第14話 フェルのしごと
馬車の旅は順調に進んで行った。
行き交う旅人のなかにも、商人のキャラバンであることを疑う者はなく、突然の同乗者となった俺のことも、従者のみんなは優しく迎えてくれた。
平原の旅は単調だったが、そのぶんロシナやジュジュ、フェルといろんな話ができた。
なかでも俺が興味深かったのはフェルだった。幼いながら魔術の素養があるようだ。「ま、あの子の力はそのうちわかりますわ」とはジュジュの言だったが、その意味は時を待たずしてわかった。
朝から馬車を進めていると、フェルに呼ばれた。
「お兄さん、こっち」
俺は動く馬車に上り、屋根の上に立つフェルを見つける。
「どうしたんだフェル、こんなところに呼んで?」
「ん。ちょっと気になることがあって」
フェルは手で庇をつくり、晴れ渡る平原の遠くを見渡すと、ぽつりと言う。
「あっちの方角から魔力を感じる」
「……魔獣か?」
「そういう土臭い魔力じゃない。もっとひとのにおいのする魔力……」
俺も屋根に上がり、少年の隣に腰を下ろす。
「どこだ?」
「あっち。お兄さん、お願いがあるんだ」
「……? ああ、なるほど」
どうしてフェルが俺を呼んだのか、わかった。
「身体強化の術って使える?」
「眼か?」
こちらを見ることなく、こくんと頷く。
俺はフェルの後ろに回ると「触るぞ」と前置きして、小さな頭を抱えるようにした。少年らしいあたたかさが腕に伝わってくる。
フェルの目を、後ろから「だーれだ」でもするみたいに両手のひらで覆い……
「『集中』」
の術を唱える。ヒトの全身に流れる力をひとつの部位に集め、ほんの一時だけ機能を高める術だった。
ぱっと手を取ると、フェルがのけぞった。突然の視界の鮮明さに驚いたのだろう。
「……すごい。よく見える」
しかしすぐに元の冷静さに戻る。
「お兄さん、支えてて」
揺れるフェルの腰を支える。
「あっ」
なぜか色っぽい声を出したが無視することにした。
「……何が見える?」
「馬車の列がこっちに近づいてくる。ひとつ、ふたつ、みっつ……」
「この先の街道の十字路でかち合うだろうな」
「お兄さん、どうする? 盗賊には見えない」
「だとしてもフェルの言う魔力が気になる……ロシナがいる以上無理はしないほうがいい」
しかし、今から馬車の進路を変えることは難しいだろう。王都に近づけばこういった事態は今後もありそうだ。
「フェル、今度は俺がお願いできるか?」
「ん。なんでもする。足を舐めたらいい?」
「舐めなくていい。魔術をひとつ頼みたい」
実際のところ、フェルの魔力量もその実力もはっきりとはわからなかったが、この子ならできるだろうという確信に近い期待があった。
「わかった」
俺は先に馬車の中に戻り、ロシナとジュジュにことの次第を告げた。
「遠くからでも感知できるほどの魔力を持った馬車の集団? しかもこちらに真っ直ぐに向かってきていると? 不気味ですわね」
ジュジュは腕組みをして眉根を寄せた。
「フェルが言うには盗賊には見えないそうだ。商人の馬車に護衛として魔術師が乗っているのかもしれないが……」
「いえ、それはないでしょう」
ジュジュは首を振った。
「魔力は視線と同じ。相手に向けることで、その力が伝わります。ただ馬車に同乗しているだけなら、そんな遠方からでは気付かないはずですわ」
「つまりあの馬車は、朝からこっちを見つけてまっすぐに突っ込んできている?」
「そうなると狙いは恐らく……」
ジュジュと俺の目線が、姫――ロシナに向けられる。
「ミレートさん、策がおありですね?」
椅子に腰かけたロシナは視線を毅然と受けた。
俺は頷きで応える。
「冒険者ギルドにいた頃の経験でね。まっすぐに向かってきてくれるなら、策は立てやすい」
「さすがです。私たちには足りない経験ですね。でもどうしましょう……私たちには大砲も大弓もありませんし……」
「お、おねえさま……そんなの積んでる商人がいたらちょっと怖いですわ」
やんわりとほほえみ、ロシナはえげつないことを言った。
意外と天然か、このお姫様。
むしろ俺にはそんな大仰な兵器を動かすような経験はないぞ……。
「大砲も大弓もいらない。この馬車の列には、もっと凄い武器が載っているんだろ?」
「もったいぶるのはおやめくださいまし! 策がおありならすぐに――」
「もうやってるよ」
俺は上を指さした。
「フェルに頼んである」
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(山田人類)
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