第10話 罅
少女はそれからは少しだけ幸せな日々を手に入れた。
ジャンケンをしながら友人と帰り、安い食事を口にして、歌ったり、歩いたり、少女と少女の間で酷い奴がいたもんだ。なんて話し合いながら。
優等生のフリを一緒に続けた。欺き続けた。それが怪物たちから逃げ切る唯一の方法だった。
少女はもう未成年ではなくなっていた。だから祝いにと仲間たちが店へと連れて行ってくれる、なんて話になる。
しかし少女はあの女の管理下に置かれていることに変わりはない。しかも大学まで通学に2時間はかかる。それは帰りも同じことが起きる。店に行ってもせいぜい1時間が限界でしかない。
なら、朝まで一緒に過ごそうと提案をしてくれる。
本当にいい友人を持った。今までそんな風に遊び惚けるなんてできなかった。だから少女は勇気を出して女に尋ねた。
しかし女は甘くない。
ふしだらだ。お前のことを信用できない。どうせ男だろう。証拠を出してみろ。
あの金切り声がスマートフォンから鳴り響く。見兼ねた友人は金切り音がするそれを貸してほしい、とジェスチャーをする。
そして友人は語る。
「どうも、友人です。お母さまですね。いつもお世話になっています。ぜひ彼女と遊ばせてくれませんか?私の携帯番号をお伝えするので、不安だったらそちらにかけてください。私が見てるので大丈夫ですよ。」
そして友人は鳴らなくなった音の機械を渡し、それは「危ないことはしたらダメだよ」と優しく響いて切れた。
あっけにとられる少女の横で友人は苦笑いしながら。
「やばいお母さんだね~!」
そこで、少女はやはりそうか。おかしかったのは自分ではなく、あの女だったのか、と腑に落ちた。
その日飲んだお酒はとても美味しかった。
いや。
恐らく友人たちが居たから美味しかったのだろう。
あれ以上美味しい酒を飲んだことはない。
ちょっと悪いこともしてしまう、友人たちが愛しくて、大好きで。少女は大人になっていく。怪物のことを目の前のアルコールで搔き消した。
笑いすぎて、声も枯れて眠たくてフラフラだったが、とても心地よかった。
地獄の始まりなど、知りもしない罅割れた少女。
一度罅が入れば、隙間から溢れ出ることをこの時の少女は気づかなかった。
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