青春なんてクソくらえ!!

夜空 叶ト

第1話 人生初めての彼女はヤンデレさん!?

「青春なんてクソくらえだ。」


 中学時代に誰しもが経験したことがあるだろう。

 中学生はみな高校生活に憧れる。


 高校生になったらバイトして、可愛い彼女を作って楽しい青春生活を送る。

 そんな夢物語を誰しもが一度は夢見たはずだ。

 少なくとも俺は夢見ていた。

 何もラブコメやアニメ見たいな青春が遅れるなんて思っちゃいない。

 でも、ある程度少なくとも中学よりは楽しい生活を送れると信じていた。


「やっぱり現実そう甘くないんだな。」


 理想との乖離に気が付いたのは高校に入学して三か月がたったころだった。

 よくよく考えてみれば。工業高校に青春なんて存在するわけなかったのだ。

 女子なんてクラスに数人しかいないし、そのほとんどがどこかおかしい女子たちだった。

 なら、バイトをすればいい!

 いやいや、どうやらそう甘くもないらしい。

 この高校はバイトが禁止だ。



「で、学校行事も面白くないと来たもんだ。積んでるよな。俺の青春三年間。」


 今の俺は高校三年生。

 そろそろ受験勉強に励まないといけない時期になってきた。

 周りも受験勉強をしているか就活に向けて頑張っているかの二択だった。

 やりたいことは特にない。

 かといってまだ働きたくない。

 となれば俺も受験勉強をしないといけないだろう。


「思い返してみれば青い春なんてどこにもなかったな。」


 青い春というより灰色の冬だ。

 体育祭は全く持って面白くなかったし、文化祭に至ってはやらないほうがましというレベル。

 これは俺個人の意見ではなく同じ学校の奴が何度もそういっていた。

 まだ中学のほうが全体的に楽しかった。


「よし。とりあえずは大学受験だ。もしかしたらまだキャンパスライフで青春を取り戻せるかもしれない。」


 失ってしまった高校三年間を大学の四年間で埋めるのだ。

 そう心に誓って俺はひたすらに受験勉強に励んだ。

 幸い元からある程度勉強をしていたので基礎はできていた。

 応用もしっかりと勉強して推薦を取って第一志望の大学を受験した。

 結果は合格。

 努力が報われたと思って喜んだ。


 ここから待っているのは待ちに待ったキャンパスライフ!

 俺はここから彼女を作る!


 そう意気込んで大学に行ったはいいもののすぐに彼女なんてできるはずもなく気が付けば入学してから三か月が立っていた。


「本当人生ってままならないな。」


 講義を受け終わりキャンパス内のカフェでくつろぐ。

 彼女を作っている人はどうやって出会っているのか聞きたいものである。


「「ああ、彼女(彼氏)ほしい。」」


 え?

 隣から俺とほとんど同じつぶやきが聞こえてきた。


「え?あなたも?」


「そういうあなたもですか?」


 まさかの偶然。

 同じタイミングで同じようなことを呟くなんて少し運命のようなものを感じる。

 でも、隣に座る女性はかなりの美人だ。

 いくらでも恋人を作れると思うんだが?


「まあ、はい。俺、いままで彼女いたことなくて大学に入ったら彼女を作ってやる!と思ってたんですけど全くできなくて。」


「そうなんですか。私も彼氏が欲しいんですけど私の性格を知ったらみんな引いちゃって。なかなか彼氏ができないんですよね。」


 どうやらお互いに苦労しているらしい。

 でも、こんな美女でありながら恋人ができないほどの性格とは一体どんなものなのだろうか?


「ちなみにどんな性格なんですか?」


「えっと、私ちょっと嫉妬深くて好きな人が他の誰かと話してるのを見るだけでイライラしちゃって、」


 おっと。どうやらちょっとではないらしい。

 かなりこじらせたヤンデレさんのようだ。


「なるほど。でも、嫉妬深いのは悪いことじゃないと思いますよ?嫉妬深いってことはそれだけその人に愛情を向けている証拠じゃないですか。」


「そうですかね?」


「そうですよ。いつかきっと受け入れてくれる人が見つかりますよ。」


「そうですよね!ありがとうございます。」


 そういって隣にいた彼女は立ち上がってどこかに行ってしまった。


「さて、俺もそろそろ行こうかな?」


 別に行き先があるわけじゃないけどここにいてもすることは無いし美人と話せて少し気分がいいから家に帰って勉強でもするか。


 …………………………………………………………………………………………………


 コンコン


「ん?誰だろう?」


 あの後とっとと家に帰って勉強をしていたのだが思いのほか集中できていたようで気が付けば二時間経っていた。

 そんなことはどうでもいい。

 一体誰がノックしてきたんだ?

 俺には自慢ではないけど友達がいない。

 独り暮らしをしているため俺を訪ねてきているはずなのだが何か荷物を注文した覚えもない。

 恐る恐るドアスコープを覗いてみるとそこにはさっきカフェで話した女性がいた。


「なんで?」


「すいませ~ん。いませんか~?」


「あ、はい。いますいます。」


 すぐに扉をあけて返事をする。

 というか、なんでこの人俺の家を知ってるんだ?

 今日初めて会ったはずだけど。


「ごめんなさい。いきなり来ちゃって。」


「それは全然良いんですけどなんで俺の家を知ってるんですか?」


「それはカフェから立ち去るあなたを尾行したからです。」


 あ~なるほど。

 どうやらさっきの会話で俺はヤンデレなお姉さんに目をつけられたらしい。

 俺の青春とことん終わってる。


「尾行?」


「はい。なまえも調べました!海野 うみの かける君ですよね。」


「はい。その通りです。俺は海野 翔です。」


 完全に目をつけられてしまった。

 まあ、美人だからいいか。


「私は三月 みつき れいといいます。」


「はあ、それで一体何の御用ですか?」


「私と付き合ってください!」


「なんでいきなり?」


「あなたの優しさに一目ぼれしました。付き合ってください。」


 どうやら、嫉妬深くて惚れやすいらしい。

 なんというヤンデレさんだ。

 でも、こんな美人と付き合えるチャンスなんてもう二度とないのかもしれない。

 よく考えれば俺には話すような友達もいない。

 つまり、嫉妬されない!


「わかりました。俺でよければお願いします!」


「はい!」


 こうして妙な形ではあるけど人生で初めての彼女ができたのだった。

 この出来事が俺の今後の人生に大きな影響を与えることをこの時の俺はまだ知らない。



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