第5話 運命は赤い糸だけじゃありません

 今日は随分とクラスが賑わっていました。


「おい神楽坂聞いたか?今日このクラスに転校生が来るらしいぞ」


「そうなんですか。それはまた賑やかになりそうですね」


 うむ、それはもしかして以前僕を助けてくれた館母さんでしょうか。


「なんでもよ、お目目ぱっちりしてて、髪がふんわりしてて、すっごい聖母みたいな優しい顔しててそんでもってエベレストみたいにでっかい巨乳が凄い女の子らしいぞ!!!!もしかして学園一かもしれないってさ!!」


 間違いなく館母さんですね。同じクラスになるとはなんとも縁があるものです。


「俺たちはただでさえ東雲さんって言う美少女がクラスにいるってのにさらに華やかになるよな!!!もう俺たちのクラス、最高かよ!!!!美少女コレクションかよ!!!!」


「広くん、心の中でそう思うのは仕方ありませんが、そういう目で人を見すぎるのはよくないですよ」


「わーってるよ」



 すると由良江が後ろから抱き着き顔の横に顔を出してきました。


「しーんご。新しい女の子が来るからってあたし以外を見たりするんじゃないわよ」


「約束できません」


「はいぃ、こんなウルトラプリティでビューティーな女の子があんただけを見てあげてるんだからいつでも見つめ返すことが男の義務だと思わないかしら?」


「思いませんね。私の両の眼は僕が見たいものだけを見ます」


「ふーん……意固地な奴ねぇ。まぁいいけど」


 由良江はキスする寸前まで僕に顔を近づけました。そして瞬きもせずにジッと見つめてきます。これでは由良江以外の全てが見えませんね。


「じゃぁ物理的に見えなくするわ」


「先生に怒られますよ」


「あたしに意見できるのはあたしとあんただけよ」


「そんなまさか」


 クラス中から奇異の視線や、またやってるよって感じの視線、地獄の業火を呼び寄せたのかと言うくらいの熱い嫉妬の視線、もっと近づけと言う視線、とにかく色んな視線を見に浴びます。昔は包丁を持っていた人もいましたっけ……僕が悟りを開いていなければいたたまれなさでどうにかなっていたでしょう。


 先生がやってきました。挨拶もそこそこに話題の転校生について言及します。


「はい、今日は皆さんに新しいお友達が来ます。と、その前に東雲さん、ちゃんとこっちを向いてくれるかしら?」


「先生」


 由良江は一瞬だけ先生の方を向き、一撃必殺のエンジェルスマイルをぶつけました。


「新悟の顔を見続けたいんです。このままでいいですよね」


「……なら……仕方ないですね」


「先生!!??」


「羨ましいぞ、神楽坂くん」


 アイドルは彼氏がいるだけで大バッシングを受けるのに由良江には皆さん砂糖やチョコチップ山盛りのモンブランよりも甘いですよね……これが神に愛された女の力ですか。


「言ったとおりでしょ」


 世界は自分の意のままと言わんばかりの闇のある笑みが僕にぶつけられました。人間一瞬でここまで顔色を変えることができるんですね。


「さて、それじゃぁ転校生さん、いらっしゃーい」


 そして一人の女性がドアから入ってきました。そこにいるのはやはり僕の想像通り館母さんです。


「館母美穂です!!皆さん今日からよろしくお願いしますね」


 場がざわめきました。全てを包み込むような嫋やかな笑みと……おそらくは山のように大きな胸に男子たちの本能が刺激されたのでしょう……まぁ僕にとってはとうの昔に乗り越えた煩悩ですが……


 嘘です、煩悩はまだ超越してません……ただまぁ彼らのように分かりやすくテンションが上がることはもうありませんが。


 それに不思議なんですよね、彼女には女性としての魅力を感じたいとも思わないのです。由良江相手では魂が魅力を感じることに全力抵抗をしますが、彼女相手だとまるで魅力を感じないのが当然というような。


「それじゃあ東雲さんの隣に座ってちょうだい」


「はい」


 洗練された上品さを感じさせる歩みで由良江の隣に座りました。館母さんは僕の方に顔を向けて動かす気配もない由良江に声を掛けます。


「初めまして、貴方が東雲由良江さんね」


「ええどうも。今日からよろしくお願いね…あら?なんであたしのこと知ってるのかしら?」


「この学園に来た瞬間から貴女の噂は聞いてたわよ。完璧超人な絶世の美少女がいるってね。どう見ても貴女のことでしょう」


「あらあら、見るだけで確信されるなんて流石はあたしね。我がことながら誇らしく思っちゃうわ。

 知ってるようだから挨拶は必要ないみたいだけれども一つだけ忠告しておくわ……今あたしが見ているこの男、神楽坂新悟はあたしのものだから奪おうとなんて思っちゃだめよ……もしそんなことを考えようものなら」


 由良江の瞳が赤黒い光を放ちながら濁りました。


「潰すから」


 ゾッとするような声色です。心の弱い人が間近で聞けば心臓麻痺になりかねません。


「安心してちょうだい。私は神楽坂くんに恋愛感情なんて絶対に抱かないから……だからそんな怖い目をしないで」


「そう、ならいいわ。仲良くしましょう」


「ええ、貴女とは長い付き合いになりそうだわ」


 相手のことを一切見ながらする握手はなんとも奇怪なものでした。


「神楽坂くんも」


「宜しくお願いいたします」


「うん。よろしくね」


 握手をしながら以前買ってきていただいた服の代金を後で支払わなければなと考えていました。


 そして放課後になり僕は館母さんを屋上に呼び出しました。別にやましいことをするわけではないのですが、転校生にいきなりお金を渡すというのは何も知らない人に目撃してしまうと変な勘繰りをされそうですし、下手をすれば僕が館母さんに脅されているなんて思われそうだったので念のため人気のないところを選んだのです。


「館母さん、転校初日はどうでしたか?」


「どうって、すっごい楽しかったわ!!皆優しい人ばかりだし、おおらかな空気が凄く気持ちいいの。上手くやっていけそうな気がすっごくするわ」


「あはは、それなら何よりです。それで今日呼び出した理由なんですけど「そう、ちょうど私も話したいことがあったから良かったわ」はい?」


 館母さんは僕のことを上から下までジックリと見てきました。品定めをするような下品なものではなく慈しむような視線で自分の脳裏に焼き付けたい、そんな視線です。


「今日ね、変な夢を見たの……それでさ………それがきっかけってわけじゃないけれど貴方のことを色々考えてみたのよ。

 ここで初めて出会った時から貴方には特別なものを感じていたの………それが何なのかあの時は分かってなかったけれど………今なら分かる。この胸の高鳴りと魂の共鳴が答えを教えてくれてるの」


「は…はい?」


 次の瞬間、大きな胸に僕の顔は埋められていました。モムモムとして弾力が凄いです。


「ちょ………ちょちょちょちょ、どうしたんですか??」


「感じる?……私の温もり………心臓の鼓動」


 …感じます何よりも誰よりも安心できる鼓動……この温もり……この鼓動……まるで母親の子宮の中にいるようなえも言われぬ安心感。


 館母さんは僕を胸から離し、そして真っすぐに見つめてきました。


「あのね………こんなこと言うと変な女って言われるかもしれないけど………我慢できないから言うわね」


「はい」


「貴方と私は前世からのつながりがあるのよ………そう、貴方は私の前世の」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド


 不意に身を切り刻むような殺気の嵐が襲ってきました。慌ててそちらを見ると由良江が般若よりも恐ろしい形相でこちらをにらんでいます。


「あたし言ったわよね………新悟に手を出したら潰すって……あたしより少し胸が大きいからってそれを使って誘惑しようだなんて小賢しくて愚かな小娘ね………もう二度とそんなことを考えられないようにそのご自慢の胸、抉ってクレーターにしてあげる」


「止めてください由良江!!」


 襲い掛かってくる由良江を意にも介さず………もしかして気づいてもいないのかもしれません………館母さんは言葉を続けました。


「息子だったのよ!!私は貴方のママだったの!!!」


「はぁぁ????」


 瞬間、由良江から一気に力が抜けて間の抜けた顔を見せました。しかし、やはりながらそんなこと気にも留めず館母さんの言葉は続きます。


「ここで再会できたのは運命だと思う……神楽坂くん……いえ、しんちゃん、貴方と私は運命の赤いへその緒で繋がってるのよ!!!!!」


「運命の赤いへその緒ってなによぉぉ!!!!!?????????????」


 由良江の疑問符だらけの絶叫がどこまでも広い大空に響き渡りました。


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