第4話 同棲開始は口移しと共に

 「おかえりなさい新悟」


 フリフリのエプロンをつけ、右手にお玉、左手に包丁を手にした由良江が迎えてくれました。はちきれんばかりの笑みを見ると僕も少し嬉しくなってしまいます。


「はい、今日からお世話になります」


 一度我が家に戻ったのですが、すでにそこには僕の私物はすべてなくなっていました。超能力で全て由良江の家に移動させたのでしょう………そこまでやるなら僕自身も裸で残すなんてことはしてほしかったものです。


「うふふ、それで新悟、今日からあたしと新婚生活ってことになるけど「なりませんよ」とりあえず」


 天から賜ったと言われる顔を思いっきりあざとく綻ばせてきます。


「ご飯にする?お風呂にする?それともあ♡た♡し???」


「どれも結構です」


「ああもうっ、イケずなやつね。別にいいのよ、玄関であたしを襲っても。

 安心しなさい、履いてないから」


 エプロンをたくし上げると一糸まとわぬ由良江の身体が瞳に映りました。改めて見ると国宝のように美しい形をしている身体です。天性の肉体を地道な努力で磨き上げたものだけ得ることができる完璧を超えた肉体……そういう感想を抱かずにはいられません。


「そういう破廉恥なことは止めてください。僕のタイプはもっとお淑やかな人ですよ」


「知ってるわ。でもそういう女になるのは無理……あたしはあたしだから。

 それにさぁ、あんたがそういうのがタイプになったのだってあたしが苦手だからその逆がタイプになったってだけの話でしょ。どーせ」


「まぁ多分そうですね……と言うかそれ認識してたんですね」


「当然よ。まぁあれよ……昔のことは本当に悪いと思ってたわ……あんたが異常にタフだったからつい面白くなっちゃって」


「客観的に見たらなんで死んでないのか不思議でしたからね。当時は毎日その日一日生きられたことに感謝していたものです」


「それが今の悟りを開いたあんたに繋がってるわけね。感謝しなさい」


「どの口がと言いたいところですが………感謝しております。今は全てに感謝をしているのです」


「さて、それじゃぁとりあえずご飯作ったから食べましょう」


「もう作ってたんですね……分かりました、それでは冷めないうちにいただきましょう」


「ふふふ、由良江ちゃん特製天ぷらそばは本当に美味しいからほっぺたを堕とす準備をしておきなさい」


「それは楽しみです」


 そして僕たちはリビングで合掌をしました。


「いただきます」


 そしてそばを食べようとしたとき身体がピタリと止まりました。


「おっと、待ちなさい。新悟、あたしとの初めての夕食を普通に食べられるとでも思っていたのかしら?」


「どういうことですか?」


「こういうことよ」


 天ぷらを箸にとって僕の口に運んできました。そのまま口の中にツッコまれ、僕は思わず咀嚼します。


 モグモグモグモグ………ごくんっ


「美味しいですね!!由良江、いつの間にこんなに料理の腕を上げたんですか?」


「異世界でちょっとね……ふふっ、口にあって嬉しいわ」


 今度こそ自分の手で食べようとしましたが、やはり僕の身体は動きませんでした。


「由良江……もういいんじゃないですか?あーんもしたではないですか」


「あーんはただの前座に過ぎないわ。ここからが本番に決まってるじゃない。

 一生分の愛をあんたに捧げられなかった前のあたしの分まで今のあたしはあんたに愛をぶつけないといけないのよ」


「……愛される側にも都合ってものがあるんですが」


「あたしの魅力に堕とされた後も同じことが言えればいいわね」


 そう言って自分の作ったそばを口にしました。美味しそうに咀嚼をしてにんまりと微笑みます。できの良さに満足しているのでしょうか。


 そう思っているとふわりと浮かんで僕の方にやってきました。そして勢いよくキスをしてきます。


「んんんんんっ!!!????」


 ジュルジュルジュルジュル


 そばが……由良江が咀嚼したそばが僕の口の中に入ってきてます!!!!


「ぷはぁぁ……どう?美味しいかしら??」


「美味しいですけど……」


 口移しとは……舌に由良江の生々しい感触が残ってますね……


「でしょぉぉ。あたしのつばは二番目に最高の調味料だからね!!!」


 ったく……肉食が過ぎますよ貴女は………


 でも別に嫌いじゃないんですよね………恋愛対象には絶対に見れないだけで。


「一番はなんですか?」


「あたしの愛に決まってるじゃない」


「相変わらず可愛らしいこと言ってますね」


 不意に白い閃光が目の前をよぎりました。何事だと思う間もなく白いベールと白縁眼鏡をかけているスラリとした体形の女性が僕たちの前に現れました。背中に翼が生えているのでただものではないことは分かります。


「あっ!!あんた、ホノカ」


「ホノカ?」


「あたしを異世界に転生させた女神よ………あんた何しにここに来たの?転生の儀はきちんと行ったでしょう。

 ここはあたしと新悟の愛の巣なんだけど」


 ホノカと呼ばれた女神さまは僕をじっくりと見ました。


「貴方が神楽坂新悟様ですね」


「はい。お初にお目にかかります……うちの由良江がお世話になったようで」


「いえ、お世話になったのはこちらですよ。私の愛する世界、アルドローアを助けていただいたんですから……今回現れたのはその恩を返すためですよ」


「恩を?」


「私は由良江様から貴方のことを何億回と聞いてきました。その想いの重さは惑星を圧し潰しブラックホールを作り出すほどの重さです……だからそれほどの愛をぶつけられている貴方と由良江様を永久の番いにしたいと思いまして。いえ、すでにそうなるために手は打ちました」


 その時僕と由良江の指に赤い糸が現れました。かた結びをされています。


「運命の赤い糸ってわけですか………つまり、僕と由良江は運命で結ばれるようになった……と」


「そういうわけですね」


「なるほどなるほど…………」


 僕の顔がアルカイックスマイルを浮かべ上げる感触がしました。


「なれば、なおさら僕は由良江と付き合うつもりはありません」


「頑固な人ですね。ただ運命からは逃れられませんよ」


「壁は高ければ高いほど燃えるタイプの男でして……せっかくこの世界まで来ていただいて申し訳ありませんが貴女が何をしても僕は由良江と付き合うつもりはありません。まして、運命なんて言う理由で押し付けられるならばなおさらです」


 ニコッ


「僕、運命とか宿命とか言われると反発したくなるんですよね。神だか何だか知りませんが、誰かの敷いたレールの上を歩くなんて真っ平ごめんです。

 僕は、僕の意思以外に屈服するつもりは一ミクロンたりともありませんから」


「……貴方「もういいわよ」…?」


 由良江が僕に後ろから抱き着いてきました。


「聞いたでしょ、あたしが惚れた男は誰よりなにより頑固なエゴイスト野郎なのよ。自分の意思以外のものには全力で反発するわ。

 あたしからしてもあたしの魅力だけで篭絡したいからあんたの助けは不要よ……悪いけど皆のところに戻ってちょうだい」


「ふむ………」


 僕と由良江を交互に見た後に恭しく頭を下げてきました。


「分かりましたよ。余計なお世話でしたね………でも帰る前に一言言うとしたら私の目から見て貴方達はとてもお似合いだと思いますよ」


「でしょう!!」


「止めてください」


「それでは私はこれで……由良江さんご武運を祈ります………そして新悟さん。私は貴方に何かをすることはいたしません………が、すぐに貴方は運命の偉大さを思い知ることになりますよ」


 意味深ですね……


「上等です」


「それでは」


 シュンッと僕たちの前から消えていきました。同時に赤い色がなくなります。

 由良江が後ろから僕を床に押し倒しました。


「さぁて………それじゃあお腹も膨れたし、邪魔者もいなくなったところで」


「まだほとんど食べてませんよ」


 エプロンを脱いで一糸まとわぬ裸体を晒してきました。


「別腹………いただきまーす」


「肉食系が過ぎますよぉぉ!!!!」


 こうして由良江の愛を一身に受け続ける日々は神の宣告と共に始まったのです。

 ちなみに僕は食わせませんでしたよ。由良江にだけは絶対に性行為をしないと誓っていますからね。


 ま、本当に惚れたら話は別ですが。


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