第4話 口が悪くて勘のいい少女

 ――街道


 隣町とをつなぐ街道を歩く。大きな雲が平野のずっと向こうから流れてくる。

 はるか向こうには山があおくかすんでいる。

 さらにずっと向こうは、いくつかの尖った塔や高い建物……あそこが首都セビーリャだ。


「ガルマの言っていたキャラバンっていうのはどこかな」


 一里くらい歩いただろうか。日が少し傾き始めたところで、道の先に数台の馬車が泊っているのが見えた。


 道の脇で草をはむ馬の脇に停る馬車は、俺と同じく隣町に向いている。

 あれなら、旅を楽にできそうだ。


 しかし、まずは話しかけてみないことにはどうしようもない。


「すみません、旅の者ですが……」

「ロシナさまがいなくなったですって!?」


 馬車のひとつに声を掛けてみようとしたとき、中からすさまじい絶叫が聴こえてきた。


 若い女性……というか、どこか幼いの声だ。


「どういうことですの!? あなたがた見張りは、なにをしていたんですの!?」


「ジュジュ様、そ、それが……あのとおり姫……じゃなくてロシナさまはおてんばでして……」


「そんなのわかっています! ですからこれだけの馬車に大量の従者を引き連れてこんな辺境くんだり

までやってきたのでしょう!?」


「そ、それはそのとおりなのですが……」


 悪いとは思いつつ、馬車の戸の隙間からなかを覗く。


 長い金髪の少女――まだ十歳かそこらにしか見えないかわいらしい服に身を包んだ女の子が、従者らしい服を着込んだいい歳のおっさんを叱りつけている。


 ……なんてグロテスクな光景なんだ。


 これは声を掛ける相手をまちがえたな。


 俺はきびすを返そうとして――……中から聴こえてきたことばに立ち止まった。


「『真実』」


 背筋にぞくりとしたものが走った。悪寒かもしれない。


 それは、あの男が俺にかけたのと同じもの――呪術だった。


 ジュジュといったか。少女は腕を持ち上げ、手のひらを相手に向けている。腕には幾重にも重なった銀の腕輪がかかっている。呪術師の用いる触媒だろう。俺にとっての杖とおなじだ。


「……ぐ、ぐ、ぅ」


 呪術をかけらたおっさんは首を絞められたような声を喉から絞り出す。


「ひ、姫様が……もう旅はいやだとおっしゃいまして、あまりにもその様子が哀れでしたので……」


「見張りのあなたが、逃げる手伝いをしたと?」


「い、いえ違います……ちょっとだけお花をつみに行きたいと言うので、それくらいなら自由にして差し上げても……と思いまして」


「……!」


 少女の頬が少し桃色になった。


 照れてるようにも見える。


「ば、ばかっ! それは隠語ですわ! 花をつむってのは、その……」


「なんでしょう? 乙女らしくてかわいいと思ったのですが……」


「グッ……デリカシーも妻子もない童貞おやじはこれだから……」


 ……可愛い見た目に反して、だいぶ口が悪いな。


 呪術を発動していた腕をおろし、少女はふうと息を吐いた。


「とにかく、どれだけ『バカでかい花束をこしらえる』にしてもこれだけ長い間不在にするのはおかしいですわ。ロシナさまはおてんばで頭が悪いですが剣の腕はたしか……そのへんの小悪党や魔獣に劣りはしないでしょうが、だからこそもうすでに遠くにいるかもしれません。急いで探しに行かないと……ところで、そこのあなた」


 金髪の少女が、振り向く。


「いつまでそこで覗き見ているおつもりで?」


 彼女の目は、ばっちりと俺を捉えていた。


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