第8話 何が?

家庭内は凡そ良いとは言い難い。いや、今ならわかる。

不健全だった。多感な少女を待つ家は、荒れた女と怪物が一匹。少女は助けを求めていた。


体の成長、上手くいかない人間関係、女が少女に対する無関心な態度。


限界だった。少女は怪物の相手をしながらでもいいから、話を聞いてほしいと懇願した。無視をされる。大声で泣いてみた。無視をされる。


少女は諦めた。


私が悪い子なんだ。だから、こんなに良くないことが起こるんだ。全部、自分のせいだ。悪い子は、自分を罰せねばならない。


少女の体に罅が入った。その時だけは、罪悪感から解放された。しかしその後また罪悪感へと飲み込まれた。どうして。何か悪いことをしたのだろうか。


次第に食事が喉を通らなくなった。食事をするときはあの怪物と女もいる。気持ち悪い。同じ空間に居られない。気持ち悪い。


クラスメイトは結局自分を女としか見ていない。気持ち悪い。


自分の居場所はない。どこにもない。逃げられない。気持ち悪い。


誰も自分を見てくれない。


少女は心を閉ざした。


少女の食事は、次第に菓子パンひとつとなった。心が弱っているなか、唯一心の拠り所だったゲームもできなくなった。


決定的だった。


少女はいつものように通話をしながらゲームをしていた。そして少し発言をした瞬間頭を殴られた。


あの女だった。


うるせえんだよ!また怪物が起きんだろうが!!


「痛い、痛い!!!やめて、痛い!!いやだ!!!!やめて!!!」


女は少女の髪を引っ張る。繋げていたマイクも力づくで壊した。その瞬間、通話は繋がったままだった。


少女は完全に一人になってしまった。この家に居ては、声を上げることも許されない。


その時にいたのは、クラスメイトたち。全員、心配をしてきた。

そんなに喋っていなかった、気にするほどじゃない。絶対にその女がおかしい。

少女はぐちゃぐちゃの頭のまま、その声を聴いた。


もう、少女は壊れてしまった。


壊れた少女は、元には戻らない。


壊れたものは、戻せない。

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