第3話 愛されるか殺されかけるかです
僕は深々と頭を下げました。事故とは言えこの場合悪いのは僕です。
「醜いものを見せて申し訳ありませんでした」
「いえいえ、別にいいのよ。もう慣れたし、ぶっちゃけ反射的に声上げただけだし。私の方こそ事情も知らずに大声出してごめんなさいね」
とにかく僕は見ず知らずの人間に勝手を脱がされて持っていかれたという話でなんとか誤魔化すことにしました。流石に幼馴染が生まれ変わって超能力者になって僕の服を奪っていったなんて信じていただけるとは思えなかったからです。
「ああそうだ、自己紹介しておくわね。私の名前は
「そうなんですか。僕は神楽坂新悟、この学園の生徒です。よろしくお願いしますね………それで、よろしければなんですか」
「分かってるわ、適当な服を買ってきてあげるから少しだけまっていてちょうだい」
「感謝いたします」
「ははっ、貴方可愛い子ね」
館母さんは綺麗なウインクを残して去っていきました。一人になった僕は暇になってしまったので座禅を組んで心を奥底に沈めていきます。
……………まさかこの世の中に輪廻転生と言うものが本当にあるとは…………それも超能力を身に着けてこの世に帰ってくるなんて………とんでもない話ですね。そしてその人間が由良江であることが何よりもとんでもないです…………
僕は……この後いったい何をされるのでしょうか……
脳裏に幼き頃の記憶が蘇っていきました。
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『いい顔してるわねぇ……ほらほら、一生懸命逃げないと犬に食われるわよ』
『僕は美味しくないよぉぉぉ!!!!!!!』
『ひゃーひゃっひゃひゃっ!!!!!!!』
自分の背丈より大きな体躯を持つお腹の空いた犬を放された庭に放り込まれたり
『ほらほらほら、新悟くんのカッコいいところ見てみたい!!!飲み干せ飲み干せ飲み干しなさーい!!!!!』
『ごぼぼぼっぼぼぼ!!!!!』
『死にたくないなら飲み干しなさーい!!!!』
風呂の中に頭を突っ込まれて窒息死しかけたり………
『あたしくらいの美少女になると変態がくるから護身術も覚えておかないとねぇ』
『こぴっ………こぴこぴ』
『あら、やり方間違ったかしら……まぁいっかもう一回やればいいし。おらっ!!』
下手な三角締めをくらいまくって首が折れかけたり………
『風が気持ちいいわねぇ』
『死ぬぅぅぅぅ!!!!!!』
『けらけらけらぁぁ!!!!!!』
自転車に括り付けられて市内を引きずりまわされた後に下り坂から転げ落とされたり……
『もーえろーもーえろー魂をもやーーせーーー』
『熱いよぉぉぉ!!!僕はチャーシューじゃねーんだぞ!!!!!』
『あんたみたいな不味そうなの食わないから安心なさい』
豚の丸焼きみたいに火の上に設置された棒に固定されたり………
『死ねクソガキィィ!!!!!』
『新悟ぉぉぉぉぉ!!!!!』
『………ぐぼっ』
変態から守ってナイフで刺されたり…………この時は臨死体験しましたよね……むしろ臨死体験がこの時だけってのが奇跡だったりします。
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今思い返してもなんで五体満足で生きてるのか不思議ですね……我ながらなんてタフなんでしょう。命の強靭さと言うのを僕ほど知っている人間はそうはいないはずです。それを学ばせてくれたことには感謝すべきでしょう。
それに……由良江も反省してそんなことはしないと誓ってくれましたし全ては若さゆえの未熟さが招いてしまった事故のようなもの………もう気にはしていません……
ただやはり、そんなことをされた相手を恋の相手に見るのは………僕も人間なので難しいというか……なんというか。
「………無理ですね」
やっぱり無理です。どうにかして由良江には僕のことを諦めてもらいましょう。
そうしていると館母さんが戻ってきました。
「お待たせ」
「いえ、お手数かけて申し訳ありません」
館母さんからジャージを受け取り袖を通していると不意に頭を撫でられました。
「どうされました?」
「ああちょっと……なんだか可愛いなぁって思っちゃってさ。立派な青年なのにごめんなさいね。なんだか甘やかしたくなる顔なの」
「いえ、大丈夫ですよ。服のお礼もありますしお好きにしてください」
「それではお言葉に甘えて」
思ったよりも素早く頭を撫でてきました。
「いい匂いする……それにサラサラね」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「ふふふ、貴方変わってるって言われない?」
「変わってるというより……悟っていると言うことをよく言われますね」
「悟ってる?」
「臨死体験とか、それまで僕を虐めていた女性から告白されたと思ったらヤンデレ化したり、色々ありまして…ある時から悟ったかのような男になったのです………例えば」
心を静めて手を伸ばすと一羽の雀が手の先にとまりました。その一羽を皮切りにして何羽も何羽も身体にとまります。
「このように動物と心をかわすことができるようになっているんです……後光が差していると言われることもありますよ」
「ふーん……面白いわね貴方……って言うか今現在進行形で後光さしてるわよ」
「そうなんですか?気づいたらでてるんですよね」
「そんな汗みたいな感じなの?」
「頻度は汗よりは少ないですよ。
とにかく本日は本当にありがとうございました。服の代金はまたこの学校で会ったときにお渡しいたします……それでは」
僕は雀や鳩たちにお願いをして空に飛びました。
「うっそぉ!!!」
「またお会いしましょう」
より近くから見る空は、それでもやはり雄大でした。
「今日から由良江と同棲………ですか……」
それでもやっぱり気は重いです。
何せ思い出す記憶は死にかけたものか、愛されすぎているものかの二択がほとんどですからね。
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