第15話 夏です、ブラコンです、巻き込まれます

 燦燦と照りつく太陽と、山のように大きな入道雲。日傘や帽子で日光を遮り、アイスやハンディ扇風機で涼をとろうとする街の人々………夏ですねぇ。


「暑いっす……こっちの世界は暑いっすね…………あああ」


「すいません、鞄の外に出せないので風も感じられませんよね」


「うう……甘く見ていたっす。夏ってやつを」


 今日は由良江を抜きに僕とパカーさんだけでこの世界の案内を兼ねた散歩をしています。本来なら、と言うか別に頼んでもいないのですが普段は僕がどこに行くにも由良江がゼロ距離の位置にいるのですが四天王デリーの攻撃からまだ完全回復をしていないようで「今日は休んでおくわ」と驚くべきことを言ってきたのです。


 まぁこうしている今で、どうせ千里眼なり、地獄耳なりで監視はされているのでしょうがそれでも由良江が近くにいないというのは何となく解放された気分になります。


「それじゃぁアイスでも買いましょうか」


「お願いしまっす……バッグの中に入る大きさのやつで」


「分かってますよ」


 抹茶アイスが僕は好きです。さてさて、どこかにアイス屋さんは………


「なんでなんで何でなんでなんで何で何で何で何で何で」


 ……………なんか見たことのある女性が世界の闇をすべて凝縮したような圧倒的な負のオーラを放ちながら何かを見ていますね………えっと、視線の先には。


「館母さん、とっても楽しいよ」


「あらあら、嬉しいことを言ってくれるじゃない」


 手を繋いでなんとも楽しそうですね。微笑ましくさえあります。


 あのお二人は僕の前世の母親こと館母さんと可愛さの化身である男性、百目鬼伊織君ですね。


 そしてこちらで地獄の番人も真っ青なオーラを発しているのはそんな伊織君の双子のお姉さまにしてブラコンの極みにいる女性、百目鬼乙葉さんです。


「楽しそうに出ていったと思ったらあんな胸がデカいだけの女とデートだなんて………何でなんでなんで何で何で何で何で」


「…………」


 周りの人はもちろん、動物たちも乙葉さんから離れていっています。これは声をかけたほうが良いのでしょうか?


「旦那さん。自分のパカーセンサーがビンビンに反応してます………もしかして近くに魔王とかいるんすか?それとも邪神っすか?いや、それよりもっともっと邪を煮詰めたような……何かが」


 パカーセンサーと言う謎のセンサーによれば乙葉さんは魔王や邪神よりもヤバいオーラを発しているようです。納得するしかありませんね。


「どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲どういう仲」


 ギュリンッ!!!!!


「あっ、ちょうどいいのがいたぁ」


 見つかってしまいましたぁぁぁ!!!って言うかなんですか今の首の動き、ホラーゲームでもなかなか見ない首の動きでしたよ、人間の骨が出していい音じゃありませんでしたよ。


「神楽坂くん、あそこにいる女……伊織とどういう仲なのかな?私の天使を脅かす悪魔かな?」


「えっと………彼女は館母美穂さんと言いまして「知ってんの???????」はい」


 魂の奥底を掴み取られるような声………どういうわけか由良江からのヤンデレは平気なのに乙葉さんのそれは異常なほどに悍ましいんですよね。


「あのですね、僕たちのクラスに転校してきた方で………」


「ほうほう、他にも何か知ってそうだねぇ。それも単なるクラスメイトとか友人とかのレベルじゃないみたい」


 今のちょっとしたセリフでそこまで理解できるとか探偵ですか?


「どういう仲なのかなぁ??」


 宇宙の様に大きく深いものを携えた瞳……この瞳を前にしたら誤魔化そうという気持ちが露ほどもなくなってしまいます。


「セフレ?」


「違います、それだけは絶対に間違いなく違います!!!」


「じゃあセフレ以上恋人未満?恋心を抱いてしまい今の関係よりも一歩前に進みたいけれど色んな意味で心地の良い関係を壊すのが怖い感じ?」


「そんなややこしい関係でも絶対にありません!!!」


「でもあの女の乳臭さを貴方から感じる」


 探偵なんてなまっちょろい勘の良さじゃないんですけど。


「あのですね……実は信じていただけないとは思いますが僕の前世の母親らしい「前世のママァ?」ひぃぃぃ」


「へぇ……そうなんだ、そうなんだ。それじゃああの人はこんなに大きなコブがついているくせに天使に手を出してるんだ」


「いや、前世の話ですしコブと言うわけでは」


「じゃあ悪性腫瘍?」


「コブで良いです!!!」


「とにかく子供がいるくせに天使に手を出すなんて厚かましいにもほどがあるよ!!あのでっかい胸に倫理観も知性も吸い取られてるんじゃないの!!??」


「ちょ、そんなことがあるわけが」


「じゃあ素でおかしい女だよね。ぽっと出のくせに16年も一緒に居続けている女がいる男に手を出すなんておかしいとしか言いようがないよね」 


 一緒に居続けてるって実の双子ですよね。そうですよね。


「しかも伊織もめちゃくちゃ楽しそうな顔してるんだよ……なんで?なんで何で何で何で何で???やっぱり胸?おっぱい??伊織も男である以上おっぱいに興味があるとは思っていたけれど………おっぱいが悪いの?あれをもぎとって私につければすべては丸く収まるの?」


 どこから出したのか分からない鋏を握り締めながらおどろおどろしく笑います。


「ちょちょちょちょちょ、落ち着いてください。胸は着脱可能なものではありません」


「じゃあもぐだけ」


「もがないでください」


「なんで?伊織に悪影響なものは全て排除するのがお姉ちゃんとしての役目だよ。

 私は生れた時からずっと伊織を守り続けてきたの、良妻賢姉りょうさいけんしとしての義務だもん」


 初めて聞いた四字熟語ですけど。


 このままではまずいです………人の道を外れたところに行ってしまいそう……いえ、今の時点でもかなり怪しいですが。


「じゃあ息子である神楽坂くんが母親の罪を償う????おちんちんもいでほしいの???」


「本気の瞳!!???止めてください!!!!!

 それにあの二人が付き合ってると決まったわけでは「付き合っているなんて気持ちの悪いワードを使わないで」すいません」


 怖いですよぉ………なにこれ、僕はどうしてこんな目に遭ってるんですか?


 うう、しかしこれも試練、そして何より


「僕が確認します………あの二人が何をしようとしているのか」


「へぇ、まぁそうだね。可愛くて心優しくて愛くるしい伊織は人間の姿をしたおっぱい付き病原菌であっても駆除すれば心を痛めると思うし………とりあえず白黒はハッキリつけようか」


 人を救うのです。頑張れ僕。

 

 清い涙がほろりと流れました。


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