第10話 第一村人発見

 工業高校が異世界に転移して1ヶ月が過ぎた。

生徒達は落ち着きを取り戻し異世界に順応し始めた。


 意外と教諭より生徒の方が順応性が高かった。普段から異世界物の小説やアニメ等に親しんでいるからだろう。心配なのは社会科教諭の御前崎太郎50歳だろう。


 武装化計画の会議以降、完全に鬱状態になってしまった。

自分の通勤用の軽のライトバンに閉じこもり出ようとして来ない。

 食事だけは食堂に取りに来るという完全な無職の無駄飯喰らいに成り果てていた。


 食堂に来ても誰も話しかけない。教頭派も瓦解して誰も彼に寄り添わない。

元々、尊大な性格をしていた事もあって、腫れ物に触るように誰一人、話し掛けない。


 そんな不穏分子を含みながらも生活の基盤は着々と進んで行く。

工事が順調に進んだのは土魔法に目覚めた者達が活躍したからだろう。


 学校の周りの水堀から更に周囲1キロほどにまた水堀と土塀を造った。

これら周囲の土地は畑にするつもりで計画が進められた。


 学校周辺の地図作りもドローンを使って周囲10kmの範囲で作成済みだ。

西1kmに川が有り西南方向に⒈5kmには森が南には10kmの所に山脈が有る。


 問題は東に6kmの所に村らしき集落が有る事だった。そして街道が通っている。

いずれ現地人との接触も考えられる。何より食料を交易しないと飢えてしまう。


 現在は森林地帯で採取している果実や木の実等があるが焼け石に水状態だった。


 そんなある日突然に正門に荷馬車がやって来る。

正門から5kmほど迄東の街道まで道は整備されていたが、残り1kmはワザと未整備だった。


 正門の水路には跳ね橋が造られている。結構な重量が有るがウィンチと滑車を使ってスムーズに昇降が出来る。


 正門の櫓で見張りに就いていた生徒から携帯から中川校長に緊急連絡が入る。

『一台の荷馬車がこちらに向かって来る』と、各科の学年主任達に連絡が入り正門に集合する。跳ね橋は降ろしたが校門の鉄扉は閉めたままにしてある。


 緊張して見守る学校側の関係者だが、櫓で見張りに就いていた学生はワクワクしていた。ステータスボードが有るんだから、きっと会話は通じる筈だと謎の自信があった。


 『あのう、此処はなんて村?それとも砦?』何故か異国の言葉という事は分かるのだが、ちゃんと日本語で通じる。櫓の上の学生は「やったぁ〜第一村人発見だぁ〜」と叫んだ。


 「ここはマイスター村だ」と咄嗟に中川校長が答えた。


 「ほうぉ、すると色々な商品があるんで?」(謎の村人

 「貴方のお名前は?」(中川校長


 「これは申し遅れました。旅の商人のカークと申します」

 「こちらはウチの店員のレグスと申します」とカークが挨拶をすると隣りに座っていた14〜5歳位の少年がぺこりと挨拶をする。


 旅の商人と聞いて中川校長は密やかに胸を撫で下ろす。言葉が何故だか通じるし

転移後、色々と異世界とか転移とか生徒に教えて貰ったが異世界転移特典で異世界言語理解というモノが有ると聞いていたが、その通りで良かったと思った。

 

 『通じなければ?』と聞いたら『そんなの無理ゲーじゃん』と言われた事を思い出した。どうやら無理ゲーにはならなかった様だ。


 それにしても改めて此処は何処だ。日本では無い様に思える。

何しろ商人を名乗る男達の容姿が完全に西洋人のそれなのだから。

 でも日本語で通じる不思議。


 この商人と取引が出来れば大きな問題の食料問題が解決するだろう。

内心でガッツポーズを大きく取った中川校長だが許して欲しい。

 

 「コレはコレは遠くからのお越し痛み入ります。どうぞ中へ」(中川校長


 ゴロゴロと重い鉄の校門が開けられる。横に軽くスライドする鉄の扉にビックリするカーク達。暫くして荷馬車を校内に乗り入れるカーク達だ。


 乗り入れる馬車を技術者の目でじっくりと観察をする各科の主任達だった。


 馬は日本と変わらない馬に見えるが、やや馬体が逞しい。

馬車は板バネやスプリングも無く車輪もゴム部品は無く木材だった。ブレーキは板を押し付けるタイプか、コレは技術的優位に立てるなと確信した瞬間だった。


 「何を取り扱いしてますか?」と中川校長が『ギョ!』として建物を見ているカークに話かける。カークは繋ぎ目の無い石作りの建物に凄く驚き、ふんだんに使われている硝子に大層ビックリをした。あれ程の硝子は王宮や教会でも使っていない。


 『しがない旅商人だったが此処では大商いが出来る!』とカークはカークでガッツポーズを心の内でしていた。


 「食糧品と色々な雑貨でさぁ」(カーク

 「どんな食糧品がありますか?」(中川校長

 「大麦や小麦、後は色々な野菜でさぁ」カーク

 「ふむ、カークさんご相談なんですが、物々交換は可能ですか?」(中川校長

 「どんな物でございますか?」(カーク

 「例えば、板硝子とか如何です?」(中川校長

 「えっ!良いんですか?」(カーク

 「先程から大層興味がお有りの様で」(中川校長


 

 後を振り返り小声で佐々木希養護教諭に話し掛ける。

『急いで鑑定持ちの生徒を呼んで』この校長、中々、異世界に馴染んでいる様だ。


 


 

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