第22話 癒される女の子なのです
僕と由良江が初めて出会ったのは小学3年生の冬です。家庭の事情で由良江たちが通っていた
当然転校する前にも僕は小学校に通っており、そして保育園にも通っていました。西園寺巫女子ちゃんはそんな僕の保育園時代からの幼馴染なのです。
「にしても本当に偶然だね。どう?成長したあたしは?」
「昔と変わってませんよ。すぐに分かりましたもん」
「え。そうかなぁ?結構可愛くなってると思うんだけど……
新悟は結構かっこよくなったし、随分落ち着いたね」
「お褒めいただきありがとうございます」
「ねぇ、さっきから気になってたけどその敬語何なの?あたしたちの間にそんな遠慮は無用、無遠慮で行こうよ」
「これは誰にでも使ってるんですよ」
「え?あの学校一の聞かん坊でクラスメイトにおちょくられて二階から飛び降りた新悟が?」
「黒歴史を思い出させないでください」
「何があったの?」
何がと言われたら……
「まぁ色々です。死にかけたり、溺死しかけたり、圧死しかけたり、窒息死しかけたり、刺殺されかけたり、臨死体験したり、悟ったり」
「ほぼ死にかけの思い出だね。よく生きてこれたもんだよ。えらいえらい」
「貴女との約束ですからね。元気に生きてますよ」
「あはっ。覚えててくれたんだ。あーんなちょっとした約束を」
「当然です」
「嬉しいね」
にしても本当に変わっていませんね。いるだけで心地よい。ヤンデレ由良江からは得られない感触です。
「それで巫女子ちゃんはこの街に何しに来たんですか?」
「ん?まぁちょっとした使命を果たすため……とかだったり」
「使命?何のですか?」
「いやぁ~~内容は恥ずかしくて言えないんだよね。でも今は暇だから一緒に遊ぼうよ。新悟も暇でしょ」
「はい」
「やった!」
そうして取り留めもない思い出話に花を咲かせながらショッピングモールに向かおうとしていると見た顔がいました。
「あっ、こんにちは」
「わんっ」
「小鳥遊さん、デリーさん、こんにちは。散歩ですか?」
「わんわんっ」
人前だからでしょう、デリーさんは犬語しか喋るつもりはないようです。
「そうですよ……ところでそちらの方は誰ですか?ご親戚の方ですか?」
「違うよ。あたしは西園寺巫女子、新悟の幼馴染なの。偶然ばったり会ったんだ」
「えっ!!??ご主人様の!!??」
「わわわんっ!!??」
瞬間、巫女子ちゃんが眉をひそめます。
「ご主人様??え??どういうことかな?まさか新悟、そういうプレイに目覚めたのかな?Mだと思ってたのにSだったの!?」
「違います。ちょっと複雑なんですが……まぁふしだらな理由ではありません」
「ふーん」
巫女子ちゃんが昔と同じ優しくも大人しい瞳で僕を見つめます。やがて頬をほころばせました。
「嘘ついてないみたいだね。それはそれでどんな関係ならご主人様呼ばわりされるのかって思うけど。よかった」
「あはは、人間生きてれば色々あるってことですよ」
「それには全くもって同感だよ。
じゃ、小鳥遊さんあたしたちはこの辺で」
「ちょっと待ってください。ご主人様、由良江様以外の女性と二人きりでいるなんて良いんですか?」
「別に問題ないでしょう」
「由良江ってだぁれ?」
「ああ、由良江って言うのはですね……うーん………僕が自分で言うのもあれなんですが僕に惚れているクラスメイトです。恐ろしいほどの美人でアプローチもめちゃくちゃグイグイくるんですよ」
「え?」
巫女子ちゃんは少し驚いた顔をした後に一瞬だけ目を逸らします。
「凄いじゃん。そんなに綺麗な子に好かれてるなんて。流石は新悟、徳を積みまくったんだね」
「違います、違います。確かに惚れられてますが僕は由良江に惚れて欲しいなんて少しも思っていません」
「え?そーなの???なんで?」
「何でって言われましても………」
虐められた過去とかヤンデレがすぎるところとか理由は色々あるんですが……言えませんよね。特に巫女子ちゃんには。
「何ででしょうか」
「すっとぼけちゃって。嘘はすぐにわかるんだよあたし。特に新悟の嘘はね」
巫女子ちゃんは先ほどよりさらに大きく目を開きました。強い眼圧を感じます。
「よーーーーーーく、とってもよーーーーーーーく新悟のことは見てたんだもん」
「由良江のことはどうしても好きになれないってことですよ」
「………ま、いいけどね」
ぷくりと頬を膨らませる様は昔と同じでした。
「そんなにむくれないでください」
「久しぶりに会った親友に秘密の一つを教えるくらいのサービスくらいしてくれないのかな?」
「しません」
「相変わらず頑固だなぁ」
「ふふふ、お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないもん」
「まぁまぁ、アイスを奢りますから気を直してください」
「安く見られたものだね。それで気を直すのは小学生のころまでのあたしの話、この成長した巫女子ちゃんはそんなんじゃ気を直さないよ。
パフェくらいじゃなきゃね」
「仕方ありませんね」
「やっふーー、そういうところ愛してるよ!!」
こんな会話も心地よい……一緒にいるだけで魂が安らぐ………それに嬉しい。
疲労しきった僕にとって巫女子ちゃんはオアシスですね。
そうして小鳥遊さん達と分かれた僕たちはファミレスに向かいました。向かい合ってゆっくりとパフェを待っている間にまた昔話をします。いくら話しても少しも尽きないほど僕たちの話はたっぷりとあり、言葉を交わす度に僕は昔のことを思い出していきます。
「ふにゅーーう…パフェ美味しい」
「幸せそうな顔してますね。分かりやすいのも変わってないようで」
「仕方ないじゃん。人の金で食うパフェほどパーフェクトなものはないもん。それはそうと新悟、そのわらび餅美味しそうだね」
僕のわらび餅を猛禽類のような目で見つめます。幼馴染でなくとも何を考えているのか分かりますね。全くもって可愛らしいことです。
「はい。あーん」
「えっ?」
僕がわらび餅をスプーンですくって口に近づけると何故か驚いた顔をして目を伏せました。
「えっと……そんなあーんなんて……しかもそのスプーンさっきまで使ってたじゃん……間接キスだけどいいの?」
「間接キス?」
…………しまった、普段由良江から口移しでご飯を食べることさえ珍しくないからまったく気にしてませんでした。
自覚したら身体が熱くなり、頬が赤らんでいるのが自覚できました。
「えっと……うっかりです」
「うっかりかぁ……まったくもう……新悟ったら」
「あはは」
「あはははは、もう」
互いの視線が交錯し、同時にはにかみました。長らく感じていなかった気持ちが湧き上がってきます。
願わくば、こんな時間がいつまでも続いてほしいもので「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」………
絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえました。
「許さねぇ!!!!俺は絶対にお前を許さねぇぇぞ!!!!!!!!!!美由子!!!!!」
「やめて!!そんなものおろしてよ!!!!!!」
「新悟、大変だよ。男の人が大きなナイフを女の人に向けてる!!!」
「………そのようですね」
僕に安らぎは訪れないのでしょうか。
~~~~~~~~~~~~~~~
一方そのころ新悟宅の風呂では
「お山ですわ……いったい何を食べたらこんなに大きくなるんですの?」
クレアが館母の胸を凝視していた。プニプニと突いて弾力を堪能する。
「愛情よ。貴女みたいな子の愛情をもらって、私の方からも上げることで母性本能を大きくすると自然とこうなったの」
「そうなんですの?」
「少なくとも私はそうだったわね。愛が一番の栄養なのよ」
「ほぇやっぱり愛って偉大なのですね…失礼しますわ……おお、もちやわですわね。毎日こんな感触を楽しめるなんて羨ましいですの」
「うふふ、好きな時に触ってもいいのよ」
「良いんですの?」
「ええ、貴女の様な可愛い四天王ちゃんならウェルカムよ。その代わりナデナデしていいかしら?」
「いいですわ。私の頭と貴女様のお胸で等価交換ですの!!」
「うふふ♡♡♡」
モミモミモミモミ
なでなでなでなで
「うふふふふ~~~~~」
「あはははですわ~~~~~」
「……癒されるっすね」
後にこののほほんシーンを見ていたパカーはこう口にした。
「魔王軍四天王ってこと完全に忘れるほどに和やかなムードでした。もしかしたら仲良くなれるかもしれないとか思いましたね」
ちなみにパカーは雌雄同体の存在であり、特段性欲とかはない。
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