生まれたのは怪物だった。
こげたとりで
第1話 誕生
少女はとても朗らかに笑う子どもだった。純粋に笑い、本気で悔しがり、負けず嫌いで、大人から見ると実に健康的だった。
そう、小学生の彼女はまさに『天真爛漫』という言葉がぴったりな明朗快活な子に見えた。しかし少女苦しんでいた。そして大人はそれを美学と呼んだ。
突如少女の元にやってきたのは怪物だった。
父と母は怪物を受け入れた。周りは良く思わない。怪物を連れてきた母は、父方の祖母に疎まれた。悲しみに暮れた母は、その鬱憤を少女へとぶつけ少女は静かに聞き役へ徹した。
次第に少女は祖母たちのことが嫌いになっていった。母から放たれる言葉は、決して少女をいい方向へ導かなかった。偏見で塗り固められていく脳内を、解くものなどいない。それが美学であり、少女にとって当たり前だからだ。
怪物は相変わらず、少女を徹底的に邪魔した。クラスメイトが遊園地に行った、キャンプに行った、虫取りをした、と日記に連ねていく。少女の日記は留守番をした、ゲームをした、借りてきたDVDを見た、など他愛もないものだった。書かれた大人からのコメントはどこかへ遊びに行きましょう、の一言。
なにがいけないのか。どうしてそんなことを言われなければならないのか。どこかに行くことが正しいことなのか?少女は問うた。母へ大人から言われた通りに遊びに行きたいと言えば、そこに母はおらず無口な父と二人で唯々バイクでツーリングをした。
塩と青々とした匂いが混ざり、光が揺れた景色は自分が風になったようだ。とても楽しい時間だった。しかし時は一瞬に過ぎ去り、また怪物の元へ帰る。ヘルメットを脱ぐとき、手に重く圧し掛かった。
怪物は同じ音と映像を好んだ。少女がどんなに嫌がろうと、母は止めなかった。怪物が暴れ、少女が気に入っている漫画を破けばそこに置いたお前が悪いと責められた。
少女はこれが当たり前なのだと信じた。だから飲み込んだ。
それが少女にとって何を意味するのか。
母は言った。お前は一人でも生きていける。
父は言った。母さんは疲れているんだ。
祖母は言った。お前は立派だ。
少女は立派になろうとした。賞を取り、優等生になり、母に自慢した。母は機嫌が悪く、少女の賞や満点のテストを目の前で破り捨て調子に乗るなと吐き捨てた。
それでも少女は賞賛が欲しかった。だから、母や父が得意としていた絵にのめり込んだ。綺麗に描けるとそれは褒められた。
少女は優等生になろうと努力した。自ら学び、大人たちに褒められそれが喜びだったのに、少女の周りは許さなかった。優等生の少女は、次第に反感を買っていった。
私の居場所はどこにあるのだろう。
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