第13話
「そもそもさ、神の力で異世界転移はどうにもならない感じなの?」
「……できたらゴネてない」
「ネガティブ。ご主人様はデリカシーに欠けるところがあります」
「これも神の与えたもうた試練ですよ、異界の神」
「なんかごめん」
「まあだからさ、お守りをたくさん集めつつ、『寝たら異世界へ』みたいなことにならないように仕掛けがいるわけだろ」
「ポジティブ。具体的な方法はさっぱりわかりませんが」
「きっと神が遺された逸話に何か役立つ情報があることでしょう」
「縁はその気になればつかめるから、そっちの方向でどうにかできるかも」
「あとこっちの世界来たらですね、戸籍とかいろいろなものが必要になるわけで。身元不明の人の戸籍の作り方とかちょっと調べておくよ。なんかあると思うんだ。記憶喪失の人の例を聞いた気がする。スマホで……当然のように圏外ですね。はい」
「法はご主人様の世界のものを適用しますが、あのレベルのネットワークセキュリティであればアンはいかようにも侵入し、データの改竄が可能です」
「やめてくれ。……いや最悪頼るけど」
「地毛がピンクはめちゃくちゃ言われそうだな……ピンクブロンドとかもあるからいけるか?」
「そういえば、わたくしの世界の黄金などは持ち出せるのでしょうか?」
「持ち出せても取引先がねぇよ。金ってね、もうなんか番号とか刻まれてるらしくって、そんな大量に持ってたらなんか……ヤバいらしいよ」
「そうなのですか?」
「うん。金取引で大損したおじさんが言ってた」
「向こうで神としてふるまうつもりがなかったのでしなかったけれど、向こうに今度行ったら、少し権能を試そうと思う」
「山とか増やされても困るんですが」
「環境に影響は与えない。ちょっと小さな世界を創るだけ」
「なんのために」
「秘密」
「大変なことが起きようとしてる気がする」
◆
「寝た?」
「おやすみになられましたね」
「ポジティブ。ご主人様の体力には改善の余地があるものと提言します」
「正直に話そう。私は、あなたたちのことが嫌いになった。なんで私に味方してくれないんだ。願いは一つだったはずだろう?」
「一つではありません。わたくしは神の愛を、すなわち試練を抜けて、より神の寵愛を受けることが願いですので」
「ポジティブ。アンの願いは『金持ちに飼われている犬』だと、あの世界の動画データをあさっていて判明しました」
「私だけか、『こいつ』にこだわらないのは」
「そうですね。あなただけが、『似姿であれば誰でもよかった』」
「ネガティブ。それは我々3人ともが同じかと」
「……大事なのは、聖女ルクシアの言うものか」
「わたくしが何か?」
「アンはナニカの意図を察しました。『最初に出会ったから』」
「そう、それだ。偶然、最初に出会ったから、そこが始まりだったから、こうなった。……あそこから始まらなければ、こうはならなかった」
「実は彼こそが、わたくしが最初から寵愛を求めていた神そのものなのでは……だんだんそういう気がしてきました」
「アンは提言します。ルクシアは危険人物です」
「あ、この感じは、来るな。神なのでわかる。お別れの時間だ」
「短いはずなのに、なんだかとても長い時間だったような気がします。どうぞ、あなたがたに神のご加護があらんことを」
「ポジティブ。アンも神のご加護を望みます」
あっさりとした態度で、2人は消えて行った。
広大な世界の中、神はまた、1人きり。
鳥も獣も虫もいる。大地も空も意のままだ。
……それでも、あの当時の、人らしい感情に乏しかった神が、強烈な寂しさを覚え、降ってわいた『縁』にすがったのは、きっと……
「……ままならない連中だなあ、本当に」
自由にならないものと、生きてみたかったから。
……なのかも、しれない。
いや、きっと、そうだろう。だって。
「……ままならなかったな、本当に」
思い返すとこんなにも楽しくて。
……横を見ると、こんなにも寂しいんだから。
そうに、決まっていた。
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