館の一階 後編

部屋に足を踏み入れると、しんみりとした空気が部屋中に染み付いていた。白色のカーテンがふわりと揺れ、その前にあるデスクの上にはランプが置かれている。等身大の鏡に本棚、クローゼットなどが設置され、部屋の隅には一人分のベッドの上に藍色の毛布が掛けられていた。

「ホテルの一室みたい…。しかも和室付き。まだ3部屋くらいしか見てないけどこの館すごい豪華だな」

俺は感心しつつ、部屋の奥へと進んだ。

奥にはさっきまでの雰囲気とは打って変わって落ち着きのある和室が見えた。桜模様の障子に大きな富士が描かれている襖。淡い緑色の畳からほんのりと香る草の匂いが心にゆとりをくれる。襖を開けると収納された座卓や座布団、あと2つほど大きな布団が仕舞われていた。

「ひょっとして誰かが使っていたのか?にしては生活感がない。使われていないまま部屋が維持されているようだ」

桜模様の障子からは木漏れ日が漏れ、暖かな日差しがとても心地よい。

一通り見たが特にこれと言って変わった様子もない広々とした部屋だ。

「次の部屋に行ってみるか」

 俺はここを後にし隣の部屋へと足を運んだが一瞬、部屋を間違えたのではないかと目を疑った。

「ここ、さっき見た部屋と全く同じだ。物の位置も部屋の構造も全部」

まさか、と思い、次の部屋も次の部屋も確認をしてみたがなんと続けて5部屋とも部屋の内容が全く同じ。

「やっぱり、ここが自室なんじゃないか?だから5部屋あるってことは少なくとも、5人以上は俺と同じ夢を見ている人がいる…とか」

ミステリー好きの俺をあなどるなかれ。この推理は間違っていないと俺の勘が直接脳内に訴えかけてる。俺はキモい笑みを浮かべながらもう一度、館内図を見直しにエントランスホールへと戻った。

「よくよく確認してみたらここに部屋名書かれてた。なになに?俺が見てきた順に

ダイニング×キッチンルーム、リビングルーム、自室が並んで5個。そして次は大浴場×洗濯エリア。って大浴場!?」

おいおい、まさか夢の中でも大きな浴槽に浸かれるというのか?これは非常にありがたすぎる。俺風呂は長風呂派だからな〜。

「なんてこと考えているうちに風呂入りたくなっちゃった。もうこのまま入っちゃおっかな〜♪」

俺はるんるん気分で大浴場への扉を開け、赤の暖簾(のれん)をくぐり抜けるとそこに待っていたのは大地獄だった。

「ゴンッっ!!!」

鈍い音と共に頭に強烈な激痛が走る。

「痛ッッったァァァァーーーー!!!!!」

「痛い痛いめっちゃイタイ。なにこれ急に!桶?投げるならちゃんと投げますって言ってから投げなさいよ!?!?」

なぜかテンパってオネエ口調になったと同時に恐ろしいことに気がついた。

…あれ?俺、赤色の暖簾くぐってなかった?

??「ちょっと!?ここ女湯よ!このバカ!何してんの!?この変態ドスケベクソキモ男!!」




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