第6話 由良江ちゃんはドSなのです
あたしと新悟の愛の巣に新悟の前世の母親だという館母美穂を招いた。この女は邪な気持ちで新悟に手を出していないことは顔を見れば分かるのだが………これはどう扱っていいのか正直分からない。本当の義母なら最大限にもてなすべきだけど……前世の母親って眉唾物だし。
「えっと……正直まだ受け止められないんだけど……本当に前世の母親なの?」
「ええ、間違いないわ……この胸の高鳴り、溢れ出んばかりの母性……私たちは間違いなく前世からのかかわりがあるのよ。おへそからしんちゃんと繋がっているへその緒が見えるの」
なんてキラキラした瞳……
「新悟……あんたはどう思う?」
「そうですね………正直に言えば僕も何か惹かれるものを感じています……前世の母親と言われれば即座に否定できないですね」
「マジか……」
うーん、こいつまでそう言うってことは強ち間違いってわけでもなさそうね……前世があることはあたしが誰よりも知ってるし………何ならあたしって前々世の人間にそのまま生まれ変わったてる女だし。
「まぁとにかく私はしんちゃんのママなの。もちろん今世では直接の母親ではないけれどお世話をしたくて仕方ないのよ。疼いてるの、母性が。バブバブされてあげたいの」
「僕は構いませんよ。そもそも僕は誰かに何かをされることを拒否できるような身分ではないですから」
「あたしからは拒否しまくってるじゃないのよ」
「貴女は僕にとって特別な存在です。それに嫌なことを嫌と言う権利くらいは持っています。あくまでも善意からくる何かを拒否する身分ではないと言うことです」
「嫌って何よ、嫌って!!本来あんたみたいな冴えない顔面してる男があたしに愛されてるなんて奇跡でもあり得ないくらいなんだからね!!!」
「愛して欲しいなんて言っていません」
「あたしが愛したいのよ」
「だからいつも言っているように愛される方の都合を考えてください、ついでに自分が過去僕に何をしてきたのか思い出してください。控えめに言って悪魔の化身か何かとしか思えない悪行三昧ですからね。その辺のバトル漫画の敵キャラの方がまだ優しいですからね」
それを言われると………辛いわね………過去のあたしはゴミカス色にはっちゃけてたからなぁ……
「ねぇ、しんちゃんと東雲さんって相当親しいっていうか……とにかく特別な仲に見えるんだけど、一体どういう関係なの?」
「幼馴染で将来の伴侶よ」
「長い知り合いで未来永劫の腐れ縁です」
「似てるようで決定的に違うこと言ってるわよ」
「命の恩人よ」
「何度も殺されかけました」
「今度はまるで逆のこと言ってるわね」
「そうね……じゃあ教えてあげましょう」
「いかに僕を殺しかけたかをですか?一晩かけても足りませんね」
「違うわよ。あたしがあんたへの恋心を自覚したあの日のことよ…………あたしの義母?みたいなものになるんだから息子たちの馴れ初めくらい知りたいでしょう」
何か言いたげな新悟を制してあたしはゆっくりと瞳を閉じて唇を動かした。
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あたしは生れた時から抜群に可愛かった。普通の赤ちゃんも可愛いけれどあたしはその中でも群を抜けて可愛かったのだ。親がネットに挙げたあたしの笑みは世界中に行き渡り、数百億回再生されるくらいに大バズりして、心が清くなった人間が続出したり、あげくどこかの国際的犯罪組織が解体したという噂話までたったほどである。
そんなあたしは生れた時から当然のように可愛い容貌だけで人から愛され、どこまでも甘やかされてきた。それは人間だけに留まらず動物や神にまで愛されているようで、信号機の赤色なんて見たことがないし、福引でもあたしが欲しいものばかりが当たる、運に見放されることさえも一度たりともなかった。
そんな恵まれすぎた環境にいたからか、それともあたしの生まれつきの素質のせいなのか、どこまでも増長し我がままで横柄で強欲で人の痛みを考えられない女に育っていった。
正直昔はあたし以外の存在は下僕か家畜かくらいにしか見えていなかった、親兄弟ですら例外ではない……だがそんな性根の腐った女だったのにそれでもあたしは皆から愛されまくっていた、表面的な容姿の可愛さだけでなく、猫を被るのも抜群に上手かったから両親はもちろん本当に出会う人全てに愛されていた。
「あんっ?可愛いから何?調子乗りすぎじゃねーの。そもそもお前の可愛さごときに屈服するほど僕のメンタルは柔くねーから」
神楽坂新悟と言う男を除いて。
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まだあたしが中学二年だったとある夕方、あたしは新悟の首につけた首輪を手に持ちながらブランコに乗っていた。
「ラララーラーラーラーラーラーーー今日もいい天気ぃぃぃーーー」
「首ぃぃぃぃぃ!!!!死ぬ!!!僕死ぬよ!!!!今日こそ死ぬよ!!!!」
「平気よ、あんたなら死なないわ。あたしはあんたのおもちゃとしての耐久度を信じてる」
「おもちゃなら大切にしろぉぉぉ!!!って言うか、僕はおもちゃじゃねぇぇ!!!!」
当時はまだ悟りを開いていない新悟は負けん気が強く、打てば楽しく響く鐘みたいな男だったのであたしはほんの少しだけいた腐りきった本性を知っている手下と共に弄びまくっていたのだ。まぁ、その日はあたし一人だったけれど。
「しっかし、新悟。あんたも不憫よねぇ、弱みがあるからってあたしから逃げられなくて」
「うるせぇ、お前が飽きるまで付き合ってやるよこんちくしょうが」
「こんな可憐なあたしに対してこんちくしょうなんて下品な物言いをしないでくれないかしら」
それに何よりあたしは個人的に新悟のことが気に食わなかった。こいつはあたしが可愛いとよーく理解しているくせにあたしの可愛さにひれ伏すつもりが一切なかったのだ。自分以外の誰にも屈服するつもりがないなんて負けん気の強いことをよく言っていたものだ。
ブランコから勢いよく飛び、そのまま新悟の尻に蹴りを入れた。ついでに金玉にも蹴りを入れる。
「ぎゃっ!!!」
ああ、なんて苦し気な顔してるのかしら……いくら虐めても飽きないわねぇ♡
「おしおきよ………さーて、そろそろ良い時間だし今日のところはこの辺にしてあげるわ。それじゃあまた明日ね」
「おい………てめぇ」
「あら、悶絶極まりない顔してるくせに元気ね。真正のドMちゃんは可愛すぎるあたしにもっと虐めてほしいのかしら?」
新悟は脂汗を掻きながらギロリと鋭い視線を向ける。
「こんなことしてたらバチがあたるぞ、ボケなすび」
「バチってのは神様があてるもんでしょう。神に愛されたあたしにあたるわけが……いえ、神が当てるわけないじゃない」
あたしは新悟の顔をぐりぐりと踏みにじった後に満足しながら帰宅をした……
この後のあたしに起こった出来事がバチなのかそれとも恵みなのか………あたしは今でも分からないでいる。
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