使命をもった少女は幼馴染なのです

第21話 ロリっ子四天王は恋愛事情に興味深々なのです

「いやぁ、平和っすねぇ」


「そうですね」


 僕はパカーさんとのんびりゆっくりと将棋を指していました。


「由良江は来る夏休みに向けて僕を堕とすための策謀の準備の為にいませんし、最近はアプローチも軽いものになってきているので気楽ですね」


「孤島に拉致されたり分身した大量の姉さんから女体の山盛りセットを受けることは軽いアプローチなんすね……自分が言うのもなんなんすけど、感覚麻痺してませんか?

 あ、角とったっす」


「麻痺なんてとうの昔からしていますよ。

 あと角は囮です、ふふふまんまと引っ掛かりましたね」


「なっ!飛車へのプレッシャーが……くそ、これを対処しないと詰みになっちまうっす」


「筋は良いですがまだまだ経験が足りませんね。

 将棋は相手の考えを読み取り、いかにいやらしい手をさせるかの勝負ですよ」


「流石っすね。あと以前から気になっていたこともあるんすけどいいっすか?」


「何でしょうか」


 よし、見えましたよ。勝利への道が。この将棋、いただきました。


「旦那さんって姉さんのことマジで恋してないんすか?」


「………してないですね。そこだけは間違いなく断言できます」


「でも姉さんってあの容姿ですし旦那さんが世界で一番実感してると思うんすけど旦那さんへの愛は超一級品で純度100の純愛っすよ。やっぱり過去のいじめの経験のせいっすか」


 パカーさん、言いにくいことを聞きますね。


「まぁその面もありますね」


「その面『も』?

 他にもあるってことっすか?ああ、もしかして旦那さん初恋をこじらせているとかっすか」


 ……………………言葉尻をとりますねぇ。


「パカーさん、本当に貴方って人は。由良江からも聞かれたことありませんよそんなこと」


「ああ、そうなんすか。それもそれで意外っすね。姉さんなら旦那さんの全てを根掘り葉掘り芋ほり土堀り聞き出しそうなもんすけど」


「じゃあ、しんちゃんの初恋っていつなの?」


わたくしも知りたいですわ」


 なんか聞こえてきました。


「あの、すいません………館母さんいつの間にうちに入ってきたんですか?」


「さっき。ママってことで由良江ちゃんから合鍵はもらってたから入ったのよ」


「チャイムくらい鳴らしてくださいよ……まぁいいです。それよりそこにいる小さな女の子は誰ですか?完全無欠に知らない子なんですけど、親戚の子とかですか?」


「違いますわ。お姉ちゃんとは赤の他人ですの!!!」


 堂々と赤の他人を宣言した少女は少し長めの赤毛の髪の毛をツインテールにしていました。無垢な瞳と不可思議な底知れなさを持つ少女でした。両の髪の房を束ねている星柄のリボンが可愛らしいですね。


「私は一週間ぶりにしんちゃんを甘やかして堪らない衝動に駆られたからここに来たんだけど、来てみたらびっくり。家の前でこの子がインターホンに手が届かずに困っていたから一緒に入らせてあげたのよ」


「いや、それは可笑しくないですか。完全に不審人物ですよ……って言うか君は誰ですか?」


「私の名前はクレアと申します。魔王軍四天王の一人にして『創造』の二つ名を持っている貴族生まれの6歳ですわ。

 本日は私たちの標的であらせられる鬼畜聖女のご尊顔を拝みたいと思いましてですね、お兄様に内緒でこっそり来たんですわ」


「へー、そうなんですか。それはそれは小さいのにアグレッシブな…………」


 あれぇ???四天王の一人??????


「それでそれで、貴方様の初恋っていつなんですの?私気になって仕方ありませんわ」


「そうよ。魔王軍四天王の一人が来たからって話を逸らそうなんて甘いわよしんちゃん」


「なんで初めて聞いたはずの魔王軍四天王についてするりと理解したうえで爆速でスルーできるんですか館母さん!!!!」


「『創造』のクレア、ありとあらゆる物質を生み出すことができる魔王軍の物資担当にして魔王軍最高の才能を持っていると言われるダイヤよりも眩い原石……実際に顔を見るのは初めてっす……

 まぁそんなことより旦那さん、初恋くらいしたことあるっすよね!!教えてください、姉さんっすか。やっぱり姉さんなんすか!!??」


「貴方はスルーしちゃ駄目でしょ!!もともと四天王に対抗するために来たんでしょ貴方は!!」


「それはそれ、これはこれっす!!!クレアからは敵意も感じられないっすし、今は旦那さんの初恋の方が万倍気になるっす」


 そういう問題じゃないでしょ。貴方も平和な日々に麻痺してますよね。


「ママも気になるわしんちゃん」


「私も気になりますわ。世界屈指の美少女に幼いころから出会っており、その美少女から恋心を向けられているのに振り向かない殿方の初恋……気になって仕方ございません」


 え?なにこれ?なんで急にこんなことになっているんですか?魔王軍四天王が来襲してきたという一大事なのになんで青春漫画の一ページみたいなことになっているんですか?


「気になるわ」

「気になるっす」

「気になりますわ」


 ぐいぐい来てます。三人が三人僕の初恋を聞き出そうとしてます……まるで長年のトリオの様な息の合いようです。


「そんなのありませんよ。初恋をする前に由良江に恋をされてそれに反発するのに力を使いすぎてましたから恋をする気力なんてとてもじゃありませんがなかったですね」


「本当っすかぁぁ???」


「由良江ちゃんに恋されたのって中二のころよね。普通もっと早くに恋ってするものじゃないかしら?」


「嘘はダメですよ……と言うことで」


 四天王一人の少女クレアは手のひらに気を集中させていきます。すると何かが出来上がりました。


「テッテレー、うそ発見器~~~~~~これを使えば噓をついているかどうかばっちり分かりますわ」


「すごーい」


「と言うわけで早速セットいたしましょう」


「………ふっ」


 僕は韋駄天のように逃げ出しました。それはそれは僕史上最高最速で。


「あっ、逃げたっす」


 僕にだって知られたくないことはあるんです。プライバシーは何人たりとも守られるべきものなのですから。


「逃げたってことはしんちゃんに初恋はあるってことよね。それも由良江ちゃん以外で」


「ですわね。行動は言葉よりも如実に真実をうつすものですわね」


「旦那さんも悟りを開く前は普通の男の子だったってことっすね」


 三人の微笑みが交じり合ったのであった。


「ところでクレア……貴女はこれからどうするつもりっすか?」


「うーん、そうですわね。見たところ鬼畜聖女はいらっしゃらないご様子ですし……とりあえず」


「取り合えず?」


「汗をかいてしまったのでシャワーを借りてもよろしいでしょうか?」


「あっ、私も一緒に入るわ」


「かしこまりましたっす、それではこちらにどうぞ」


~~~~~~~~~~


 その数分後も新悟は走っていた。もうすっかり暑くなっている外で一所懸命走り続けていた。


 ドンッ


 そんなものだから曲がり角でぶつかってしまう。


「あっ……すいません」


「いやいや、こっちこそごめん。考え事しててね」


 転んだ少女に手を伸ばした時、新悟の目が大きく開いた。全く同じタイミングで少女も口を大きく開ける。


「………え?」


「噓でしょ」


 なんで………このタイミングで………


巫女子みここちゃんですか?」


「新悟だね」


 暑い……身体が熱いです……もう、これだから夏は。


「やおよろっす。その通り、貴女の幼馴染の西園寺さいおんじ巫女子みここだよ。お久しぶり」


 昔と同じ独特な挨拶と笑顔が僕の心に癒しをもたらしました。

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