第31話 問題大ありだ
聖女からの、婚姻の提案と。治療のための婚姻は、断固拒否のデューキ。
はたして、この二人の相反する意見の行きつく先は、いったいどうなっているのか。それはまだ、誰にも分からないが。
少なくとも。
「やはり現在の治療間隔では、到底呪いに打ち勝つことはできません」
「でしたら、今後はこちらから教会へと出向きます」
「いえ。それよりも、婚姻に同意を。もしくは、今度こそ直接呪いに触れさせていただければ、あるいは」
「それはできません」
これまでの攻防が激化することだけは、誰の目から見ても明らかだった。
だがここまでくると、さすがに見ているだけの周囲も、聖女の意見を受け入れてもいいのではないかと思い始めてくる。もちろん婚姻については、また別問題ではあるのだが。
そもそも触れさせたくないというのは、デューキの個人的な考えであり。それが治療の妨げになってしまうようでは、意味がない。
それでも。
「デューキ様。差し出がましいことを申しますが、呪いの力が強くなった今、聖女様に直接治療していただくのが一番なのではないでしょうか?」
「許可できない。重傷者でもないのに、女性にそこまでさせるわけにはいかないだろう」
「ある意味、重症ではあるのではないかと、愚考いたしますが」
「それですぐに死ぬわけではない」
サヴィターが説得を試みても、頑固に意見を曲げようとはしないのだ。
これには思わず、聖女とサヴィターがお互い視線を向けて、同時に小さくため息をついてしまうが。それに気づいていてもなお、デューキは結論を変えるつもりは一切なかった。
(いくら、治療のためとはいえ)
やはり、うら若き乙女に壮年の半裸を見せるのは、どうしても抵抗がある。
これが戦場に出て、致命傷を負ってしまった状態なのであれば、また話は変わるのだが。そんな状況でもないのに、死ぬわけでもない呪いのために、わざわざそんなことをさせるなど。
(できるわけが、ないだろう)
だが同時に、デューキは気づき始めていた。それが最も現実味のある方法なのだと。
けれどどうしても、自分の中で折り合いがつかないのだ。それはきっと、年齢だとかの問題以上に。
(……これもある意味で、呪いのせいか)
女性に触れられるという、その行為自体に。どこか恐怖心を抱いてしまい、拒否反応が出てしまうのだ。
これまで長い間、女性に触れることにも触れさせることにも、かなり警戒してきたせいだろう。今もまだ、治療のために聖女が手を伸ばしてくるのでさえ、逃げないように必死に耐えるので精いっぱいなのだから。
もしかしたらこの現状ですら、魔女の思惑通りなのかもしれないが。こればっかりは、長年の習慣や考え方とも密接に関わっているせいで、どうすることもできない。
「……やはり、脱いでいただきましょう」
「え!?」
「皆様、手伝っていただけますか?」
「ちょ!?」
聖女の言葉に、護衛するはずの人物たちでさえ頷いている。
「お前たちっ……! その判断は、間違っているだろう!」
さすがにこの事態は
確かに、それで
だがそこに、その主本人の気持ちはどこへいった? と、思わずにはいられないデューキである。
「さぁ、公爵様」
「一度受け入れてしまえば、きっと楽になります」
「サヴィター! お前もか!」
ソファーから立ち上がって、彼らから必死に逃げる。
というか、そもそもなぜこのような構図になっているのか、それが分からない。
「お前たちは……! 主が誰なのか、忘れていないか!?」
「いいえ、まさか」
「一瞬たりとも、忘れたことなどございません」
「この状況で、よくそんなことが言えるな!?」
明らかに、誰もが聖女の味方だった。
そしておそらく、なにも知らない者がこの様子を見た際にはきっと、全員が口を
そう信じて疑わないデューキは、最終的には部屋から飛び出した。ここにいては、逃げ場はないと悟ったからだ。
「公爵様!」
「デューキ様!」
後ろから聞こえてくる、自分を呼び止めようとする声を振り切って。必死に自室へと走って逃げこむと、入り口の扉の鍵を、内側からかけてしまう。
「はぁ、はぁ……。あぁ、もうっ! いったい、なんなんだ!」
解呪したい気持ちは、もちろんデューキにだってある。だが、その方法くらい、自分で選ばせてほしい。
そうは思うのだが、周りはどうしても性急に解決したいようだ。
「これで……もしも、兄上まで同じだったら……」
嫌な想像をして、思わず身震いしてしまった。
とはいえ、ここまではさすがに聖女も追ってこないだろうし。しばらく時間をおけば、彼らも頭を冷やしてくれるだろう。
そんな風に、デューキは考えていたのだが。
「公爵様! 直接の治療がお嫌なのでしたら、やはり婚姻を結んでくださいませ!」
「ちょっ……! 誰だ! この場所を教えたのは!」
「夫婦の契りを交わしてしまえば、たとえ裸になったとしても問題はありませんわ!」
「問題大ありだろう!」
思わず、敬語も忘れてそう叫んでしまったが。そもそも裸になる必要はない、というところまでは、指摘しきれなかった。
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