2 新しいシェアメイト

うちが経営しているカフェは「陽だまり」っていう名前で、週替わりメニューや月替わりデザート、日替わりセットとかを主に出しているんだ。


嬉しいことに、口コミの評判も良いし、インスタやTwitterに写真をアップする人も増えたから最近は常連さんも増えているんだ。

丘の上という行きにくい場所にあるのに、ものすごくありがたいことだ。


あと30分で閉店なのに、カフェ店内は賑わっていた。


「あら、瑠愛ちゃん。おかえりなさい」

「おかえり、瑠愛ちゃん」

「おかえりなさい」


「わっ、信子さん、佐恵子さん、紘子さん!ただいま!」


カフェに入るなりにこやかに「おかえり」と言ってくださったのは常連さんの3人組。

週に一回は来てくださるし、とても優しい人たちなんだ。

今はコーヒーや紅茶など飲み物を飲んでたみたい。


「瑠愛。おかえり」


「ただいま!お母さん」


厨房のカウンターからお母さんがひょこっと顔を覗かせた。


私は近くに鞄を置いて、カウンターの前に立つ。


「お母さん、何か手伝うことある?」


「そうね……そうだ。今日からシェアハウスに新しい入居者が来るのよ」


「え!?シェアメイト!?」


「そう。ずっと前から連絡が来ていたんだけど、昨日の夜入居が決まったのよ」


なんて話すお母さんはどこか嬉しそう。

……わかる、私も嬉しいもん。

ここ最近、シェアハウスには私とお母さんしか住んでいなかったから少し寂しかったんだ。

何だかワクワクしてきた……!


「閉店時間くらいに着くみたいなんだけど、パートに行かないとだから、部屋の案内と、夜ご飯の準備をお願いしても良い?」


「うん!任せて!」


「冷蔵庫に人数分あるからレンジで温めて食べてね」


「わかった!あ、時間までお皿洗いするね」


「ふふ。ありがとう、瑠愛」


厨房に入って、洗い場に溜まった皿を丁寧に洗剤で洗っていく。

横目でお母さんを見ると、忙しそうに動いている。

アルバイトの大学生もいるけど、今日は少ない日だ。


たしか、閉店時間だって言ってたよね。

てことは、あと15分くらいかな。

うん、この量なら間に合う。



サッと洗い物を済ませたらもう3分前だった。

やば、意外と時間がかかった。

もう制服のままでいいや。


カフェの店内にはもうお客さんはいなくて、しん、と静まり返っている。

お母さんと一緒にカフェの裏口を出て、お母さんはカフェの鍵を閉めた。


「それじゃ、パートに行ってくるね」


「うん、いってらっしゃい!」


カフェの裏は畑になっていて、この時期は苺の赤い実がなっている。


費用を少しでも抑えるために、野菜や果物を育てているんだ。

カフェの料理にはもちろん、自分たちが食べるご飯にも使うし、採れたてを販売することもある。


苺はそろそろ収穫ごろかな。

トマトときゅうりはそろそろ苗を植えないといけない。


ネットで畑全体を覆ってるし、看板犬のカーラがときどき畑を見張ってくれるから害獣の被害もほとんどない。


「そろそろ時間だ!」


カフェとシェアハウスの間の裏道を通って、シェアハウスの前に着く。

私の気配に気づいたのか、カーラの鳴き声が聞こえた。


声が聞こえた方に行ってみると、既に新しいシェアメイトらしき人が来ていた。

スーツケースを持っているからきっとそうだ。

わっ、待たせてしまったのめちゃくちゃ申し訳ない!!


「あの、こんにちは」


私の声に2人の青年がこちらを見た。

ワン!とカーラが私に寄ってくる。

どうやら2人はカーラと遊んでいたみたいだ。


「あはは、カーラ!」


くりくりした目で私を見て、まるでもっと遊んで、と言っているみたい。

でもこれは、遊び疲れたーって言ってる顔だな?

あまりにもカーラが可愛すぎるから頭を撫でる。


「こんにちは」


まず私に声をかけてきたのは黒いおしゃれなメガネをかけた方の青年だった。

サラサラの黒髪にくりっとした大きな瞳。

背も高くて、すらっとしている。

高校生くらいかな?


「私、シェアハウスに住んでいる黒崎瑠愛です」


よいまちすばるです。こっちはありあけほく


もう1人の方は柔らかそうな茶髪に、丸っこくて細い縁の茶色のメガネをかけている。

あ、私、あーいうメガネ好きだな。

宵町くんが紹介してくれたけど、有明くんはチラッと私を見て、ぺこっとしただけだった。


「ごめん、北斗は人見知りなんだ」


「そうなんですね」


黒髪の方が宵町くん。

茶髪の方が有明くん。

よし、覚えた。


それにしても2人とも背が高いなぁ。

170は超えていると思う。

一体何年生なんだろう。

やっぱり高校生かなぁ。

だとしたら、高校生のシェアメイトは初めてだ。


「黒崎さんって琴ヶ丘中に通っているんだよね。僕達と同じだ」


宵町くんがそう言った。


ん?僕達と同じ??


「もしかして、中学生……?」


「うん。中1だよ」


「ええっ!わ、私もです。高校生だと思ってました」


「そ、そうなんだ?」


「はい。身長ものすごく高いので」


「あはは。ありがとう」


宵町くんが小さく笑った。

わっ、彼、こんな笑い方するんだ。

メガネかけているから固いイメージだったけど、無邪気で可愛い笑顔に思わずドキッとしてしまった。


えー、中学生かぁ。

同級生とシェアハウスに過ごすのってちょっと緊張するなぁ。


「そうだ、お部屋の案内します」


「ありがとう。てか同級生なんだから敬語じゃなくていいよ」


「え、わかり…わかった!」


「北斗!黒崎さんが部屋案内してくれるんだって!」


いつの間にかカーラと遊んでいた有明くん。

カーラも有明くんに懐いている。


「わかったー」


カーラと遊んだからか、有明くんの表情が少し柔らかくなっている。


2人と一緒にシェアハウスの中に入る。

そういえば2人はどういう経緯でうちのシェアハウスに住むことになったんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る