第5話 野戦築城をして、その後は?
中川校長は忙しかった。転移事件に巻き込まれて校内に取り残され人数の把握。
ライフラインの確保、食事は?寝床は?と仕事は多岐に渡った。
そして異世界の敵性生物に囲まれている現場での生徒から提案の学校を中心とした野戦築城とやら。
これは意外な事にインテリアデザイン科の麻生とかいう生徒と太田組現場監督の有栖川監督が意気投合するという訳の分からない化学変化を起こして太田組作業員と、
体育会の生徒有志が警備と作業の手伝いをする事になって作業中で有る。
建築現場に土木重機の中型のユンボがあった事が作業の効率アップになっている。
フェンスとブロック塀の外側に幅3m、深さ2mの溝を掘り込み水堀とする。掘った土はフェンスとブロック塀との間に盛り土として盛り上げる。
堀には水を引きたいので、周辺の水源がないかと探している。そして捜索といえばドローン。科学倶楽部のドローンを使って周辺区域を調査中で有る。
もし近くに水源が有れば即席の用水路を作り水堀にする予定になっている。
転移時は夕方であったが転移先では朝になっていた様で身体は辛いが作業は捗る。
休憩は適時取る様に決して無理をしない様に監督に言い含めておいた。
食料は高校が緊急時の避難場所で有ることから災害用備蓄倉庫に二千人が二週間暮らせるだけの食料(2000x3x 14=84000食)と水と毛布があった。
食料関係でいえば食堂と売店のおばちゃん関係が8名と食料に納品に来ていた冷凍納品車1台、その運転手が1名と食料が冷蔵庫、冷凍庫に4000食分が有った。
合計88000食を食い尽くす前に食料調達をしなければならない。
水は飲料用では無かったが25mプールに並々と有った。コレは生活用水に使える。電気は太陽光発電が屋上に有り当面の用は足りた。
残るは生徒が586名、教師、事務員含めて45名、食堂関係8名と食料配送車の運転手1名、本田組の現場監督と作業員が17名、合わせて657名がこの転移した異世界で無事に生き抜いていかなければならない。
中川校長は事の異常性と責任の重さに吐きそうであったが自分がリーダーシップを取らなければと自分自身を叱咤した。
それにしても教頭が教育組合の活動で出張していたのは幸いだった。
教育理念と言うよりは或る党の理念を優先し日本国旗の日の丸を揚げる事さえ反対するという、何処の国の手先かと思う程の思想の持ち主だったからだ。
所謂、教頭派といわれる教師達が教育現場を休んで研修名目で計9名程が居なかったのが今後の話が簡単に纏まった要因だと思う。
総論反対で具体的な事は何も言わない、所謂、お花畑な人達だからだ。
彼等がいれば何も決まらないだろう。民間人の太田組の作業員を使うにしても何の権限で使用するのだとか、賃金はどうするのかとか、今現実に対応しない議論ばかりをするだろう。特に私の主張する事には『なんでも反対』男だからだ。
あの男、教頭は今ここに転移(生徒達や若い先生達が主張する)という事象には対応不可能だろう。秀才なのだが教科書に書いてある通りの事しか対応出来ない。所謂マニュアル男だからだ。しかもそのマニュアルが狂っている。
『いかん、いかん、思考が悪い方向に向いている』中川校長は思考が暗黒面に行きかけるのを修正する。
ふと思い出すのは子供の頃に読んだ漂流◯室の漫画の事だ。
あれはサバイバルの漫画だよなぁ、そういえば建築科の桜井先生がキャンプとか好きだったよな。オブザーバーとして意見を求めた方が良いよな。
直ぐに思い立ち教職員と生徒の代表達を校内放送で呼び出す事にする。
生徒達の代表は各倶楽部の部長、副部長、各クラスの委員と生徒会役員達だ。
勿論、転移事件に巻き込まれて校内で残って居た者達での会合になる。
ピンポンパンと放送のメロディーが鳴り必要な事を伝えていく。
その放送を聴きながら、『ふむ、文明というものは素晴らしい』などと思う。
30分後に会議室と定められた体育館に校内に残っていて呼び出された全員が集まる。教職員の45名と民間業者の代表者達と残りは生徒達だ。
民間業者の代表は食堂のおばちゃんが2人と工事関係者が3人だった。
生徒は生徒会役員と各倶楽部の正副部長で校内に居た者達で役30名程だ。
生徒会役員と部長、副部長は兼任を含めて複数人がダブっている。
計80名だ。この人数が取り敢えずこの高校に居る657名の運命を決めていく。
「皆さん、現状は不安でしょうが今後の事を話し合いたいと思います」
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