第2話 SSSクラスだけが使える『超回復』

 ――町のはずれ


 ……はあ。ため息が漏れてしまう。

 こんなに空は青いし、鳥たちも元気にさえずっているのに、俺の未来は暗黒だった。


「なんでこんなことに……『ステータス』」


 基礎魔術の『ステータス』を唱え、目の前に自分の現在のレベルを表示する。


「……はあ」


 ため息が出てしまう。

 俺の今のステータスはこんな感じだった。


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 名 前:ミレート・ガレオーテ

 種 族:人間

 性 別:男

 レベル:30

 ジョブ:ヒーラー

 クラス:SSSクラス(特級)

  H P :3000

M P : Unmeasurable(測定不能)

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 そう、俺はヒーラーのなかでも特別なSSSクラス……下級、中級、上級のさらにうえをいく特級クラスのヒーラーだった。成人の儀の冒険者登録でスキルを鑑定してもらったときに、俺だけ別の部屋に呼ばれたときはなにかと思った。正直焦った。


 俺、もしかして才能ないから冒険者になるなとか言われんのかな……と。


 でも、俺と面談した冒険者ギルドの受付兼鑑定士のお姉さんはこういった。


「あなたは1000年、いえ、2000年……ううん、10000年に一度の才能を持っています! おめでとうございます! あなたの旅に幸多からんことを!」


 きょとんとした俺に、お姉さんはいろいろと説明してくれた。

 なかでも「これだけは気を付けてくださいね」といわれたのが、


「あなたの才能を羨んだり、妬んだりするひとがいないとも限りません。ヒーラー自体がレアジョブですが、珍しいというだけで『存在しない』わけではありません」


「というと……?」


「あなたの存在は、『神様』みたいなものです。『伝説』とも言いましょうか……神話や噂、伝承のなかの存在であって、本当にいるのを見たことがある人はごくわずかです。そんなあなたを取り合ったり、道具のように扱おうとするひともいるでしょう」


「俺はどうしたらいいんでしょうか?」


「SSSクラスであることは隠してください」


「でも、SSSクラスであることは、具体的にはどんなすごいことがあるんでしょうか……?」


「まず、術を使うたびに消費される魔力ですが、底なしです。ステータスにunmeasurable(アンメジャラブル)とありますよね。測定不能なんです。底なし過ぎて」


「そ、底なし……」


「それと、SSSクラスであるあなたにしか使えない回復術があります。それが、『大回復』です」


「……あれ?」


 俺はそのとき、大きな疑問を抱えた。


「でも、『大回復』って……たしか下級クラスでも、魔力さえあれば使えましたよね?」


「ええ、そう言われていますね。でも、それはうそなんです」


「え、うそ?」


「はい。皆さんが『中回復』と呼んでいる術がありますね?」


「は、はい。一般的な回復術ですよね」


「あれは、実は『小回復』なんです」


「……え?」


 俺は耳を疑った。


「そ、それってどういう?」


「SSSクラスヒーラーのつかう『小回復』は『中回復』と同等であり、『中回復』は『大回復』と同等の効果なんです」


「うん……うん?」


 頭がこんがらがってきた。


 お姉さんはやさしく説明してくれた。


「つまり、ふつうのヒーラーがつかっている『大回復』は、本当は『中回復』で、『中回復』は『小回復』、『小回復』はちょっとした治癒程度の術でしかありません。本当の『大回復』――そうですね、たしか古代ではこれを『大回復』ではなく『超回復』と呼んでいましたが――真の最上級回復術である『超回復』を使えるのは、SSSクラスであるあなただけなんです」


 つまり。

 一般的なヒーラーの『中回復』での治癒力→俺にとっての『小回復』

 であり、

 一般的なヒーラーの『大回復』での治癒力→俺にとっての『中回復』

 ということらしい。

 さらには、俺にしか使えない『超回復』という回復術がある。

 それがSSSクラスである俺の特権なのか。


「で、でもそれってどんな効果が?」


「さあ、それは文献にしか残っていないので……なにしろ、最後に地上に姿を現したSSSクラスのヒーラーは、前の魔王を打倒したとき……10000年前のヒーラーでしたので」


「なるほど。それはたしかに伝説ですね……」


「なので、使ってみないとわからないのですが……気を付けてくださいね」


「気を付ける?」


「ええ。ご存知かもしれませんが、回復術といえど他者へ魔術を投げかける行為。ある種の変異を相手に与えるという意味では、状態異常魔法と変わりません」


 お姉さんの声に緊張の色が増した。


「世間一般の『小回復』ですら、かけられた相手にはわずかに負荷がかかります。本来の肉体の治癒能力を超えて再生するわけですから、そのぶんの無理を身体や精神に強いるわけです」


「つまり……?」


 お姉さんは顔を近づけ、囁いてくれた。


「『超回復』は、気軽にかけていい回復術ではないということです。ゆめゆめ、お忘れなきよう……」


 という話が、数年前にあったのだ。


 だから、俺は回復術をかけるときはわざと「ケチった」。


 俺の底なしの魔力でもってすれば、『大回復』を味方にかけるのなんて、朝から晩まで連続でできる。でも、ちょっとしたかすり傷でも『大回復』をかけていれば、かけられた味方への負荷は測り知れない。


 だから、俺は「ケチ」だと言われようと、必要なぶんだけの回復術をかけていたのだ。

 味方のために。

 

 しかし、SSSクラスであることを隠している以上、俺は「魔力切れを恐れてちょこちょこ回復するだけの臆病者」としか見られず、今回のような事態になってしまったのだった。


 ……はあ。


 やっぱり、ため息が出る。


 見上げると、青い空を白い雲が自由にぽっかりと泳いでいた。


 そのとき、背後から声がかかった。


「おーい! ミレート!」


 聴き慣れた声に、俺は振り返った。


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