第9話 壊れかけの
少女は塞ぎ込む。
教室の片隅で、誰とも話さず只時間が過ぎるのを待つ。あのクラブに行く理由もよく分からないが、そこすら行かなくなれば自分はどうなるかわからない。
そもそも自分の価値とは何か。
傷つけ、それを自慢げにショーのように披露している少女はピエロだった。壊れた人形のように滑稽だった。
前に己を好きだと言ったやつに連絡を取ってみるも、やはり価値を見出せずさっさと捨てた。手すら繋いでいない。ごっこ遊びでしかない。
それでも女は求めた。自分に価値を見出してくれる者を。
女の価値とは何か。
あの女に仰いでみた。福祉関係に勤めてみてはどうか、と。
原因はわかっている。
あの怪物の足掛かりが欲しいんだろう。
女は只の怪物のための道具で、唯一出来上がった完成品だと誤認している少女のことを親のように振舞って導いているんだろう。
それでも、女は縋る。
価値が欲しい。生きている意味が欲しい。誰かに必要とされたい。なんなら、怪物から解放されれば女は母になるのではないか。救いがあるかもしれない。自分に向かって醜いなんて言葉を吐かなくなるのではないか。卑しいと言わなくなるのではないか。そんな風に将来を考えながら。
女は、あの噂になった男と二人きりで出かけることになった。
恐らくだが、男は己に価値を見出している。どんな状態でも、受け入れてくれるかもしれない。
藁にも縋る思いで、ぶら下がる。
それは幸か不幸か。誰にも分らない。女にも分からない。
わざとスマートフォンの電源を切り、食事のことなど放りだし、機嫌を損ねる女を無視し、やりたいことをやりたいだけやって、女が幸せに感じることだけを繰り返し。
女は推薦で大学生となった。優等生のフリをするのは、もう慣れていた。
成績も大して落とすこともなく、女も数字を見て何か言うこともなく。
必要そうな技術は先に習得して、有利に動く。そんなのは手馴れたものだ。いつもやっていることに変わりはない。
賞賛を浴びせ持て囃す奴らにそんなことも出来ないのか、と醜い人間へと育っていく。
優等生だったそれは、最早生きてる理由などわかっていない。唯一ごっこ遊びに付き合っている者から捨てないで、と言われている間だけは少しだけ生きた心地がした。
自分にも価値があるかもしれない。
でも怪物に価値などない。
それは怪物が一番知っていることで。
怪物は自分へ罅を入れることで、ごっこ遊びをしている者に価値を見出してもらえない。それだけ恐れて。それだけの理由でやめた。
怪物に価値などない。
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