第5話 SSSクラス『美少女』呪術士、ジュジュ

「いつから気付いてたんだ?」


 俺は縄に縛られた状態で街道の脇に座り込まされていた。


「『いつから?』ふん、それだけの魔力を金魚の糞みたいに垂れ流しておいて、よくもそんな問いかけができたものですわね?」


 なんだこいつ、ほんとに、めちゃくちゃ口が悪いぞ。


「魔力の漏出をおさえるくらいのことはできてるつもりだったんだけどな......きみ、何者? ただのかわいい女の子じゃなさそうだね」


「か、かわっ……///」


 頬を桃色に染めてたじろぎ、ごほん、と咳き込む。


「ご紹介が遅れて申し訳ありません。わたくし、ジュジュ・ドロテーアと申します。おや、ご存知ですか? この国いちばんの呪術士でございましてよ! なんと、わたくしは――」


 得意げに手をうちわにするジュジュだったが……


「すまない、知らないな」


「な゛っ……!」


 俺のことばに凍り付いた。


「わたくしのことをご存じない!? あなたどこのド田舎の生まれですの!?」


「田舎生まれなのは間違いないけど……」


「だとしてもこれを耳にすれば驚きひれ伏すはずですわ! 私はなんと10000年にひとりの逸材! 天才呪術士なのですから! なんと私の呪術師は――SSSクラス! 下級、中級、上級呪術師などなど99.999999999パーセントの一般呪術師をはるか下に見やる、特級の美少女呪術師ですのよ!!」


 おほほほほーっ! と勝利の声をあげる『美少女』だったが……


「そっか」


「そ、『そっか』!!???」


 背骨が折れるんじゃないかというくらいにのけぞった。


「SSSクラスですのよ!? あなたの目の前にいるのは、伝説級、いえ、神話レベルの存在ですのよ!? なにか言うことがあるのではなくって!?」


 なにもなくってよ。

 というと堂々巡りになりそうなので、


「すごい。さすが。天才。美少女。お目にかかれて光栄。田舎の親にいい土産話ができた。子々孫々までこの出会いを伝えていきます」


「よろしい」


 俺のよいしょに満足したらしく腕組みして鼻息を吹いた。


 ……どれだけ偉ぶったところで、どちらかといえば「馬鹿だなあ」としか思わない。


 別に、俺もSSSクラスであるから、そのことを鼻にかけてるとかじゃない。


「でも、それ、あんまり言わない方がいいんじゃないか」


「な、なんですの……」


 俺はジュジュの目を見て言う。


「大きすぎる力には、大きすぎる責任が伴うって話だよ。まわりに知られたら、自分でも望んでいない扱いをうけるかもしれない」


「ふん、あなたおじい様みたいなことを言うのね。私の師匠であるおじい様も同じようなことを言っていましたわ」


「なら師の教えに従ったらどうだ?」


「そんなの……損ですわ!」


 ……は?


「だってそうじゃない。せっかく常人とは異なる力を生まれ持ったのよ! それを精一杯使わないでどうするんですの!? 魔力は無限大だし、覚えられる呪術も無限大! しかも特級クラスの呪術も使い放題! 人生は一回きりですのよ……!? 周りにどう扱われたって、よしんば道具のように使われようとかまいませんわ。わたくしは、わたくしですもの!」


「……なるほど」


 小さいけれど、すでに自分の生き方を定めているのだ。


 俺なんかが口を出すことじゃなかったな。


「で、SSSクラス呪術師のジュジュ様?」


「……」


 なぜか無言で見つめられる。


「……」


「……えっと?」


「……びしょうじょ」


 ぼそりというジュジュ。


「……はあ」


 俺はため息まじりに言い直す。


「SSSクラス『美少女』呪術師のジュジュ様?」


「なんですの下民? 特別に話しかけることを許してさしあげますわ」


 ほんとになんなのこいつ。


 脇に立つ従士のおっさんが、すまなそうに俺をみている。目が「ごめんなさい、こういうひとなんです」と告げている。


「あの、なんで俺は縛られているんでしょうか?」


「見た目以上の馬鹿ですわね。田舎に戻って匙の持ち方から勉強し直してきたらどうですの?」


「お前口悪すぎるぞ!?」


「あなたを捕縛しているのは……お願いがあるからですわ」


 ジュジュはやや声を潜めた。


「さきほど聴いていましたわね。この馬車はあるお方を載せて旅の途中でしたわ」


「商人のキャラバン……ではないんだな?」


「ええ。少しくらいはおつむがおありのようですわね」


 いちいちぶんなぐりたくなる。


「わざわざこうして商人のふりをして五台も馬車を出しているのは、そのお方をお守りするためですわ。わたくしも仕えるそのお方は、ある冒険を終えて、首都セビーリャへの帰路についたところでしたの。そのお方はあまりにもおてんばで、猪突猛進で、向こう見ずで……まあ、自由なお方なのです。お生まれがお生まれですから仕方のないことですわ」


「王族なのか?」


「やはり聞かれていましたわね」


 ジュジュはうなずき、応えた。




「あのお方は――この国の王女なのです」





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