第5話 変化
静かな部屋。鳴るのはシャープペンが紙を擦る音。暗めの部屋で、ノートだけが輝いている。
優等生の少女は、只管ノートに文字列を書く。右中指は赤黒くなっている。ルーズリーフは小指球によって少し黒く滲んだ。
とても心地の良い、擦れた音だけが響く空間で清々しかった。
時計の針の音すら、正直鬱陶しいくらいに感じるのだ。怪物の放つ音など到底受け入れられたものじゃない。
それを、あの女は分かっていない。最早蛙の鳴き声と同等で煩いという感覚すらないのかもしれない。
なぜ、あれを生かすのだろうか。
人は皆生きてる理由があると言う。しかし少女は怪物の尻拭いをする為に生まれたわけじゃないのに、何時も被害を被っている。
人は平等だと言う。そんなはずある訳が無い。もしあれば、とうの昔に少女は優等生を辞めていた。そして好みの人間を見繕って恋だの愛だのごっこ遊びをしている。
少女には優等生という枠しか用意されていない。
それ以外の席に座ることは、あの女から許可されていない。平等なら、平凡を望める。平凡な少女には力不足な配役がされた。
そして少女は父と同じ系統の高校に進む、と伝えた。その高校は女性が少なくすぐに就職ができると有名な場所だった。
父が喜んだため、女は了承した。
少女の思惑は全く異なっていた。
とにかく、女から離れたかった。
疲れていた。
少女を知らない、只の少女として見られる新しい世界へと行きたかった。
それは少女の反抗。初めて女に抵抗をした日。少女は同じ女であることを呪った日。少女は女からは逃げられないのに、逃げ惑う少女。
そう、何処まで行っても少女は少女でしかない。
そんなことを知らない女は、逃げられる空間を追い求めた。
逃げる場所なんて、あるはずないのに。
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