第42話 その後
その後の
突然、急激に外堀を埋められてしまったデューキは、結局本当に聖女サーンとの婚約を結ぶことになってしまって。最終的には、教会公認にまでなっていた。
本人としては、これまで同様に年齢差を理由にして、なんとか断ろうとしていたのだが。
「公爵様は、わたくしよりも魔女との婚姻をお望みなのですか……?」
今にも泣きだしそうな表情で、聖女にそう聞かれてしまった際に、思わず。
「まさか! 魔女と婚姻するくらいならば、死を選びます!」
「では、わたくしとの婚姻でも同じでしょうか?」
「いいえ、そんな! 魔女とは比べるべくもない!」
そんな風に、返してしまったせいで。
「死ぬほど嫌だとお思いでないのであれば、わたくしをもらってくださいませ、公爵様」
女性にそんな言葉を言わせてしまったのだ。
とはいえ、どうしても煮え切らず。「あー」とか「うー」とか、頭を抱えながら言葉を絞り出そうとしているところに、さらに。
「それとも、死ぬほどではないだけで、わたくしのこともお嫌ですか?」
そう、質問されて。
「まさか! 聖女様のことを嫌だなどと、一度も思ったことはありません!」
つい、本音を零してしまったのだ。
これが、よくなかった。おそらく最後のひと押しは、きっとこの言葉だったのだろう。
急に表情が明るくなった聖女が、嬉しそうな顔をして。
「でしたら、わたくしが公爵様に嫁いでも問題ありませんね!」
まるで決定事項のように、言葉にすると。どこかから、丸くて白い物体を取り出すと。
「公爵様の同意をいただけましたので、手続きを進めてくださいませ」
ソレに向かって、そう告げて。
そのまま空へと向かって、両手で掲げると。まるで意思を持っているかのように、その白い球体はいずこかへと飛んでいってしまった。しかも、ものすごい早さで。
「え……。あの、今のは……?」
「教会への連絡手段です」
なるほど、そんな便利な方法があるのかと、一瞬納得しかけて。
けれど、聖女が伝えた内容に、ふと我に返るデューキ。
「ちょっと待ってください! 私は同意したわけではありませんが!?」
「ですが、わたくしのことがお嫌でないのであれば、問題ないのではありませんか?」
「そういう意味ではなく……!」
「なぜでしょう? わたくしの初恋を、ようやく叶えていただけるのでは?」
「いや、ですから……。……え? 初恋?」
つい、引っかかってしまった言葉に。疑問をそのまま口にすれば。
聖女は少しだけ恥ずかしそうに、けれど嬉しそうな顔をしながら。
「はい。わたくしの初恋相手は、公爵様なのです」
そんな風に、答えられてしまったから。
「え……えええぇぇ!?」
まさかの真実に、色々と頭が追いつかなくなったデューキが。いつどこで、どうして好きになったのかなどを、根掘り葉掘り聞いてしまうという事態が発生して。
そうして、結局。それを聞かされてしまえば、その想いに答えないわけにもいかないと、ようやく決心したのと同時に。
「これからも、わたくしが公爵様をお守りいたします」
「……はい。よろしくお願いいたします」
今もまだ、呪いを宿したままなので。これから本格的に解呪へと向かっていくことが、決定した瞬間でもあった。
余談だが、不可侵の森の魔女ソーシエは、今も時折エテルネル王国の結界を破ろうとしているらしい。
夜会の日に関しては、聖女がわざと結界の一部を弱めていたので、そこから侵入してきたらしいのだが。今は元通り、穴一つない状態になっているのだとか。
そしてなにより、本気で結界を破壊しようとすると、聖女サーンの声で「公爵様が命を断とうとしてしまいますよ」と聞こえる仕様に変更されているらしい。
最初の頃は、それだけで泣き出しそうな顔をしながら、すごすごと森へ帰っていったらしいが。最近では「アンタの脅しなんて怖くないわよ!」と言い返せるくらいにはなったとか。
ただ、そうなると今度は「魔女と夫婦になるくらいならば、今ここで喉を掻っ切って死んでみせます!」という、あの夜のデューキの声が再生されるように改良され。最終的には魔女が泣きながら「死んじゃやだぁ!!」と叫んで、森へと逃げ帰っているらしい。
それを聞いた時に、なんと
実際のところ、魔女がデューキに身勝手な理由で呪いを施さなければ、きっと今頃は普通に家庭を築いていたことだろう。そういう意味では、どうあっても魔女を受け入れることはなかったと言い切れる。
これが、デューキが王族ではなかったとすれば。ただの一人の男として、魔女と普通に出会っていれば。もしかしたら、別の未来もあったのかもしれないが。残念ながら、現実はそうではなかった。
あとから、ふと思ったのは。魔女の行動は、聖女の初恋を後押ししただけではないのかという、悲しい現実だったのだが。こればっかりは、デューキも口にはしなかった。
なぜならば。
「デューキ様、見てください!」
「いやぁ。やはり予想通り、デューキの子は可愛いなぁ」
我が子が伯父に抱かれ、楽しそうに笑っている姿を喜ぶ妻と。腕の中の子を愛おしそうに見つめる、敬愛する兄の姿に。ようやく、普通の幸せを手に入れることができたのだと、自覚したから。
(まぁ、これはこれで)
結果的には、よかったのではないかと。自分を納得させて。
デューキもその輪に加わるため、一歩を踏み出すのだった。
―――ちょっとしたあとがき―――
これにて完結です!
この次は「あとがき」となりますので、興味のある方だけ、どうぞお進みください。
ここまでの方は、またどこか別の作品でお会いできたら嬉しいです!
それでは。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!m(>_<*m))ペコペコッ
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