第3話 隣の席の。

「はぁ……」


 とても大きな、ため息をついた。

 昨日の夜は考えに耽り過ぎた。いつの間にかカーテンの隙間から白い光が差し込んでいて、気づけば朝を迎えていて……。つまるところ、一睡もできずに学校に登校してきたわけである。


 朝のホームルームが始まる少し前の時間というのは、どこか気だるげだ。二学期が迎えてまだ二日目の今日、周りの生徒も自分と同じく退屈そうにホームルームの開始を待っている。自分のほかにも仲間がいたことに、多少の安心感は抱けたものの――


〈あぁ、どうすればいいんだこういうとき。

 冷静に考えたら『楽器が弾ける人』を連れてくるなんて無理にもほどがあるし……。

 楽器が弾ける人………そんなのどうやって探し出すんだろ?

 ……友達いないのに〉


 鐘の音が鳴り響くとほぼ同時に、担任が教壇に立つ。間もなく、朝のホームルームが始まった。


 担任の話は、どうでもいい話ばかりだ。故に、筒抜けするように話の内容は流されていく。周囲の生徒も、もうほとんど顔を俯かせていた。自分としても、面白みのない話を長々と聞かせられるくらいなら早く終わらせてほしいのにと思う。


 音が響かない強さで机の上を指先でつついていると、担任はふと何かに気づくように声を発した。

「あ、そうだった。そういえば今日、席替えするんだったな。えーっと、どこにしまったっけ……」

 担任は、持参してきたバッグの中をあさりだした。

「あったあった。あー、今からこっち側から順に出席番号言っていくから、言われたところに各自移動なー。………えーとここから――」


 『席替え』という言葉を聞くと、思わず胸がざわつく。

 友達がいない自分にとって、席替えに望むことはただ一つ。それはなるべく目立たない後ろの席がいいということ。

 まあそんな願い、大体いつも地に帰るのだが。

「三十八番」

 勢いよくかけ走る先生の口から、ぽろっと自分の番号が聞こえてきた。

一瞬だけ戸惑ったものの何とか席の位置を特定する。

(後ろ……!?)


 気づいたころには皆、荷物をまとめ移動を始めていた。自分も皆に合わせ、慌てて荷物をバッグの中に詰め込む。

 と言っても、そんなに急ぐ必要はなかった。新しい席は、今自分がいる列の一番後ろの席――つまりはそのまますぐ後ろに移動するだけだったから。


ほかの移動に困っている生徒たちよりも早く移動を終える。席に座ったまま、皆が教室内を行き交う様子を眺めていると、急に眠気が自分を襲ってきた。思わずあくびをしそうになる。

(あぁ眠む……)



 ――パシャンッ。



「―――!」

 しかしそんな眠気は、目の覚める音によってすぐに吹き飛ばされた。生徒たちの注意はすぐに音がした方へと向かう。

 いったい何が起きたのか。ハクは椅子に座った状態で、上半身を横に倒した。

 どうやら誰かが移動中に荷物を落としたようで。床には、まるで散らかったおもちゃのように筆記具があちこちと散乱している。


しかしいかんせん、重い荷物を手に抱えたほかの生徒たちは助けられそうにない状況だった。当の本人も重たいバッグを手に持っているから手に負えない様子である。

彼女は羞恥と困惑をあらわにしていた。首を左右に振りながら周りにSOSを要求している。


そんな彼女を見るなり、ハクは椅子から立ち上がった。

 腰を下し、床に転がっているその筆記具をささっと拾い始める。

「あの……」

すべてを拾い終えると同時に、前方から声がした。

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