第17話 にいにのことも大好きよ

 にまにまと悪戯っぽい笑顔で僕を見ました。そして乙葉さんの方に目を向けると。


「……えっと……修羅場?彼女さんエグイ感じだけど」


 その圧倒的な負のオーラを感じ取ったらしく筋肉が引きつりました。


「東雲光龍……東雲さんのお兄ちゃんね。

 そんなこと今はどうでもいいの、取り込み中だからどっかいって!!!」


「はいっ!!すんませんでした!!!」


 判断が早いです早いです早いです。そして10も下の女の子相手にビビりすぎです。


「待ってください光龍さん!!!プリーズヘルプミーです!!!」


「大丈夫だ、由良江は一度の過ちくらい許してくれるだろう!!!頑張れよ」


「違いますよ!!逃げないでください!!そっちから声かけてきたんですから!!!」


「大人はな、事なかれ主義こそ正義になっちまうんだよ。美味い蜜だけすすって苦い汁は捨てるか誰かに飲ませるのが立派な大人になる必須要件なのさ。じゃ、そう言うことで」


 韋駄天も真っ青な速さで回れ右をした光龍さんでしたが、いざ光速の領域にまで加速しようとしたとき面白いくらいにすってんころりんと転げていきました。


「ふぎゃぁぁ!!!!」


 何故転んだのかとよく見てみると、何度見ても美しいと思ってしまう顔がそこにありました。


「にいに、あんた新悟のピンチに逃げるとか頭おかしいのかしら?」


「由良江……何故お前がここに」


「新悟あるところにあたしありよ。新悟のちんちんがピンチになってるから慌てて駆け付けただけ」


 世界一恥ずかしいヒーロー見参の理由ですね……ただ、今はひたすらありがたい限りですが。


 流石は超能力を持っている重度のヤンデレストーカーです!!!


「さて、乙葉。あんた人の男のちんちんをどうしようってのかしら?」


「もぐ」


 乙葉さん、完全に暴走してますよね。僕のをもいだとところで何一つ事態は好転しませんもんね。


「新悟のちんちんはあたしのものよ。絶対にあんたなんかにあげない」


「ちんちんが欲しいわけじゃないよ。伊織に手を出す人へのお仕置きだよ」


 すっごい真剣な顔で美少女達がちんちんなんて連呼してます。それも僕のちんちんです……この状態で興奮する癖を持ってなくてよかったぁ。


 圧倒的なマイナスのオーラを放つ二人のオーラがぶつかり合うのを僕はしかと見ました。ぶつかり合い、混ざり合い、根源的な恐怖よりもさらに深いところまで侵食するようなおどろおどろしさが襲い掛かってきます。


「新悟のちんちんはあたしが守るわ。あたしの中に挿入してでもね」


 とんでもない下ネタをとんでもなく凛とした顔で言わないでください。


 視界の隅で光龍さんが抜き足差し足で逃げていくのが映りました。しかしながら由良江もそれに気づき首根っこを掴みます。


「逃げんな、にいに」


「いや……俺関係ないし。たまたまここにいただけだし、お前らの修羅場にも新悟くんのちんちんにも興味ないし」


「にいにはあたしのにいにである以上、新悟を守る義務があるのよ。自覚しなさい、にいにの命より新悟のちんちんの方が価値は上なのよ」


「お兄ちゃんをなんだと思ってるんだ???」


「勘違いしないで、にいにはあたしにとって途方もなく大切な人よ。あたしはにいにのことが大好き」


「由良江……俺感動「新悟に比べればミジンコ以下の価値しかなくなるってだけで」したんだけなぁ!!」


 なんかすいません、光龍さん。


「あれれ?皆何してるの??」


 場の雰囲気を切り裂く……いえ、この優しさは包み込みようなと言う方が適切でしょうか。とにかく声が聞こえてきました。すると館母さんにぬいぐるみのように抱かれた伊織君が目を丸くして僕たちを見つめています。


「お姉ちゃんに神楽坂くんや東雲さんまで………こんなところでどうしたの?」


「もしかして修羅場かしら?乙葉ちゃんったらしんちゃんのことを略奪しようとしてるの?あらあらうふふ、青春ねぇ」


「伊織……違うの。私は神楽坂くんなんてなんとも思っていないから、悟りを開いた男になんて少しも興味ないから。可愛い貴方以外に興味なんて湧かないから!!」


「そうよ、あたし以外の女が新悟に興味を持っていいわけないしね……って言うかあんたらこそラブホで何してんのよ。いや、ラブホですることなんて一つね。ああそっか、ここってラブホ前か」


 由良江は何を考えたのか僕を抱きしめてにこりと微笑みました。そしてラブホの中に連れ込もうとします。


「じゃああたし達は用があるからこの辺で」


「何してんですか由良江!!!!って言うか目の前にあるとはいえこの状況でラブホに行こうとするとか正気ですか!!!???何にも判明してませんよ、何にも解決してませんよ!!!」


「先っぽだけでいいから、破瓜させるだけでいいから、ピロートークまですればいいから」


「そればっちりヤッテますよね!!最後のデザートまで食べてますよね!!!

 今はそんなことしてる場合じゃないでしょう!!!ほら、皆がポカンとしてますよ!!突然の奇行に唖然としてますよ!!!」


「でもこんなところにあんたといるってだけで子宮が疼くんだけど」


「疼かないでください!!」


「無茶を言うわね……でもあんたがそういうなら仕方ないわ」


 チュッ


「ソフトキスで我慢してあげる」 


 唐突なキスを見たからか真っ赤になった伊織くんに向き直りました。


「で?あんたら何してたの?」


「あ……あのね………えっと」


「うふふ、所長。バレちゃったらしょうがないですよね」


「所長?」


 館母さんが光龍さんに視線を向けました。


「なんで私と伊織君がここにいるのか説明してあげる。でもここじゃなんだし場所は変えましょう、所長事務所使わせてもらっていいですよね」


「ああうん……それはもちろんいいよ」


「ちょっと待ってちょうだい、にいに、所長ってどういうことなの?」


「あのな……ここだけの話にしてくれよ。父さんにも母さんにも言わないでくれよ。

 実はな俺、探偵事務所を開いたんだ」


 探偵事務所……ですって。


 僕の少年心が疼きました。それはもう、ビンビンと。


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