第3話 せんせい

それからすぐのことだった。

中学2年になると、クラス替えが行われる。唯一仲がいいと言える子とはまた別のクラスとなってしまい人間関係もリセットされてしまった。


いや、されたのは少女だけ。他は他愛もなく話していた。なぜならこの人らは小学生からの付き合いなのだ。当たり前である。しかし少女にとっては殆ど初めてと言って過言ない。これが2年間続く。

あの天真爛漫な少女は見る影もない。

だが少女はのめり込むように部活に打ち込んだ。家で自主練をし、ピアノを独自に練習した。それは正しくあの優等生の少女だった。


しかし蓋を開ければ、地獄だった。


クラスで声をかけられないのは当たり前。集団行動になれば異質と見られる。居ないものとして扱えばいいのに、ある日更衣室で話しかけられた。


「優等生のいい子ちゃん」

「先生のお気に入り」

「媚びを売っている」


明らかに自分に向けたセリフ。

度々、少女は文化部らしからぬ体力で女たちを圧倒していた。そこで体育教師のバレー部顧問がこう言ったのだ。


「なに文化部になんか負けているんだ体たらくが!」


誰も少女の味方などいない。しかも少女を褒めるのではなく、少女を基準にして生徒を奮起させようとしたこの教師。それがどれだけ残酷なことかわかっていない。思春期の女が思うことは1つだけ。


あいつさえいなければ。


それからは地獄だった。


空気のように過ごす毎日。一日でも休めばノートは出来上がらない。しかし過るのは、女たちの嘲笑の顔。勉学を放り出し、絵を誰に見せるでもなく描いて、書いて、掻いて、少女は墜ちていった。


あの場所に行くのが怖い。少女は手を止め、純文学の誰も読みもしない小説を手に取るようになった。


私は、忙しいんだ。だからお前らと遊んでる暇なんかない。

そういう体裁にして、心を殺した。


1年の時から面倒を見てくれていた教師が、2年でも同じ担当になった。そしてこの教師は、部活の顧問の指導者でもある。


この人は、少女に気づいた。

唯一の、味方だった。しずくがおちた。せんせい。

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