第15話 I’m so tired

 すみれに自宅付近で別れを告げられた後、ハクは暗い夜道を自転車のペダルをゆったりと漕ぎながら帰路に就いた。

 自宅に到着すると、ハクは自転車を停め、すぐさまバッグから家の鍵を取り出しすぐに中へと入る。

 明かりを付けなければならないのは自分。母はまだ仕事で帰ってこないから、当然家には誰もいない。

 いつも母が帰宅する前の段階で、お風呂や洗濯を済ませる。

 何せ二人暮らし。すべてを母に任せてはいつか倒れてしまうだろうから、そんなことするわけもない。

 料理はできないから、それは母に任せている。故に夕食を食べるときははいつも母と一緒だ。

 夕飯の時間が九時過ぎぐらいになろうと、別にどうでもよかった。自分はそんなに腹を空かすタイプでもないし、わざわざ食べるというのもなんだか面倒臭く、それなら一緒に食べた方がいいと思っている。

そんな母は、朝に『今日は遅くなる』と言っていた。

遅いと言っても、八時ごろだろう。大抵いつもそのぐらいだ。

何となく、ソファに体を委ねる。

 風呂掃除しないと――そんな義務感が頭をよぎるもなぜか体が動く気がしない。

 そのまま寝っ転がる。

瞬間、今日一日の疲れがどっと押し寄せてきた。

 別にそんなに動いたわけでもないのに。

 精神的に相当な無理でもしたんだろうか。

 今日はいろいろあった。いろいろあり過ぎた。

 今でも、今日あったことが信じられない。

 明日から、自分はいったいどうなるのだろう……。

 そんな不安がずっと頭の中を通り過ぎては、また戻ってはの繰り返し。

 考えているうちに、何だか段々と眠たくなってきて……。



「もうハクったら。寝るならせめてお風呂くらい入ってよ」

 午後八時過ぎ。ハクはソファの上で、まるで猫のように体を曲げた状態で熟睡していた。

たった今帰ってきたばかりの母は、寝ているハクを見て呆れ気味にそう呟いたのである。

 しかし母は、ハクを無理やり起こすことはしなく、ただ淡々と晩ご飯を作り始め、それが終わると風呂を沸かし、今日の分の洗濯などといった家事をこなしていった。

 その間、ようやくハクは目を覚ます。

「………」目尻をこすりながら、ソファから腰を起こすと、「今、何時だ……?」

「もう十時よ」母は言った。

「お母さん!? ……帰ってきてたんだ。おかえり」

「ほら、テーブルにご飯置いておくから、食べるかお風呂に入るかしなさい」

「ああ、お風呂掃除しなくちゃ……」

 そう言って、ソファから離れようとすると、

「もう掃除はしてあるから」

「………。ありがとう、お母さん。……その、お風呂入って来る」

「うん」

 


 入浴と、その後の夕食を済ませた後、ハクは自室へと移動し今は机の椅子に腰を据えていた。

 何となく帯を開いてみるとメールの通知が一件。

 『部活届け、来週一緒に出そう』

 というメッセージが九時ごろ、届いていた。

 とりあえず、『わかりました』と送っておく。


『今、起きてますか?』

『うん、起きてるよ』

『部活って四人でも申請できるんですか?』


『できるよ。たしか三人から申請できたと思う』

『ハクは来週の月曜、昼休み空いてる?』


『空いてます』 

『昼休み、図書室来れる? お弁当持って』


『図書室ですか?』 

『何するんですか?』


『一緒にご飯食べる』

『それだけですか?』

『あと、部活の申請も。そこで一緒にやろう』

『わかりました。ありがとうございます』 


 最後、すみれから『頑張ろう!』と文字が書かれてあるキャラつきのスタンプが送られてきた。

「ほんとに頑張らないと」

 床についたものの結局四時まで寝つけなかったのは、さっきまでの仮眠が原因か、それとも遠足が楽しみで眠れない少年のそれか。

 いや、この場合原因はその両方かもしれない。

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