃない。俺は確実にとどめを刺すために、もう一度剣を握る手に力を込める。


「もう二度と蘇らないように、とどめを刺してやる!」


 俺が魔王に斬りかかると、マールンがすっとどいて魔王が棒立ちの状態で露わになった。

 今の魔王は激痛に襲われて、ろくに反撃もできないはずだ。俺は、とどめの一撃を振り下ろす。


「ぐああああっ!!」


 俺の剣が魔王を捉えて致命的な一撃を加える。そして、仰け反って無防備となった胸部に剣を突き立てた。魔王の魔力の核は、人間の心臓と同じ位置らしいからな。


「こ、この我が……我がこんな小僧どもに……!」


 確実に魔力の核を貫いたというのに、魔王はまだしぶとく生きていた。どういうことだ?!


「お前だけは……、お前だけは道連れだ。我が力で永遠の眠りにつくがよい!」


 魔王のやつが、最後の力を振り絞って魔法を使ってきた。

 剣を抜きたくとも抜けない。手を離そうにも手も動かない。魔王の魔法は、完全に俺をロックしていた。


「ふははははっ、我は死すともただでは死なぬ。魔王に手を出したこと、その身に呪いとともに後悔を刻み込め! ……うっ、ぐはっ!」


 魔王は言いたい事だけ叫ぶと、血を吐いてその場に倒れ込む。そして、そのまま魔力を失って灰となって崩れ去っていった。

 それと同時に俺の意識が遠のいていく。嘘だろ、せっかく魔王を倒したというのに……。

 いくら揺さぶられても、俺の意識は段々となくなっていく。

 魔王は倒したというのに、マールンとピエラは喜びもなくその場に立ち尽くしていた。

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