第11話 博覧会
やがて大人になっていく。それは時が流れれば自然なこと。
彼女は就職をする前に気づいたことがある。子どもの泣き声が苦手だった。耳に障るのだ。理由は分からないが、恐らく。
怪物を思い出す。
怪物は鳴き声が得意だった。そうすれば女が言う事を聞く。そのプロセスを彼女は受け入れられない。それと連動しているんだろう。
だったら、鳴き声が出ない場所にすればいい。ああ、怪物収容施設なんてものもあったか。
ならそこへ行き、家に居る怪物も引き取ってもらえばいい。それならあの女も一息つくだろう。何より父も楽になる。
彼女は面接ではこう答えた。
「同じ境遇の人だからこそ、寄り添えるはずです。」
そんなこと微塵も思っていない。そうすれば自ずと利益が帰ってくると分かっているから平気で思ってもいないことを放てる。
案の定、同情された。予想通りだった。しかし一つだけ予想しない答えが返ってきた。
「家でも働き口でも、同じ状況だとキミが苦しくならない?」
その言葉に心臓が跳ねる。涙が出そうになるのを堪える。寄り添われたと感じるも怪物は自分の思惑を優先する。大丈夫だと。自分ならできると。最早それは自分に対しての答えだった。
同時に地獄の釜の蓋が開く。
怪物が怪物の面倒を見るなんて、とても面白い見世物小屋だ。
ここに来る奴らは全員正気の沙汰じゃない。どうして好き好んで甲斐甲斐しく世話などできるのか。怪物は思惑があり、目標があるからできることを優しさだけでできるはずない。
偽善者の集団。私は良いことをしているんだ、と自慰行為を見せつけるためにしている。
怪物の思考は誰にも理解できないだろう。
とっくに壊れているのだから怪物なのだ。生まれたときから怪物なのか、壊れたから怪物なのか。どっちにしろ怪物である事実に変わりない。
だから怪物は裏で酒が入っている間にこう言われていた、と口伝で聞くのだ。
問題児。
ほらやっぱり。お前らも怪物じゃないか。
やはり自慰行為だ。それで気持ちよくなっている。自分は聖人なのだと。でも、しっかりと醜い。それを棚に置いて、怪物を問題児と揶揄して。
さぞかし気持ちよかっただろう。怪物に育てられた怪物が怪物の面倒を見ている。敷かれたレールを走り続ける怪物。
しかし怪物は人間だ。
罅が入った怪物も、積み重なった疲労や鳴り響くナースコールで寝られない頭で、涙が止まらない。
疲れた。
もう疲れた。
母にもう嫌だ、疲れた、行きたくないと溢すと。
そうだよね。大変だよね。でも、お願い。今だけは頑張って。
分かり切っていた答えを出される。
しかし怪物は、その言葉を聞いてボロボロになりながら戦う。
怪物は、やはりあの優等生に変わりはない。
がんばった先に、何が起ころうとも。少女はがんばれてしまうのだ。
そうやって、生きてきたから。
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