第18話 報告

 そんな奇跡を体験したデューキが、長年心配してくれていた一番上の兄である国王に、急いで報告しないはずがなく。


「なに!? それは本当か!?」


 もちろんその報告を聞いた瞬間、とても嬉しそうな顔をして、こちらに身を乗り出す兄の姿に。ようやく少しは安心してもらえただろうかと、デューキもほっと胸をなでおろす。


「今回は聖女から、手紙での報告はなかったのですか?」

「原因不明のやまいの報告を受けて、緊急で向かってもらったのだ。おそらく同日だったのだろうな」

「原因不明の病?」


 全く耳にしてこなかった事実に、驚きを隠せないデューキは。思わず、そう聞き返していた。


「同じ日に、集団で同じ症状が出たらしいのだが、医師の力ではどうにもならなかったらしくてな。急激に進行する病のようだから、死人が出る前に聖女の力で癒してほしいと要請があった」

「なるほど。だから緊急だったのですね」


 そしておそらく、原因が分からない理由が、ただの病ではない可能性が高かったということなのだろう。

 詳細は語られてはいないが、そうでもなければ緊急で聖女を向かわせるなど、基本的にはあり得ない。


「周辺諸国が絡んでいる様子も、見受けられなかったからな。とはいえ安全のために、城からも護衛の騎士たちを出している」

「教会の騎士たちに加えて、ですか」

「聖女に、万が一のことがあってはならないからな」


 ようやく正式発表できた矢先に、聖女を失うわけにはいかない。かといって、出し惜しみするのもよくない。

 そもそも力あるものが、しかも今回に限っては教会が、弱き者たちに手を差し伸べないなど。あり得るはずがないのだ。

 誰かが適切に判断をして、定期的に聖女の力を使っていかなければ、存在の意義すら危ぶまれる可能性だってある。

 なにより教会にとっては、いい宣伝になる。神に選ばれし奇跡の存在が、この国にも存在しているのだと。最も早く、確実に民衆に知ってもらうことができるからだ。


「でしたら報告を受けるのは、聖女が戻ってきてからになりますね」

「予定では、三日後には戻ってくることになっている。病自体は、収束したと連絡があった」

「ただ、原因はいまだ不明なまま、なのですよね?」

「あぁ。聖女からの詳しい報告があるまで、そちらは不明なままだな」


 とはいえ収束したのであれば、とりあえずはひと安心といったところだろうか。

 そして教会も、今回のことでより一層、聖女の力と存在を民衆に印象づけることができたことだろう。

 死人が出ていないのであれば、誰にとっても損はなかったと言える。だが、だからこそ。原因がすぐには追及できないところに、もどかしさを感じてしまった。

 こればかりは仕方がない上に、そもそもデューキは無関係であるのだから、今後も理由を知ることができる可能性は低いが。気になる事項ができてしまったなと、思わざるを得ない。


「なので、私は今お前から聞いた報告が初めてなのだ」


 確かにそれなら、あの喜びようは当然だろう。まさか、こんなにも早く進展があるとは、思いもよらなかっただろうから。


「魔女の呪いから解き放たれて、これでようやく自由になったな」

「いえ。それがどうやら、そうでもないようなのです」

「……どういうことだ?」


 自分と同じ勘違いの仕方をしているようだと気づいて、デューキは聖女にされた説明を、同じように伝えておくことにする。


「呪いが発動しなくなっているのは、聖女の力によって魔の力を抑え込んでいるからにすぎないのだそうです」

「つまり、まだ解呪までは至っていないと?」

「そのようですね。ただ、女性の手を取れるようになっただけでも、大きな進歩だと思うのですが」

「それはもちろんだ!」


 今までゼロだったことを考えれば、だいぶ大きな一歩だろう。その認識は、どうやら兄も共通だったらしい。

 だが、忘れてはいけない。一番上の兄は、大変に過保護であると同時に、心配性でもあるのだ。

 まぁ、ようするに。


「これでようやくまた、しっかりと夜会に出席できるようになったな!」

「……はい?」


 お相手探しを、本格的に再開したいと。そういうことなのだろう。

 とはいえ、直接手には触れられるということが判明しただけで。まだどこまで可能なのかは、検証の余地ありといったところだと思っているデューキからすれば。


「急いで計画を立てなければ」

「いえ、兄上。その……時期尚早じきしょうそうではありませんか?」


 まだ早すぎる。今急ぐよりも、もう少しだけゆっくりと時間をかけてもいいので、完全に解呪が成功してからにしたい。そう思うところなのだが。


「なにを言っているのだ! 今日よりも若い日は、この先ないのだぞ! 後継者を育てるにも、あまり遅くなり過ぎないほうがよいだろう!」

「それは、そうですが……」


 王としても兄としても、説得力がありすぎる言葉に。思わず頷いてしまったのが、よくなかった。


「そうだろう、そうだろう。なに、心配するな。私がしっかりと責任を持って、夜会の計画を立ててやるからな」

「……」


 張り切りすぎている兄の姿に、なにも言えなくなってしまったデューキは。とりあえず次回の治療の際に、現在どこまでならば接触可能なのかを聖女に確認しておこうと、心に決めた。





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