二章 002は愛玩用アンドロイドです
第6話
目が覚めたらそこは元の世界でした。
目の前には異世界転移する直前までいた神社。賽銭箱。人通りはなく、すぐそこには大変繁盛している神社が見えた。
さっきまで寝てたはずなのに気付いたら立ってたので一瞬感覚がバグる。それはどうにもルクシア、002、ナニカも同じようだった。彼女たちも『あれ?』みたいな顔をして、少しだけ周囲を見回し、それからすぐ近くでアオと視線がぶつかると、なんだか不思議なことがありましたね、的に微笑んだ。
アオは愛想笑いなのか引きつった笑いなのか判別に困る笑みを返して、それから一瞬、彼女たちの裸がフラッシュバックしてしまったのを頭を振って払って、そうして気付いた。
「……お守り、小さくなってる」
お焚き上げしてもらうまでもなく、はっきりとお守りが小さくなっていた。
異世界転移が原因だろうか。わからないが、わかることもある。神社巡りは少なくともまったく何も起こらないわけではないらしい。
「ちょっと、全員動かず待っててくれ」
裸を思い出した気まずさもあってそう述べて、ちょっと実験。
全員をそこに立たせてアオが距離をとろうとする。
と、やはり少し離れると強烈な抵抗があり、まず002がアオのもとに吹き飛んできたのをキャッチ、続いてナニカが『そうだった』みたいな顔をしたあとジャンプすると、不自然な軌道でアオのほうに引き寄せられてきたので、これを002がキャッチして(ナニカは同級生ぐらいの体格なので、この勢いで吹き飛んで来られるとアオの力でキャッチできない)、『30cm以内にとどめようとする力』が働いていることを実感させた。
だが2人とともに歩いてみれば、聖女ルクシアとの距離が離せるようになっているのに気づいた。
どうやら30cmしか離れられなかった距離が、だいたい2mぐらいまでは離れられるようになっている。
これは明確な進歩と言えた。
お焚き上げ方針は間違っていなかったのだ。
そして2mほど離れたあとさらに離れようとするとすさまじい『引っ張る力』が発生。さらにそこから離れようとすると、ルクシアの姿が消え、アオのすぐそこにテレポートしてきた。
これを受けて、方針を明確にする。
「……引き続き神社巡りをしようと思います。が」
が。
アオは改めて3人の格好を見回した。
ファンタジー囚人服のピンク髪お姉さん。
ぴっちり全身タイツの自分のことをロボットだと名乗っている小学生ぐらいの女の子。
そしてワンピースを着たゲーミングな髪の毛の同級生ぐらいのナニカ。
「その前に、服を買おう」
このまま連れまわすにはあんまりにもな格好の3人である。
服屋に行くのも通報リスクがあるが、服屋だけでリスクを済ますか、その後もリスクを負い続けるかなら、前者のほうがいいはずだ。
アオはスマホを見て日付と時刻を確認。
日付は友人への通話履歴と合わせて、異世界転移する前と変わっていない。時間もたぶん、変わっていないだろう。真夏の昼日中だ。つまり、服屋は開いてる。
こうして変な格好をした美少女3人に服を与えるというミッションが発生した。
◆
アオが発見したことは2つあって、1つは都会の人がハーレム野郎に連れられた変な格好の女の子3人に意外と注目しないこと、そして服屋で働く人はたぶん大学生アルバイトっぽいんだけどプロだったということだ。
(あとから死ぬほど拡散されそう)
さすがにあからさまにカメラを向けられたりということはないのだけれど、SNSで『こんな人見かけた』ぐらいは言われそうな、視線というより興味がチクチク刺さるのを感じた。
世の中には美少女を侍らせて堂々とできるような精神の人もいるのかもしれないが、自分には無理だとアオは実感することになった。
ともあれそういう試練を乗り越えた先で、ようやくアオは3人に『不自然でない服』を着せることに成功したのである。
ツバ広帽子にオフショルダーワンピース、ミュールという姿になった聖女ルクシア。
なおついていた枷は002が引きちぎった。燃えないゴミでよかっただろうか。資源かな。資源のような気がしてきた。
ハンチング帽子に丈短めのTシャツ、それにホットパンツという姿になった002。
なお全身タイツは脱がせており、それはなぜかアオにあずけられたので、少女がさっきまで肌に貼り付けていた全身タイツをなぜかアオが所持している。
そのままの姿でチューリップハットだけかぶせられたナニカ。
しめてだいたい3万円ぐらいの出費となった。夏の後半は家でじっとしているしかなさそうだ。
それでも3万円で女の子3人分の服をそろえることができるのだから、あのチェーン店は本当にすごい。しかも履物までふくめてだ。
ただ1点問題があって、アオの気が回らなかったのと、意識から外そうとしていたのもあって、下着を買い忘れている。
あとから気付いた。聖女ルクシアはまあ自前の下着がある様子だったが、002はあのピッチリしたボディスーツが下着も兼ねている様子で、つまりホットパンツの下は丸裸……
あの夜、異世界で見てしまった裸体が頭をよぎる。
アオはため息をついた。自分が男の子だったことを思い知らされる日々である。まだ1日目のはずだけれど。
なお3人に帽子を与えたのは髪色が目立つためだが、聖女は長いので帽子の下からピンク髪が漏れているし、ナニカは超長いのでマジで意味がない。無駄な出費だったかも、とアオは反省し、後悔した。
(っていうかこれから公共交通機関に4人分の料金を支払ったり、あと食べ物とかもたぶん与えなきゃいけないし……そもそも、これ、離れられなかったらどうするんだ? ルクシアとは2mぐらい離れられるけど、2mって同居の間合いでしょ。それに、そもそも戸籍とか、あと……)
考えれば考えるほど現実的な問題が立ちふさがるばかりで、アオはとりあえず考えるのをやめた。
続けても意味がないし、今日はちょっと考えすぎているからだ。まあ、異世界で一夜過ごしたので、時間経過の感覚がバグっているのだけれど。
(あとヤバい。いつまでもつかわからない。早いところ、少なくとも全員、ルクシアぐらいは離れられるようになってもらわないと、このままじゃ……)
おしっこ、漏れる。
風呂はいっしょに入った。それは受け入れた。
でも女の子を30cmの距離に張り付かせたままトイレというのはこう……終わってしまう、気がしてならなかった。だからアオは尿意と戦いながら、事態が解決してくれるのを期待するしかなく、尿意の限界はもう、すぐそこにまで迫っているのだ。
というわけで。
次なる神社を目指すのだが。
このへんの神社はもう、流れ作業で巡っていき、詣でども詣でども特に何もなかったため……
アオは、こう告げるしかなかった。
「電車に乗ります、4人で」
おしっこを我慢しているアオの表情はやけにシリアスで、真夏の炎天下にいることによって垂れた汗が、やたらと発言に深刻な空気をまとわせていた。
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