第13話 まだまだ僕も修行が足りません、知ったこっちゃありませんが

 あたしが最初に死んだのは絶望をしたからに他ならないわ。


 新悟のことを好きになった瞬間からあたしにとって新悟が全てになった。服装も、食事も、住宅も、生活の全てが新悟のためのものになった。


 あたしの魅力の全てをかけた、それでもあたしが過去に犯した罪の大きさには敵わなかった、人生全てをかけて魅力を上げてもきっと敵わない。今生で新悟と相思相愛にはなれない。そう悟ったからあたしは死んだ。


 異世界に転生するだなんて思ってなかった……っていうか異世界って何それおいしいの状態だったわ。


 でも理解ができた後にあたしは歓喜した。ここならこれまでできなかった形で自分磨きができる、そうすればあたしは新悟に惚れてもらえるようになるかもしれないと思ったの。


 新悟は少年漫画が大好きなことは知っていた。心も体も強い人が好きなことを知っていたしね。


 魔王軍とやらを破壊した理由は強い女になりたかったから、ただそれだけなのよ。別に正義心とか異世界の住人に情が湧いたからとかそんな理由じゃないの。新悟好みの強い女になりたかったから、それだけ。


 だから一番強い魔王を倒して、ついでに世界の崩壊を食い止めた後、魔王軍の残党を倒そうなんて気持ちは特になかった。魔王より強いことが証明されているあたしがわざわざ魔王より弱い奴を倒す意味がなかったから。


 四天王デリー、生では初めて見たけれどあれね。


「小鳥遊たんたんたん小鳥遊たん♡♡♡ああ、木の葉のようにか弱く可憐で愛らしいよぉぉ♡♡♡♡♡♡」


 あっちの世界で探し出して抹消しておくべきだったわね。ぬかったわ。


「会長、あいつをどうしたいかしら?」


「えっと……その………」


 かなり引いた顔をしてるわね。まぁ当然か、他ならぬ自分自身が汚されてるんだものね。あたしレベルのアルティメット美少女ともなればそういう対象に見られているのは覚悟しているけれど、それでも新悟以外がそういうことをしているのを間近で見たらイラつきが大気圏突破するでしょうから。


「取り合えずあいつぶっ飛ばすとするわね」


「はい?由良江?」


 ドラァァ!!!!


「なんだ!!??」


 盛大にドアを蹴り飛ばして真正面から部屋の中に突入するとデリーのアホ面があたしを見た。みるみる顔が固まっていく。


「き……貴様は………魔王様を倒した」


「そう、世界の美少女にして聖女、東雲由良江よ。あんた異世界に来てまで何してんのよ」


「くっ、まさか俺様の潜伏場所を突き止めるとは………なんて女だ」


「別にあんたを探してたわけじゃないわよ。あたしのファンのストーカーを探してたら偶然見つけたってだけ」


「なんだと?小鳥遊たんがお前のような女のファン?ハッタリならやめておけ、そんな偶然があるものか。頭のおかしい女だとは思っていたが……頭が悪い女でもあったようだな」


 イラァァァ


 なんであたしは異世界の女にストーカーしている頭のおかしいボケなすびに罵倒されているのかしら?


 無駄な殺生は好みじゃないし、新悟の主義にも反するからするつもりはないけれど……


「この世界に来たことを存分に後悔させてあげるわ」


 殺さなきゃセーフよね……99パーセント殺して回復させて、もう一度99パーセント殺しをするって行為を100万回繰り返してあげる。


「くっ…暴力聖女め、なんという圧力だ…だがタイミングがいいな。俺様は今小鳥遊たんのおかげで気力は十分すぎるほど溜まっている!!!!」


 あたしが拳を握り締めた瞬間、不可思議な光が変態四天王野郎から溢れ出た。その光が手のひらに集まっていく。


「何する気か知らないけれど、あたしはあんたらの親玉の攻撃にも楽々耐えたのよ」


「だったら、喰らってみよ!!!」


 放たれた光球をあたしは気にも留めずに突っ込んでいった。


 光球に当たった瞬間……


「!!!!!!!!!!!???????????」


 え……………え…………………


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」


 これ…………は…………


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 いきなり由良江が飛び出したと思ったら、魔王軍四天王の一角だという変態ストーカー男、デリーが放った何らかの攻撃を食らってしまいました。


 まぁ由良江なら多分大丈夫だと思っていたのですが。  


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」


 脂汗を流し、後ろ姿でも分かるほど激しく狼狽をしています。こんな由良江はここ数年見たことがありません。


「いったい何が………」


「恐らく『死の記憶』っす」


「パカーさん、何か知っているのですか?」


「あいつの異名でもある『死の記憶』は能力そのものでもあるんす………姉さんは興味がないから知らなかったんでしょうが、その能力は直接的な殺傷能力は皆無ではありますが凶悪さで言えば最高峰っす」


「どういうことですか!!??」


「あいつは相手の精神的な死に最も近づいた忌まわしき記憶を無理やり思い起こさせるんす。それも大きく増長させた形で…そんなことされればどんなに強くてもまともでいられるわけはないっす……とはいえあの姉さんがあれほど取り乱すなんて」


「なっ………」


 それじゃぁ今由良江は………あの強姦をされかけた時の記憶を………


 由良江が大きく取り乱し、やがて立ってもいられなくなったようで膝から崩れ落ちます。


「止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて」


 ………あの気丈な由良江が…………誰よりも自信と強さに溢れていた由良江が………


「あーはっはっは!!!!効果てきめんだったようだな!!!!!貴様ほどの女であっても弱き頃の過去には勝てまい!!!!そのまま絶望の海に溺れたまま死ね!!!!!」


 死ね?今死ねって言ったんですか?あんなに弱った女相手に?


「………………」


 ブチィッ


 自分の中の何かが切れた。


「おい、てめーらはこのまま隠れてろ」


「え?ご主人様……どうなさいましたか?ご様子が………」



 小鳥遊の言葉を無視した僕はケダモノのように飛び出し、飛び蹴りを食らわす。



「おらぁぁぁぁ!!!!!」


「なにっ!!??」


 不意を突いたはずなのだが筋骨隆々の男はグラついただけでろくに体勢を崩すことさえしない。


 だがんなもん関係あるか、ボケが。


「おいてめぇ、この女に腹が立ってるのか憎しみもってんのか知らねーがそれ以上妙な真似すんじゃねーぞ。ボケが」


「何者だ貴様?」


「黙れよアホ」


 ああ………クソが………久しぶりだよこんちくしょうが。せっかく悟ったって言うのに僕もまだまだ修行が足りねーな……でも仕方ねーよな。


「そしてさっさと自分たちの世界に帰れ、この世界に痕跡の一つも残さずにな。分かったか、クソ変態下郎が」


 キレたんだから。 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


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