第12話 残ったもの

とうとう怪物が収容されることになった。念願の解放。母は大層喜んだ。まだ未熟な怪物たちが蔓延る箱で、彼女を英雄扱いする。


良い娘を持った。


"就職"だね。


そう、この箱の中では収容施設に入ることを"就職"という。なんの生産性もない怪物を引き取る場所を就職先など、甚だ可笑しい。


そして箱に入る人間たちは彼女に話しかける。その思惑は、怪物と同じ思考だ。


自分の産んだ怪物も入れてくれないだろうか、と。


それは持て囃すのではなく、媚だ。自分が楽になりたいからやる、人間らしい動き。想像通りで、気持ち悪くて笑えた。


怪物を収容することが決まったのに、彼女は辞めようとしなかった。


辞めれない、と男に言うのだ。


偽善者たちは結婚をしなければ辞めてはならない、と酒を煽るたびに言っていた。そんなものあり得るはずがないのに、彼女の脳は可笑しくなっていたのだ。洗脳されていたとも言える。だから、男に言うのだ。


結婚しないと辞めれないのだ、と。


そして男はふと、旅行に行こうと彼女を連れ出した。指輪を作るために。

数カ月を経て出来上がった指輪を差し出しながら、こういうのだ。


「結婚しよ。ってね?」


実際はすぐには結婚とはならない。しかし、指輪の効果は大きかった。それは彼女を解く首輪になった。


そして彼女は無事卒業をした。


しかし物語は終わらないのだ。


彼女に残されたのは、違和感の残る喉。肺。心臓。新しい新鮮な空気が流れている場所でなぜか息が詰まる。

みんな、こんな風に息ができなくなりながら仕事をして偉いな。なんて呑気なことを考えていたら。


彼女は病院へ運ばれた。


叱られる、なんて慣れていたのに頭が真っ白になって倒れたのだ。彼女に残ったのは疾患だった。それも5年10年で治るものではない。おそらく一生モノの傷。そんな彼女には冷たい風が吹く。厄介な怪物だと。いらない物を引き取ってしまった、と。


そういう風に世の中はできている。


怪物は爪弾きに合う世の中なのだ。怪物はまだ、崖っぷちで何とか立っているがいつ落ちるかなんてわからない。


明日落ちるかもしれないし、意外と村の真ん中まで戻ってくるかもしれない。


怪物の収容所に入るのは、彼女かもしれない。



生まれたのは、怪物だった。

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