第19話 家族が増えました
完全に敵意も希望もなくなったデリーが口を開きました。
「以前は大変なご迷惑をおかけして申し訳ございません。今は聖女様に諭され心を入れ替えました」
多分諭されたんじゃなく分からされたんですよね。
「じゃあ何がどう迷惑をかけたのかちゃんといえるわよね」
磔にされたままのデリーに対し、由良江がポンポンと頭を撫でます。
「小鳥遊たん「たん?」小鳥遊様にストーカー行為をしたこと……そして聖女様に俺様「俺様?」私の様な矮小な男のちんけな技を食らわしてしまい多大な不快感を与えてしまったことを深く深く反省しているのです。本当に真面目に申し訳ございません」
完全無欠に調教されてますね……
「ほうほう、で?ごめんなさいで終わらせるつもりかしら?」
「贖罪の為にこの人生を捧げます………私の全てを聖女様とご主人様に捧げます。
もし、贖罪の誓いもいただけないのならば………殺してください」
なんかまたご主人様呼ばわりされてますね。
「す…凄いっす姉さん。あの四天王をここまで骨抜き芯抜き魂抜きにするなんて……凄すぎるっす!!流石は魔族をも凌駕するドSっす!!!」
「ふんっ、あたしが本気を出して心を折れなかったのは一人だけよ」
それは誇っていいことなんでしょうか。
「隙あらばくっついてこないでください」
「いいじゃない。あたしの極上の感触を堪能できるんだから♪さて……そろそろね」
「何がですか?」
噂をすればと言ったものでしょう、チャイムが鳴らされ由良江が指パッチンで玄関を開けました。すると小鳥遊さんが姿を現します。
「由良江様、お呼びでしょうか」
「会長、あんたに付きまとう虫を捕まえたから報告してあげようと思ってね」
「はっ、この人は……凄まじいです由良江様!!こんな筋骨隆々の異形のものを捕まえるなんて!!!流石としか言いようがありません」
「ふふふ」
誇らしげに鼻を鳴らし僕にドヤ顔を見せます。
「で?こいつどうする?焼却処分??冷却処分??」
「恐ろしいことを言わないでください。もう悪さをする気力は湧かないでしょうし元の世界に戻してあげればよいのでは?」
「あたし元の世界に戻す方法なんて知らないわよ。パカー知ってる?」
「知らないっす。自分ひとりだけが帰る術なら持ってきましたが、四天王たちまで帰すことはできないっす」
「ふーん……じゃあやっぱり処分しかないかしら。滅却処分」
「それはいくら何でも」
僕が言葉を続けようとするとすっかり気力がなくなっていたデリーの身体から不思議なオーラが湧き出てきました。
「小鳥遊たん」
「私ですか?」
「俺様はこのまま消されるだろう……きっと、いや間違いなく……この世の地獄を見た後に煉獄に落とされたような感情に犯され、死よりも酷い目にとことん遭った後に細胞一つ残されることなく消される。
その前に小鳥遊たんに言いたいことがある」
覚悟ガン決まりしてるじゃないですか。させませんよそんな非人道的なこと。
「俺様はストーカーをした……だけどただ小鳥遊たんのことが好きなだけなんだ」
「そうですか……でも私はそれが不思議でたまらないんです」
小鳥遊さんは自分の胸に手を当て目を伏せました。
「私は全人類で最底辺に位置する女だと自負しています」
そんな悲しいこと自負しないでください。
「翠安佐高校の会長なんて立派な肩書を持っているように思えますが、他に立候補者がいないからなっただけなんですよ。
それにこの通り顔だって、スタイルだって由良江様に比べればまるでウジ虫同然です……性格も卑屈でネガティブで陰キャですし」
「そんなことない!!!」
「????」
「俺様は聖女様より小鳥遊たんの方がずっとずっと綺麗に見える!!君の影のある笑顔も大和撫子のような控えめな声も、割と大きなおっぱいも大好きだ!!!!」
最後のは言わない方が良いですね。
「一目惚れしたんだ……聖女様を消すため………そんな無謀にして憎しみに満ちた感情をもって異世界にやってきた俺様の心を君は一瞬で癒したんだ………今でも目をつむれば思い出す……初めて見た君の姿を………」
目をつむり心地よい過去に想いを馳せているようでした。
「深夜、全裸土下座の練習をする君の姿は俺様が見たどんな芸術品より美しかった」
何故そのシーンを見れた、そして小鳥遊さんも何故そんな世にも奇妙な練習をしていた……そんなツッコミを喉の奥に引っ込めます。
「俺様は……生まれて初めて恋をしたんだ」
「デリーさん」
「ストーカーをしたのは悪いと思っている……ただ、それだけ好きだったんだ。初めての衝動に耐えられなかったんだ。
でも………出来ることなら……本当に小鳥遊たんに贖罪がしたい……君の奴隷になりたい」
「奴隷……ですか?」
「ああ。俺様は小鳥遊たんの為に生き、小鳥遊たんの為に死に、小鳥遊たんに全てを捧げたい。それが俺様の欲望と贖罪の両方を満たす最良の策だと思っている」
「………奴隷………私の………奴隷」
何故か小鳥遊さんの顔に見たこともない喜色が浮かび上がっていきます。まるで手に入ると思っていなかった高価なプレゼントを親からもらった子供の様な。
「こんな最底辺の私の………さらに………下」
ゾクゥゥゥ
な、なんですか今の……僕の……僕の何かが悍ましい何かを感じ取った。
「由良江様、失礼は重々承知の上で一つお願いをしてもよろしいでしょうか」
「こいつが欲しいの?」
「はい。私が面倒を見たいのです」
「…………でもこいつは危険よ。あたしだって新悟とイチャイチャしないといけないからいつでも助けに行けるわけじゃない……もしかしたら反旗を翻すかも……それでもいいの」
「構いません。私はデリーさんの奴隷根性を信じます」
なんでしょうかこの頭がおかしくなりそうなのにどこまでも真剣な空気。
「………分かったわ。ただしこんな姿のデカ男持って帰って奴隷にするってのはいくら何でも通らないでしょうから」
由良江が指を二本同時に指パッチンをしました。するとデリーの姿が少し大きな犬に変化します。
「ペットとして世話しなさい」
「あ、ありがとございます!!!幸甚の極みでございます!!!!」
「……いいんですか聖女様」
「あたしのファンの頼みだからね。あんたもしっかり奴隷兼ペットをするのよ」
「……分かりました。聖女様の慈悲に深い感謝をいたします!!」
そう言った後デリーと小鳥遊さんは深いハグをかわしました。その次にデリーの背中に小鳥遊さんが腰をおろします。
「それでは私たちは帰ります!!」
「首輪いるかしら?」
「いえ、自分用の首輪があるのでそれを使います!!本当にありがとうございました!!!」
……………まぁ知ってましたよ。小鳥遊さんも僕とはかなり違う価値観を持っていると言うことを………でも………敢えて言いましょう。
「マジですか」
こうして元魔王軍四天王デリーは小鳥遊さんのペット兼奴隷となったのです。
「うふふ、家族が増えちゃいました」
………まあ楽しそうだからいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます