4 お弁当作りと朝ごはん

朝の6時。

いつもより少し早く目が覚めた。


部屋着から制服に着替えて、髪をハーフアップにする。

朝起きてからお弁当を作るのは中学生になってから私の日課だ。

お母さんは一日中忙しいから自分でやるって決めたんだ。


身だしなみを整えたら静かに1階に降りる。

宵町くんと有明くんはまだ寝てるからね。

4月と言っても朝はまだ少し寒い。

だから寝る時は、部屋の戸は閉めるようにしている。


階段を降りると、なぜか良い匂いがした。

この匂いは……卵だ。

もしかして、お母さんもう起きてるのかな。

急いで降りると、やはりキッチンにお母さんがいた。


「おはよう、お母さん」


「おはよう、瑠愛」


お母さんは声だけ私によこした。


「えっと、お弁当作ってるの?」


「そうよ。さすがに3人分は瑠愛も大変でしょう?」


たしかに大変だけど、どうってこともない。

むしろ私の分まで申し訳ない。


「手伝うよ!」


「ふふ。ありがとう」


キッチンには私用の薄紫のお弁当箱、そして、宵町くんと有明くん用のお弁当箱もあって、既に唐揚げが入っていた。


私に気を遣って今、お母さんは3人分のお弁当を作ってくれてる。

さすがに申し訳ない。

明日からはもっと早く起きないと。


キッチンにあるちくわ、ミニトマト、きゅうりを順番に小さくてかわいい串に刺していく。

きゅうりを一番下にすることで起きやすくなるし、トマトが潰れにくくなる。

これが意外と見栄えを良くしてくれるものなんだよね。

これを6本作って、2本ずつお弁当箱に詰めていく。


お母さんは丁寧に卵焼きを巻いていく。

私も春休みにいっぱい練習してできるようになった。


近くにめんつゆがあるから今日は甘じょっぱい卵焼きだ。

うちの家の卵焼きは基本しょっぱいか、甘じょっぱいの2種類。

というのも、甘いのは私が苦手だからだ。

時々友達と交換するけど、家によって味とか違って楽しいなって思う。


少しして、炊飯器の音が鳴った。


「瑠愛、ご飯をお弁当箱と、お茶碗に入れてくれる?」


「うん!任せて!」


しゃもじを取って、炊き立ての白ごはんをお弁当箱に詰めていく。

わあ、ほかほかだ!!


お弁当箱3つにご飯を詰めたらふりかけをかけていく。

うちの家はふりかけを買いだめしている。

味に飽きないようにいろんな味を集めているんだ。

のりたまに、明太子、わさび、味道楽にすき焼き味。

どれも好きだけど、今日はのりたまの日だ。


適度な量にぱらぱらかけたらお弁当は完成。

今度はお茶碗にご飯をよそっていく。


「「おはようございます」」


キッチンの横から2人の声。

そこには真新しい制服を着て、身だしなみばっちりの宵町くん、有明くんがいた。

昨日会ったばかりだけど、なんだか新鮮な感じ。

トレードマークのメガネがきまってる。


どうやら転校手続きは昨日までには済んでいたらしい。


「おはよう、2人とも」


「お、おはよう」


昨日のこともあるから若干気まずい。

テレビの件からほとんど言葉を交わすことなかったんだ。


「もう少しでできるからダイニングで待っててくれる?」


お母さんがそう2人に促す。


「え、でも、手伝います」


宵町くんが少しびっくりして言うけど、お母さんはニコッと笑う。


「いいのよ。初日なのだから」


優しいお母さんの言葉に2人は顔を見合わせて、ペコっと丁寧に「ありがとうございます」と言って、ダイニングのほうへ行った。


3つのお盆に炊き立てご飯、豆腐の味噌汁、卵焼き、漬物、それからフルーツヨーグルトを置いて、一旦カウンターに置いてからダイニングに運んでいく。


ダイニングには2人が大人しくちょこんと座っていて何だか微笑ましい。

やっぱりまだ緊張しているのかな。

それともお母さんと話すのが初めてだからかな?


私はどちらかと言うとどう接したら良いのかがまだわからない。

昨日は申し訳ないことをしたし、何なら相手は同級生の男子だ。


先に宵町くんの所に朝ごはんが入ったお盆を置く。


「ありがとう、黒崎さん」


と、宵町くんは少し笑って言ってくれた。


「う、ううん。いいの」


宵町くんは昨日のことは何とも思っていないみたいだ。

すこし不思議に思いながら有明くんにも運ぶ。


「あ、ありがとうございます」


有明くんはまだ緊張気味で、小さい声で言った。

その様子を宵町くんが見ていて、少し呆れながらも微笑んでいた。


残りの私の分を運び終えて、キッチンを見ていると、お弁当も完成していた。

あとは冷ますだけだ。

この頃にはちょうど7時だった。


「それじゃ、3人とも、お弁当忘れずにね」


「うん!」

「「はい!」」


お母さんは1階の自分の部屋に戻った。

基本私たちが朝ごはんを食べてからお母さんは朝ごはんを食べる。


「おばさん、朝ごはん食べないの?」


宵町くんが不思議そうに私に聞いてきた。

有明くんもお母さんが行った方をじーっと見ている。


「うん。カフェの仕込みもあるからそっちを終わらせてから食べるのがお母さんのルーティンなんだ」


「そうか、カフェの仕込みもあるのか……」


宵町くんはなぜか考え込む。


「冷めちゃうから早く食べよう」


「あ、そうだね」


手を合わせて「いただきます」と言う。


お母さんの味噌汁は少し薄めだけど、飲みやすい。

私は特に豆腐と、卵の味噌汁が大好きだ。


「わっ、卵焼き美味しい……!」


宵町くんが声を上げた。

目がキラキラしてて何だか可愛い。


「うん、美味しい……」


有明くんも同じ反応だ。

あはは、2人とも可愛いな。


「何を入れたらこんなに美味しいの?」


「めんつゆだよ」


「あーめんつゆ。そういえばキッチンにあったな……」


す、すごい、よく見てたね。

少ししか会話してないのに。


でも、卵焼き気に入ってくれて良かったな。

私もお母さんの卵焼き、大好きだもん。

いつかお母さんの味を作れるようになりたいって昔から思ってた。

まだまだ近くはないけど、近づけたらいいなぁ。


「「「ごちそうさまでした」」」


ほぼみんな同時に食べ終わって、お盆を洗い場に運ぶ。

お母さんの仕事を増やしたくないからご飯の皿は自分で洗う。

これもうちのシェアハウスのルールだ。


洗い終わった時にはもう8時前だった。

8時までには家を出ないと学校に間に合わない。


お気に入りのトートバックにお弁当を入れて、玄関に向かう。

先に2人に靴を履いてもらって、あとから私は急いで履いて、家の鍵を閉める。

隣のカフェに向かうため、裏道を通る。

後ろから2人ともついてくる。


カフェのドアを開ける。

厨房に入ると、お母さんが作業をしていた。


「お母さん、行ってきます!」


「「行ってきます」」


私たちの声にお母さんが気づいて、わざわざドアのところまで来てくれた。


「いってらっしゃい、瑠愛。2人も」


お母さんが優しく笑ってくれた。

私、お母さんの笑顔が一番大好きだ。

見たら自然と元気になるもん。

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