第2話 思春期
少女は相変わらず優等生だった。
怪物のための収容所がある場所へ引っ越すべく、ずっと一緒だった幼馴染ともお別れをした。しかし、少女は気づく。そんなの建前だった。幼馴染にとって少女は、とりあえず一人がさみしいから付き合ってるだけなのだ。確かに服装だの、装飾品だの、走り回る少女にとっては邪魔なだけであって興味を惹かれるものではなかった。
引っ越し後の手紙はすぐに途絶えた。
新しい場所でも少女は変わらなかった。
相変わらず、ゲームや外で走り回るなど、女子特有の思春期的反応はなかった。家に帰れば怪物がいるのだ。家で趣味をしたとて、怪物に邪魔されるのが目に見えている。必然と外を歩くようになる。
少女は知らない。女になりつつある人間の怖さ。
ある日、家の前に突然クラスメイトの女たちがいた。家に入れてと叫び散らかす奴らに母もさすがに困り果て招きいれた。結果は散々だった。
自分の趣味を詰られ、ゲーセンで取ってきたぬいぐるみを欲しがり、可愛くない部屋だと言葉を浴びせ、変な奴扱いをしてきた。
残されたのは、綺麗に並べてあったはずのぬいぐるみが乱雑に置かれ意味もなく人間を招き入れた部屋だけだった。
彼女は次第に女たちと浮いた存在として扱われていく。スマートフォンを持たせられないと言われた結果、夏祭りに誘われれば制服で行こうねと言っていたはずの女たちは綺麗な格好をしていた。1人だけ学生服の少女は明らかに場違いだった。
女たちの写真には意図的に少女が映らないように立ち回る。ここにいる意味はなにか理解できなかった。そして彼女たちは当然の如く、買ったゴミをその辺に捨てた。
みんな捨ててるからいいでしょ?
ではこれを片付ける人はどんな思いで片付けるのか。それすら考えもつかないこの女たちは、最早腐敗していると言って差支えがない。
口を開けば誰が好き、カッコイイアイドル、異性の話。少女は理解できない。男になぜそんなに魅力を感じるのか?手に入らないものに対し、なぜそこまで夢中になれるのか?
そこにはごく普通の思春期の女たちが居て、いつまでも夏に取り残された少女だけが佇んでいた。
こんなに無駄な時間を過ごしたことはない。それは虚無だった。なんの生産性もない、他愛のない会話から滲み出る私は特別なんだという意味の分からない自信。
おそらくその正体は、無償の愛。母から絶対愛されているという自信。
この女たちから唯一聞かなかったのは母親への怨念。
これが少女と女たちを隔絶とした関係へと落とし込む最大のキーだった。
少女は愛を知らない。
いちばん大切なものが欠けていた少女は、当たり前から置いて行かれた。
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