第10話 入港と開店
惑星エルトリア入植から数ヶ月後、ワグナー社所有のスペースコロニーL2に入港する船の列の中に他の船とは違う塗装がされた輸送艦が浮かんでいた。
輸送艦の艦名プレートには食料輸送艦ベンチャー1と書かれていて新参企業を示すタグがついており艦長にしては異様に若い少年のクリスと支援AIのイリスがこの船の船員だ。
イリスがコロニーのドックへの入港許可を申請して待機していると
クリスが乗る輸送艦ベンチャー1に入港管理局から通信が入る。
若い男性オペレーターが映像通信で話しかける。
「こちらL2コロニー入港管理局だ、ベンチャー1の艦長に質問する。入港目的を確認したい。証明書は持っているか?」
「こちらベンチャー1入港目的と許可証を書いた書類をそちらに転送した、確認されたし。」
「.....確認した、ベンチャー1入港を許可する。ようこそL2コロニーへ」
コロニー内ドックへ続く入港ゲートが開く。
指示された4番ドック2-3に船を降ろす。
ロックがかかったのを確認すると商売の準備にとりかかるイリス。
「ふぅ...何とか入れたな。イリス、その体の調子はどうだい?」
席の後ろで作業しているイリスに問いかける。
『問題ありません、五感も正常に機能しています。』
「そうか...わざわざ特注したのは正解だね。」
大金を叩いた甲斐があったと小声で呟くクリス、
その目線には作業中の支援AIであり銀髪に赤い目の少女義体に入ったイリスの姿があった。
その姿はまるで雪の妖精...コロニーでは雪は降らないが四季がある惑星の住民が彼女の姿を見たらそう思うに違いないだろう。
船内作業を終え、コロニー内の購入しておいた空き店舗に椅子やテーブル、食材などを運び込む。
『それで...どうやって客を集めるのでしょうか、私たちはまだ無名の企業です。大勢に買って貰えるほどの知名度がありませんが...』
イリスは天然食材に慣れていない市民が本当に買うのか気になっているようだ。
クリスはグリーンノア内に保管されていた食のデータから人間の食事に必要な要素を学んでいた。料理とは全身で感じる、味わう物だと。
「簡単な話だよ、客はうまそうな香りで釣るに限る。人間の食欲を刺激するのは見た目ではなく匂いだ。美味そうな匂いに人は勝てん。故に初回は肉を使った料理で行く。ちょうど肉の生産も軌道に乗ったから頃合いだと思うからね。やっぱ人間肉が好きだからな。」
結論 肉という旨味の暴力で何とかする。
それがクリスの考えた作戦だった。
『了解いたしました。開店準備にかかります。』
数十分かけて開店準備を終えドアに掛けた閉店のプレートを開店に変えて数分
客が入ってきた。
記念すべき第一の客は近くに住んでいるのかラフな格好の老婆だった。
「なんだいこれは、新しい合成食料の販売店か何かかい?ずいぶんと変わった匂いじゃないか。」
老婆は調理中の食材が
『いいえ、これは天然食材でつくられた
調理前の食材をお皿に乗せて老婆に見せる。
初めて天然食材を見た老婆は驚愕を隠せない。
「こ...これが天然物の食料だって言うのかい!?詐欺じゃないだろうね。」
天然食材なんて物は金持ちでも一部しか食べられない物であるが故に一般人である自分達が食えるなんて夢にも思っていない老婆は詐欺では無いかと疑っている様だ。
『大丈夫です。農業惑星で製造された新鮮な天然食料です。疑うのでしたら無料で調理、提供いたしますので食べてみるのはどうでしょうか?』
「...わかったよ、試してみようじゃないかその天然食材って奴を」
カウンターに座り老婆は調理が終わるのを待つ。
その目線に期待を乗せて...
つづく
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