第9話 セックスに適した場所
僕と由良江はともにクラス委員をしています。正直なところクラス委員をするつもりは一切なかったのですが、由良江からの熱いプッシュによって僕もクラス委員になったのです。そして今はクラス委員の仕事として明日の体育の準備をしていたのですが………
「困ったわねぇ」
まったく困っていなさそうな声で由良江は僕にもたれかかってきました。
「まさか体育倉庫に備品を取りに来たら外から鍵をかけられるなんて思わなかったわねぇ」
「………由良江、やりましたね」
「何を?あたしは不運なことにあんたと閉じ込められた可哀そうな妖精ちゃんよ」
「どの口が言いますか。と言うか貴女なら瞬間移動ですぐに脱出できますよね」
「ざーんねんでした~~~~~~やるつもりはありませ~~~ん。それにあたしの瞬間移動はあたし自身と無機物しか瞬間移動できないからあんたは脱出できませーん」
外のカギを開けるだけなら僕がここにいてもできますよね。
「ああ、それにしても寒くなってきたわ……まるで雪小屋の中にいるみたい。ああんっ、寒いわ、とっても寒すぎるわ」
「どっちかと言えば暑いくらいですよね。もうすぐ夏ですもんね」
「ああ、これはお互いの人肌で温め合うしかないわ。新悟、貴方があたしを抱きしめなさい。これは人命救助よ」
そう言うと僕の服を手早くはぎ取り、そして自分の服はゆったりと、まるで朝日を浴びたヒマワリが起き上がるかのような美しさで脱いでいきました。色気のある吐息をだします。
「………ほら……早く………こんなことするのあんただけなんだからね」
「やりませんよ」
「据え膳食わぬは男の恥なのよ」
「男の恥をかいたとしても、神楽坂新悟としての恥をかくつもりはありません。貴女を愛せない以上貴女と肌を重ねるつもりはないのです」
「ちっ」
「分かりやすく不満な態度ですね」
やれやれ、ラブコメによくありそうな展開を早速自分の力で作り出してきましたね。まぁ毎夜襲われそうになっている僕からすればこの程度のシチュエーションなんと言うこともないですが。
「…………やらないの?」
「やりませ……ん?」
あれ?今由良江の声ではありませんでしたね。やたらと落ち着いた大人っぽい。
「ならよかった」
何故か跳び箱の中に入っていた身長の高い女性が僕たちの前に現れました。すぐに体育座りをしてぺこりと頭を下げてきます。
「目の前で大人のことをされたら………どうしていいのか分からなかったから………良かった」
「あの…貴女はいつからここにいたんですか?」
「貴方達よりも先にいた………なんだか急に眠くなったから寝てたんだけど気づいたら貴方達がいて」
「へぇ、よくもまぁこんな埃くさいところで寝れるわね。あたしには無理だわ」
「もっと凄いことしようとしてたじゃない」
「ふふふ、体育倉庫と雪小屋はどんなに汚くてもセックスには適した場所だって遥か昔から決まってんのよ」
「決まってません。セックスするのにいつでも適しているような場所はラブホテルだけです」
「ふーん……意外だね」
「意外ですか?わりと普遍的な価値観だと思っていたんですが」
女性は宇宙のような神秘的な瞳を僕に向けてきています。
「そうじゃなくて、貴方の口からセックスとかラブホテルとかそういう単語が出てくることが意外だなって思ってただけ……
貴方達のことはよく知ってるよ、有名人だもん。神に選ばれた美少女の東雲由良江さんと、その少女に寵愛を受けている覚醒者神楽坂新悟」
僕に覚醒者とか言う二つ名がついてたんですか……
「なんとなく性のこととか口にしないと思ってた……ライオンとハイエナの肉食を合わせたような肉食女子の東雲さんのアプローチをかわしまくってるし、嫌悪感があるのかと。もしくは悟っているからそう言うことをしちゃ駄目な自分ルールがあるのかと」
「それは間違いですよ。まず僕はこいつのことが恋愛的に受け付けないからしないだけです。愛する人とならば喜んでしますよ。健全的な高校生男子ですからね。まぁ興味自体は人より相当に薄いですし、欲をコントロールできている自覚はありますが」
「へぇ……ほほーん」
不思議です。さっきまでぎらついていた由良江の雰囲気もすっかりなりを潜めて彼女のペースの中に入っています。
「やっぱりイメージ通りってわけじゃないんだねぇ………まぁそうだろうと思ってたけど……ちょっといいかな?」
女性はすくりと立ち上がり緩やかな動きで僕の目の前にやってきました。そして宇宙のような瞳を僕の未熟な瞳に合わせてきます。
「ちょっとあんた、人の男に近すぎじゃない」
「少しだけ待って」
僕の魂の内の内まで見ているような瞳。満足したのか今度は由良江に同じことをしました。
「………うわぁ」
「勝手なことをしたと思ったら何よその反応」
「ごめんなさい……ただ、聞いていたよりもずっと闇が深そうだなぁって思って。とはいえこれなら許容範囲内」
許容範囲内?なんのことでしょうか。
「誰の闇が深いって?????あたしが深いのは新悟への愛だけよ」
「そこが深くて濃いの……聞いてた話とちょっと違うけど………まぁいっか。
ああそうそう、まだ私のこと話してなかったね。こっちは知っているのにそっちは知らないのはまた不公平か。私の名前は
「百目鬼…?その無駄に強そうな名字は」
「そう、私は少し前に貴方達にお世話になった百目鬼伊織の双子の姉なの。お礼を言うタイミングを伺ってたんだけどなかなかなくって……このタイミングで三人になれたのはラッキーだから言っておくね。弟を助けてくれてありがとう」
「ほう……そうでしたか……それはそれは」
「でさ、伊織のことどう思った?」
僕の言葉遮られましたね。
「どう思ったって……急になのよ」
「可愛いと思わなかった?東雲さん、貴女は神に選ばれた美少女とか神の最高傑作の美少女とか言われているし、その賛美の言葉に異議はないの。こうして間近で見ると同じ女の私でさえ強い魅力を感じちゃうもの。でも」
由良江の肩を掴みました。
「世界で一番可愛いのは伊織だから!!!あの子は天使と女神の生まれ変わりなの!!!!」
「はぁ???」
「だって、可愛いじゃん!!!私は生れた時から伊織と一緒に生きてきた!!あの子の成長を一番間近で、そして同じ高さで観察してきたのは私なの!!!そんな私でも伊織を見るたびに可愛いと改めて実感させられる!!今見ている伊織こそ可愛さの頂点だと思っていたのに次に見るときはさらなる可愛さの極みにいる!!!」
「え……ええ、そうなの?」
「そうなの!!!
こうして貴方を間近で見てもやっぱり可愛さでは伊織の方が上!!!美しさは貴方が上だけど可愛さは遥かに上!!!!
男の子だけどそんなの関係ない!!!可愛さの頂点は伊織!!!!」
あはは、恐ろしく強い想いを持つブラコンですね……まぁ家族を愛するのは美しいことです。由良江のようにヤンデレと言うレベルでは多分ないと信じますよ。
しかし由良江は自分のプライドに障ったようです。
「なんですって。この神に愛されたあたしよりも可愛い?そいつはちょっと聞き逃せないわね。あたしは確かに美しさを追及しているけれど可愛さだって持ち合わせてるの。あの子がかわいかったのは確かだけど同い年の男子に可愛さで負けているはずがないわ。
そうよね新悟!!!」
ふむ……客観的に考えてみると。
「伊織くんの方が可愛かったです」
「裏切者がぁぁぁぁ!!!!!!あんたはあたしのことを世界で一番愛でてればいいのよ!!!」
「そういうところですよ。可愛くなさが加速するの。外面には内面がにじみ出るものです」
「ほら、神楽坂くんも分かってる………とまぁ、つい伊織の圧倒的で絶対的で感動的な可愛さについて話しちゃったけど一番話したい本題は違ったんだった。
ねぇ東雲さん、貴女超能力使えるのって本当?」
「本当よ」
「ちょっ!!」
「何よ新悟、別に隠さなくていいでしょう。別に政府に捕まって解剖されるわけでもあるまいし。それにあの子の前では見せちゃったし、多分さっきのあたしたちの会話も跳び箱の中で聞いてたわよ」
「それはそうかもしれませんが……人知を超えた力を見せびらかすのは控えたほうが」
「わーってるわよ。で、百目鬼………いえ、伊織と被るから乙葉と呼ばせてもらうわ。乙葉、伊織はあたしのことを家族に言ったの?」
乙葉さんは首を横に振りました。
「いいえ、私だけだよ。私だけがあの子の特別だから。だから本人である貴方達以外に言うつもりもない」
確かすぎるに優越感ですね。
「さて、そこで貴方達に相談があるわ」
「何かしら?可愛さの磨き方なら教えてあげていいわよ」
「負けを認めなさい」
「五月蠅いわよ新悟……はっ、まさか貴方ホモ……だとしたら生やすしかないわね」
「異性愛者です……貴女は除かれてますけどね」
「そのうちあたし以外を愛せない身体と心にしてあげるから楽しみにしてなさい」
「はいはい、期待してませんよ。
それで乙葉さん、相談と言うのはなんでしょうか?」
「……初対面の貴方達にこんなことを相談するのは違うって言うのは分かっているけど……評判高い聖人である神楽坂くんだからこんなこと言うの」
なんという神妙な顔これは相当に真剣な話ですね………気を引き締めなければなりません。
「実は」
実は……?
「伊織と結婚したいんだけどどうすればいいかな?」
「……………」
双子の弟と結婚………ですか。なるほどなるほど………
「法律を変えるところから始めてください」
僕の周りってこういう人ばかり集まりますよね。
「しゃぁ!!新悟に興味ないこと確定ね!!!!」
このヤンデレ女みたいな。
「あとあたしの親友がストーカーに悩まされているみたいだからそれについても相談したいんだけど」
「そっちだけにしてください!!!」
「つい、私の欲望の方が先にでちゃった………うっかり」
うう………掴めない人ですね。この人も真っ当な恋愛観を持ってないのは確定しましたけれど。
「じゃあ早速で悪いんだけど、学校が終わったらうちに来てくれる?色々話したいの」
初対面の男子を私室に呼ばないでください!!
「おい、あんた今照れたわよね」
「………気のせいです」
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