第16話 お兄ちゃんです
死であったり飢えであったり老いであったり病であったり、人間である以上逃れることができないような恐怖、それと似たものを僕はブラコンモードの乙葉さんから感じてしまっています。
言うなれば人間としての根源的な恐怖の持ち主、恐怖の大王がいるならばきっと乙葉さんのようなオーラを発しているのでしょう。
「旦那さん、もしさっきのエグイブラコンさんの弟さんと旦那さんのママさんが付き合っていたとしたらどうしますか?」
「………考えたくもありませんね」
僕は二人の背後をそっと追いかけます。これがデートなわけありません。こういう時勘違いだと相場は決まっているのです。手を繋いでいるのが少々気になりますし、仲睦まじい雰囲気を二人の周りの空間を包み込んでいますし、あまりに和やかな空気に動植物が生気を上げているように見えますが、決してデートなわけがないのです。
そう、これはデートじゃないのです。
そう祈っていると二人が曲がりました。当然のようにその後ろを追うと
「ワァオ」
ホテル街に入りました。
………逃げていいですかねぇ………でも逃げたら今も僕の近くでスタンバっている乙葉さんに首根っこを掴まれて男根をもぎ取られることは必至です。僕は子供が欲しいんです、まだ男としての人生に幕を閉ざすつもりは毛頭ありません。
まだ昼間だというのにネオンの光が眩しいですし、奇怪な城のようなデザインの建物が多いですがきっとここはホテル街ではないのでしょう。うん、そうです、僕の勘違いに間違いありません。きっとここはあれです………あれです。
そう、あれです!!!!!!!!!!!!!
「旦那さん、生まれたての小鹿みたいにガクガクブルブルしてるっすよ」
「む……武者震いです……」
「誰と戦うんすか」
「己です……弱き己に屈することなく強き己に耽溺することもなく、今いる己を鍛え上げていく……いつでも最大の敵は己自身なのです!!!!」
そう、屈してはいけません。いけないのです!!
「良いこと言ってるっすけど絶対違いますよね、完全に弱き己が下手くそなダンスを踊ってますよね」
「………大丈夫ですから、新悟くんは武者震い大好き人間ですから」
「そんな人類聞いたことないっす」
「普段から死地で生きていますから、武者震いするしかない世界で生きてますから、由良江の隣は地雷原より100倍危険ですから」
「それは同意するっす」
僕がパカーさんと現実逃避がてら話をしていると二人が露骨に周りを気にし始めました。そしてとある建物に入っていきます。
その建物の名前は
『LOVELOVE スイーツホテル』
………………
ドバドバドバドバと汗が流れます。
これはあれですよね、ラブなホテルですよね。男性と女性が身体を重ねる場所ですよね………由良江が楽しそうに僕と来るために色んな下調べをしていた場所ですよね。
「旦那さん……ここって……もう、アウトなんじゃ」
「…………パカーさんは知らないかもしれませんが最近はこういう場所で女子会とかそういうことが行われているんです。女子会です。一人は男性ですが、女子会です。間違いなく女子会です。女子会と言ったら女子会なんです。女子会と言う言葉が不適切なら男女子会です。どこにでもある普通の会です。決して不純異性交遊的なあれではありません」
「自分、怖いっす。こっちの世界ではまだ二十歳にもなっていない男女がこんなこと普通にするんすね。それもあんなに可愛い男子とあんなに巨乳な女子が」
「違いますから!!!間違いなく違いますから!!!二人ともそういうことをするタイプの人間じゃありませんから!!!婚前交渉とかそう言うことはしないタイプの心清いお二人ですから!!!」
そう、そんなことがあるわけがありません。そんなふしだらなことをするのは由良江だけで十分です。っていうかそんな人類は由良江だけで十分です……あれ?何言ってんですか僕……どうすればいいですか僕は…………混乱してますよ。
と言うか、僕がラブホに入る二人を発見したと言うことはつまり……そんな僕を含めて監視していた乙葉さんも………
瞬間、背中に極寒地獄の闇と冷たさを凝縮したような威圧感がぶつかります。
「あの乳でか女ぁぁぁぁぁ。やりやがったね………一線を越えすぎちゃったね」
「ひえっ」
般若なんてスマイルだと思えるほどの圧倒的怒気と殺気を孕んだ顔を浮かべた…いえ、骨格そのものから刻まれたかのような表情の乙葉さんが来てしまいました。
「もう、もぐしかない……あの乳と貴方のちんちんを」
「何故僕まで!!!????
そもそもお二人とも既に高校生ですし、合意の上なら「あぁ?????????」すいません、不純異性交遊はダメですよね「あぁぁぁ!!???」どうすればいいんですか僕は!!??」
「伊織は私とならセーフなの!!!
とにかくもぐ!!!もぎまくる!!!!!」
「ひぃぃぃぃ」
ああ、この世の終わりがあるとすればこんな感情になるんだなぁ……そんなことを思っていると一筋の光の様な何かが見えました。
「あらら?ラブホ前で痴話げんかしてるカップルがいると思ったら……こりゃぁあまりにもビックリな奴がいやがるな…由良江に言いつけちゃうぞ」
「あ……貴方は」
「ん?誰??」
イケメン俳優のように整った顔を悪戯っぽく歪めながら僕をみるその人のことを僕はよーく知っていました。
「彼女さん、どうも初めまして。俺の
そいつにアホみたいに惚れてる由良江の実のお兄ちゃんだ」
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