神に選ばれた少女と悟りを開いた少年の誇り
第31話 にいにを全うするのは命がけだ
俺の名前は東雲光龍、探偵業を営んでいるハードボイルドにしてその辺のドラマ俳優よりもイケている顔をした男だ。
そんな俺は東雲由良江の兄でもあるのだが、今俺史上最高最低にヤバい状況に陥っている。
「にいに……にいにぃぃぃぃ!!!!!」
「落ち着けって由良江……何があったんだ」
「あたじぃぃあたしぃぃぃ」
先ほどから意思疎通がろくすっぽできない妹をあやしているのである。何とか事務所内に引き込んだがいったいどうしたものか……と言うか16年くらいこいつのお兄ちゃんしているけれどこんなに泣きじゃくったところなんて初めて見た。
「あたし……あたしがあたしがあたしあたしあたしぃぃぃ」
「頼むから落ち着いてくれって。お前さっきからろくに喋れてねーぞ」
いつも傲岸不遜にして唯我独尊、この世は我が手にありと確信している顔なのに。まぁ何があったかは想像がつく、と言うかこいつがここまで乱れるのなんて間違いなく新悟くんがらみだろう。
フラれるのはいつものことだからここまでおかしくなるのはあり得ないだろう……となると新悟くんに他の女が出来たか?俺はそう推理した。だがそれを口にすることはない、こんな状態の妹にそんなことを言えばさらにメンタルブレイクすることは必至だからだ。
俺はそんな空気の読めない男じゃない、伊達にヒモ生活してねぇぜ。
「にいにぃぃぃ……あたしこれからどうすればいいの??
どうしていいか分かんない……もうダメ……もうダメなの………」
「いったい何があったんだ」
「あのね……あのね………あのね。
あたし、あたし………新悟を……」
新悟くんを?
「殺したの」
「ホワァイ?????」
何言った?この妹何言った?
殺した……え???マジで???いつの日か犯罪犯すかもしれないなぁとかは思っていたけど………と言うか多分ストーカー規制法とかに引っ掛かる行為をしていることは知っていたけれど。それでも次の犯罪をやるとしたら監禁だと思っていたのに………
「それマジなのか……」
自分のものにならないなら物言わぬ身体にして永遠に自分の所有物にするあれか、ヤンデレストーカーの最悪最凶最低の進化形態だぞ……いやいやいやいやないないないない。さすがにそれはない。
「殺したけど…マジ死する前に蘇生させたから……平気」
「何言ってんだお前」
落ち着け俺、クールになるんだ光龍。今の由良江は過去類を見ないほどに混乱している……意味の分からないことを言うのも至極当然だと言えるだろう。
「………いいか、まずは大きく息を吸うんだ。すーーーーって吸って、はーーーって吐くんだ」
「すーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
スゲー長い深呼吸。
「はー」
それに比べて吐くのみじかっ。
「ううっ………あたし」
そして止まらない涙。
「にいに……あたしは新悟に助けられたあの日から新悟に全てを捧げるって誓ったの……それまで傷つけていたあたしを殺して、絶対に傷一つつけない、命に懸けても守るって誓ったの…なのにあたし真逆のことしちゃった………」
「由良江………」
何があったのか正確には分からない………ただ痴情のもつれから何かとんでもないことをしたのは間違いないだろう。それは由良江がこれまで培ってきた圧倒的なプライドをこんな状態に萎ませ、粉々にするほどに大きなことだ。
「あたしはいつも新悟に甘えてた……どんな時でもしっかり受け止めてくれる新悟に愛をぶつけてきた……それが一方的だって分かっていたのに……好きなら我慢だって必要なのにあたしはほとんどそれができていなかった…………
あたしには新悟が必要だけど、新悟にはあたしなんて必要ない……一方的すぎる依存関係。それも質が悪いにもほどがある……死と隣り合わせのいじめした後は命を預けるほどの依存……そんなのゴミのやり方だって気づいていたのに新悟の優しさに甘えてた」
……久々に兄貴らしいことをしてやるか。
「まぁそれは間違いないな。お前は誰がどう見ても独りよがりな愛をぶつけてた……いいか、由良江この際だから、ハッキリ言っておく。
お前は面が完全無欠によくなかったら……いや、誰よりも美人な今であっても新悟くんが許しているだけのストーカーだ。それも相当厄介な」
「うっ……」
「ついでにセクハラ常習犯だ。その辺の露出狂よりも悪質だ」
「ううっっ!!」
「元ヒモであり、現探偵である俺だから分かる。お前が面の悪い男だとして、新悟くんが超美人だとすればそれはもう、とっくの昔に少年院にぶち込まれていてしかるべきほどヤバいことをお前はしまくってる!!!
悟りを開いている新悟くんじゃなかったら間違いなくいけない道にレッツゴーだったぞ!!」
「ううぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!」
由良江は強い子だ……完膚なきまでに叩き潰されても必ず復活する……今より一回りも二回りも大きくな……
「分かってるわよこの馬鹿にいにぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」
刹那……いや、それよりもさらに短い時間………俺の瞳に光が映った。瞬間、俺の背中に痛みが走る。どういうことだと思った次に腹部に激しい痛みが駆け巡った。
ああ、俺恐ろしいほどの速さで殴られたんだ………強すぎだろ。
「あたしを……追い詰めないで……にいにのくせに!!
慰めてよ……にいにの馬鹿!!!!」
そしてまた涙を流し始めた……俺は見誤ったのだろうか………こいつの戦闘ポテンシャルを……そしてこいつの我がままっぷりを………
「………慰めるさ………でもそのためにはまず現状をしっかり把握してだな………がふぅっ」
あっ駄目だ……痛すぎる……うちの妹ったら強すぎだろ……でもそんなところも誇らしいと思ってしまっている俺がいる………
最後の力を振り絞って俺は唇を動かした。
「暴力駄目絶対………」
こいつを本当の意味で更生させられるのは口惜しいが俺じゃないな……畜生め。
~~~~~~~~~~~~
うう………ここは………
確か僕は由良江の謎の光線を食らって……ああなるほど………
「そう言うことですか」
久しぶりですねここに来たのは。
「よーーーっす、またここにくるとは思わなかったどすえ」
「お久しぶりです」
光に包まれたこの空間、あまりに包まれすぎて眩しささえ感じない空間…僕がここに来たのは二回目です。
「以前は京都弁使ってませんでしたよね」
「最近推しの女優さんができてな、その人が京都出身なんよ。うち、染まるタイプなんや」
「多分エセ京都弁になってると思いますけど」
「うちの気分の問題やけ、ええの」
ふわふわと浮いているこの女性はツボミさん。以前僕が臨死体験した時にお世話になった女神です……ちなみに僕はこの空間やツボミさんのことを由良江が転生するまで夢の出来事だと思っていました。だって、こんなのあまりにも非現実的だったんですもん。
「で?今回はなんで死にはりましたの?」
「ヤンデレに殺されました」
「あらあら、それはお気の毒どすなぁ」
にんまりと笑うその顔に邪気が全く感じられないのが逆に不気味ですね。
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